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レガシーな舞台でスタートアップは何ができるのか エブリイ×リレーションズ

すごいぞ地方スーパー、鮮度抜群の店舗が始めるO2Oアプリ施策

2015年10月16日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●青野文幸

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スーパー業界でのO2O取り組みの成果とは何か

実際に配信されているアプリのイメージ。

 エブリイにおけるスマホでのO2O施策は、広島市内の4店舗で実験的に10月1日より実施されている。Android、iOS用のアプリを提供し、チラシの情報や鮮度高い商品の入荷情報、イベント情報などを発信するというものだ。

 一般的にスーパーで扱っている日々の生鮮食品を宣伝できる場としては、新聞の折り込みチラシなどが主だが、例えば新聞のチラシの閲覧率は3割と言われている。1枚の印刷量を10円で試算してみると、一定の地域に配るのであれば、折り込み1部につき10円で15万部、週3回で月4週、月間で1800万円。年間で2億円は超えてしまう。それだけのチラシがまかれていても、そのうちの何人見て、どのような反応をもっているのか定量的には確認できない。

 また、あるスーパーで実験的に週に2回打っていたチラシの量を半分にしたところ、売り上げが変わらなかったというデータもあるという。実際、チラシで情報収集する一定の層は当然いるが、新聞購読率も下がっている。チラシに”かつてのような価値”はなくなっていると仕掛ける側もわかっているが、ほかに出す場所もない現状といえる。

 エブリイについていえば、チラシの電子配信を行うシュフーやクックパッドといった外部メディアの利用は行っていたが、社内だけでのオウンドの取り組みまでは進んでいなかった。地方にあって、ヒト・モノ・カネのうち、足りないと言われるのはヒトだと言われるが、アプリをどのように活用して集客手法につなげるかといったコンサル的な側面を今回リレーションズ側が担っている形だ。

 エブリイのリレーションズとの取り組みでは、近隣の買い物客、もともとエブリイが好きな人が最初のユーザーになると予想している。そのとき重要な指標は、滞在時間よりも情報の開封率だ。いかに鮮度の高い情報を、エンドユーザーが望む形で提供できるかがカギとなる。

店頭での商品の新鮮さとそれを販売する人が、ほかにはないエブリイの企業価値となっている。

 だが、インセンティブで仕掛けるようなクーポンを使った来店サービスや値引き施策は行われていない。「単純なクーポンや販促にはこだわりたくないと、リレーションズさんにも伝えている。まずはすでに来店していただいているお客様に、今までお伝えしきれていなかった商品のこだわりやエブリイの魅力をしっかり伝えていきたい」と小林氏は語る。

 通常、このようなO2Oでのアプリを使った施策の場合、アプリからの特典によって開封率や使用率といったデータを獲得して、大量のデータをさばくことで商品開発や情報発信、パーソナライズされたサービスといったメリットにつなげるが、そのような“わかりやすい成果指標”は否定されている。

 エブリイにおいてアピールすべき部分は、値段やサービス面だけではない。小林氏がアプリを通して伝えられるものだと挙げるのが、 “鮮度”と“人”だった。これこそ簡単にはマネできない点で、エブリイには実際に行かないとわからないインストアプロモーションが数多い。

 特に、試験的にアプリでの情報発信を行っている4店舗ではそれぞれに異なるアプローチがとられており、それぞれが自由に個性を打ち出した情報発信を行っている。もともと強みとして持っている鮮度というメリットを、チラシなどではみえなかった”人”も加えてアピールするやり方は、“スーパーが本来持つ価値“をどのようにアプリなどの取り組みに生かすかという挑戦だろう。

 実施から3カ月でのユーザー数目標は、4店舗合計で1000ダウンロード。一般的なスーパーでの同じような取り組みでは、3カ月で300~400程度が目安だ。トライアルの施策は、店頭での販促物のみ。有料施策は使わずに、ウェブ業界目線で言えばオーガニックにダウンロード数を稼いでみる形だという。

 アプリでは喜ばれる滞留時間も、限られた駐車場の回転率が求められる地方スーパーでは歓迎されないという予測もある。また一方で、アプリで発信した商品が思わぬ来店動機につながることもあるだろう。

 また新規出店店舗の売り上げ成長速度と顧客動向の関係についても、アプリからのフィードバックによって、これまで経営層やマネージャーレベルが個人の勘や経験として持っていた予想の裏付けにつながる見込みもある。

 どんな情報発信に価値があるのか、その取捨選択からこれまで見えなかった顧客の姿を浮き彫りにして、店舗にフィードバックできるかがこれから勝負となる。

「小売業はとても面白い」

 「今、流通業界はものすごい激流の中にある。流れが速い中で小さい会社がどうやって魅力を出していくか。いろいろな打ち出しは行っているが、まずはお客様に変化を見てもらいたい。リレーションズさんとのやり取りは変化・進化のスピードが早く、専門性や革新性を備えた優秀なメンバーが集まっていると感じた。そういった方たちとの連携により、社内にも新しい風が吹き始めている。エブリイとしては、今後自社だけでなく各分野のエキスパート達とタッグを組んで、新しい取り組みにチャレンジし続けたい。そういうことをコツコツ続けていくと、小売業はとても面白い面が見えてくる。今日、明日だけではない、先を見据えて行う取り組みを継続したい」

 一方で、「規模に対してこの5年で倍々に急成長している会社なので、スタートアップと目的意識が近い気風も感じる。レガシーな業界にありがちな“遅さ”を感じることは少ない」と語るのはリレーションズの担当者。

 レガシーな業界の中で、鮮度と人というほかができない取り組みを行っている独自のチェーンに、ではスタートアップはどのような視点やテクノロジーが加えられるのか。

 次回は、地方スーパーが無印良品や東急ハンズ並みの武器をどのように備えるかについて、表からは見えないスタートアップ側の視点での取り組み、アプリの裏側の仕組みについてお届けする。

■次回記事

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