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坂西CEOに起業の経緯や事業のコンセプトを聞く

異文化交流の楽しさを!多言語翻訳の八楽が描く世界観

2015年10月14日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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法人向けに多言語翻訳サービスを展開する八楽。日本企業がグローバル化するのにあたって障壁となる「言葉の壁」を取り払い、異文化交流の楽しさを伝えていくのが使命だという。そのミッションを推し進めるため、このほど個人向けのサービスも開始。CEOの坂西優さんに起業の経緯や事業のコンセプトを聞いた。

日本酒の販売からWebサイト制作会社、そして翻訳へ

 八楽を立ち上げた坂西優CEOの経歴はやや変わっている。大学卒業後、ロサンゼルスに留学した坂西さんは、サンフランシスコで日本酒の販売に携わる。そして、転勤で行ったニューヨークで仕事を辞め、次にスタートアップの立ち上げ支援していたが、「そこでスタートアップを見ているうちに、自分でもできるんじゃないかと思った」(坂西さん)と起業家へ転向。ニューヨークで日系コミュニティ向けのWeb制作の会社を立ち上げる。日系コミュニティ向けが難しかったため、米国の企業向けに日本向けサイトを立ち上げるサービスに変えたところ、そこそこ儲かるようになったという。

 職を転々としながら、自身の進む道を探し続けた20代。「技術に強いわけでも、営業ができるわけでもない。起業したいという感じでもないので、なりゆきですかね」と飄々と語る坂西さんだが、次のトレンドを見出すための勉強や研究・調査には人一倍時間をかけていたようだ。

八楽 CEOの坂西優さん

 こうした中、坂西さんが米国で感じたのは、日本が絶対に勝てない米国の強み。「米国で働いていたのでわかるのですが、アルゴリズムや資金力では勝てないことを肌で感じていました。ニューヨークのスタートアップオフィスには、すごい人たちが山ほどいました」と坂西さんは語る。

 2009年頃に帰国し、外資系の企業で仕事をしながら、プログラミングを学習。そのかたわら、次の展開について考えた時に、確実に伸びていたのが翻訳という市場。もともと英語が多かったインターネット上の言語がどんどん多言語化しており、特にアジア圏の言語は、すでに50%以上になっていたという。米国での就業経験を持ち、米国の強みを肌で感じてきた坂西さん。「アジア言語を征することが、世界を征することだと思った。米国の人たちに勝つには地の利を活かすことしかないと思った」と考えた坂西さんが2009年に立ち上げたのが多言語コミュニケーションをメインに据えた八楽である。

インドでの出会いから機械と人間の関係を学ぶ

 2010年創業当時、坂西さんがベンチャーキャピタル向けのビジネスプランとして作ったのは、「自動翻訳機能を持った2ちゃんねるのようなもの」(坂西さん)だったという。翻訳された日本のアニメを世界に発信し、グッズを売ることで収益を得るというプランは、スタートアップコンテストに2回も優勝。資金を得た坂西さんは、翻訳が可能なアニメ掲示板「World Jumper」を立ち上げる。

 World Jumperはユーザー数自体は劇的に伸びたが、物販での売り上げが頭打ちだったという。画像や趣味の掲示板を展開したり、掲示板をFacebookのアプリにし、話題にはなったが売り上げは思うように伸びなかった。「ユーザーとしては東南アジアの十代が多かったんですが、物価が違いすぎて、お金をかけられなかった。現地のコミケにも足を運んだんですが、彼らは1万円もするドラゴンボールのフィギュアを買うより、全部手作りやコピーでまかなってしまうんです」(坂西さん)。

 行き詰まりを感じた坂西さんはインドに放浪の旅に出る。そこで出会ったインド人は東北大学を卒業し、日本語を普通に話せた。彼は坂西さんを機械学習の専門家や言語教育の最高峰であるインド工科大学のボンベイ校の教授など、さまざまな人に引き合わせる。「そこで重要だと思ったのが、機械翻訳の精度を向上させるのでではなく、いかに機械翻訳を使うことでいかに人間の生産性を上げるか。コンピューターによるアシストが機械と人間の生きる道であるということをインド人にこんこんと説かれた」と坂西さんは語る。

 坂西さんはそのインド人を日本に連れて帰り、Webサイト専用の翻訳ツールを開発。さらにサイトのみならず、ドキュメントやメールの翻訳まで発展させたのが現在提供している「ヤラクゼン」というB2B向け翻訳サービスだ。坂西さんは市場動向について「やはり翻訳市場の9割は法人向け。長期的にはデジタル化や企業のグローバル化がベースにあり、短期的には円安による観光客増や東京オリンピックのような需要もある。海外進出するにはどうしても翻訳が必要になるので、情報発信としても多言語対応が大きくなっている」と語る。

 インドで吸収したコンセプトを元にしたヤラクゼンは、あくまで翻訳のアシストとして機能する点、そして学習結果を蓄積できるユーザーごとのデータベースが特徴になっている。坂西さんは「一見するとGoogle翻訳と同じようなインターフェイスですが、翻訳をスタートすると、翻訳結果ではなく、文ごとに色分けされて表示されます。過去に一致した文があれば青、一部一致したら黄色、一致しなければ青になっており、それらを簡単に修正できる。修正した結果はわれわれのフレーズ集に溜まっていくので、次使う時には精度が上がっています」と語る。

 ユーザーとともに辞書が成長し、カスタマイズされるのが、ヤラクゼンの最大のメリット。そして、最終的に翻訳できない箇所だけ、ヤラクゼンに対して翻訳を依頼することができる。八楽では多くの翻訳家をクラウドソーシングで抱えているため、非常にスピーディに翻訳作業が進められるという。

(次ページ、機械翻訳、クラウドソーシング、プロ翻訳まで揃える理由)


 

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