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iOS 9の隠れた目玉機能、「広告ブロック」とは何か? - モバイルWeb広告における影響を考える

2015年09月22日 09時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)、編集●ハイサイ比嘉

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Appleが「News」アプリをリリースする背景

 iOSを含むコンテンツブロッカーの仕組みがモバイルプラットフォーム全体にどれくらい広がり、広告排除による損失が今後どれだけになるのかは、いまだ推測の域を出ない。

 ただ、ニュース配信などを行なっているサイトでは、Webサイト経由でユーザーに直接届ける以外に、自ら閲覧用のアプリを提供したり、あるいはNewsstandなどの仕組みを介してサードパーティ用プラットフォームでの配信も行なって収益機会を増やす方向性を模索している。サブスクリプションを含むコンテンツの切り売りをするケースもみられ、収益構造は多様化しており、こうしたサービスでは必ずしも広告ブロック機能が即ビジネスを破壊するわけでもないようだ。

 こうした配信先プラットフォームのひとつとして提供されているのがAppleの「News」アプリだ。Newsstandでは電子書籍スタイルでのコンテンツ提供がメインだったが、「News」アプリはWebサイトのフォーマットを若干改変したキュレーション型アプリの体裁を採っている。こちらのレビューにもあるように、現状の「News」アプリでは広告が基本的に排除されているため(ベータ版の状態だとみられる)、どのようにコンテンツ提供者が利益を得ているのか不明だ。あるいは、ベータ期間のみApple側が対価を支払っている可能性がある。

 もともとAppleが「News」アプリをリリースした背景には、Facebookが6月にスタートした「Instant Articles」への対抗があるといわれている。著名ニュースサイトや新聞社など、コンテンツパートナーとの提携でニュース記事のヘッドラインをユーザーのタイムライン上に表示させる機能で、同社の収益源のひとつとして注目を集めているものだ。Facebookは最終的にはリアルタイムでのトレンド解析も交えて、FacebookをTwitter以上にリアルタイム性の高いニュース検索ツールとして活用してもらう手段としても考えているようだ(関連リンク)。

 Instant Articlesでは、コンテンツパートナーの自社広告の場合は100%、Facebookの広告プラットフォームを利用した場合には売上の70%を配分としてもらう契約となる。ユーザーのFacebook内の巡回度合いやアクセス比率が高いことを利用したサービスであり、コンテンツパートナーが収益源のひとつとしてニュース記事を提供する理由もこの点にある。

 Wall Street Journalによれば、AppleのNewsアプリも同様のモデルを採用するようだ。自身で広告を販売したのであれば100%、Appleが広告販売を担当した場合には7:3の分配比率となる。

 現在、特定のメディアには特定のスポンサーがつく形態となっているが(例えばGQにはBurberryといった具合に、特定の広告スポンサーがついている)、これは今後広告販売形態の変化により違ってくるだろう。ただ、Apple自身はFacebookほどユーザーの取り込み度が高くなく、例えば2014年にFacebookが米国内のモバイルディスプレイ広告の37%を占めていたのに対し、Appleはわずか5%と低い。そのため、Appleは必ずしもコンテンツパートナーに対して強気の条件を提示できるわけではなく、むしろFacebookに対するカウンターとしてAppleの存在に期待を寄せる関係者もいるようだ。

 その意味では、『Appleが自身の広告プラットフォームに誘導するために、広告ブロック機能を導入して「News」アプリへの誘導を図っている』という指摘が的を射ているとは限らない。

 コンテンツ配信の手法は日々変化と進化を続けており、コンテンツ配信側は収益化の方法を常に模索している状態だ。広告ブロック機能の導入はきっかけのひとつに過ぎず、リスクを分散しつつ、収益構造を変化させていく過程の只中にあるのだろう。

 現状では直接的な影響は軽微だが、数年後にはモバイル世界における広告やコンテンツ収益に関する構造も変化し、多様化してくると考える。


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