わずか1年で新プロセッサーを開発した
MTA-2
今回のスーパーコンピューターの系譜は前回に続きMTAの話である。1997年のMTA-1から5年後になる2002年、旧Tera ComputerことCray Inc.はMTA-2をリリースする。
MTA-1とMTA-2は、アーキテクチャーはほぼ同じで、相違点は製造プロセスであった。MTA-1は1つのプロセッサーが26個のGaAs(ガリウムヒ素)製の集積回路(結構大規模なASICだったらしい)を利用していたが、これをCMOS製に置き換えた形になる。
もともとTera Computer自身はCMOSに関して知見を持っていたわけではないが、旧SGIのCray部門のリソースと開発人員を引き継いだ結果として、CMOS回路に関するノウハウも手に入れたようだ。
もっともその元になるCRI自身も、もともとはBipolerでシステムを作っていたわけだが、同社が1990年に買収したSupertek ComputerがCMOSでの製造技術を持っており、これでCMOSベースのシステムの開発技術を手に入れた。
この結果としてCRIは1995年には0.5μmのCMOSを利用してCRAY J90を開発するに至り、その後SGIの傘下でやはりCMOSベースのSV1を開発。これに続きSV2などのロードマップも掲げていたため、もうこの時点でほぼ全面的にCMOSベースの開発に切り替わっていたことになる。
SGIから同部門を買収した時点で計画されていたロードマップのうちいくつかはそのまま引き続き走るが、Origin 3やSV2などは廃止されており、これらに振り分けられていた人員がそのままMTA-2に関わることになったと思われる。
実際のところMTA-2が米国海軍研究試験所に納入され始めたのは2002年のことだが、これに先立ち2001年にはすでにMTA-2のシステムがCray Inc.の社内で稼動を始めている。
買収から1年程度でCMOS化が完了したというあたりは、旧CRIのメンバーの貢献が大だったと考えていいだろう。
ただ逆に言えば、1年そこそこで新プロセッサーの開発ということは、アーキテクチャー面での見直しはほとんど行なわれなかったと考えられる。
実際、CRIあるいはSGI傘下で培ってきたさまざまな技術を入れ込めば、いろいろと問題になっていた部分(最たるものは、最低でも21スレッドを同時に走らせないとパイプライン効率が落ちる点だろう)を改善することはできたと思うのだが、それをやっていたらどう考えても1年そこそこで開発が終わるはずがない。
結局、単にGaAsで製造していたチップを単純にCMOSで置き換えるものとなったようで、MTA-1のアーキテクチャー上の特徴などはそのままMTA-2に引き継がれることになった。
→次のページヘ続く (謎に包まれる動作周波数)
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