ポタアンも小宮山さんが作ると一味違ったものに
そして、比較的最近では、ソニー初のポタアンであるPHA-1がある。これについては、自分が使いたいポタアンとしてデザインしたとのこと。携帯プレーヤーと一緒に持ち運びやすいことなどもこだわり、結束用のゴムバンドは一般的な輪ゴムでとめるようなものではなく、ボディの出っ張りに引っかけるようにして着脱がしやすいように工夫するなど、ユーザー目線でのアイデアがたっぷり詰まっている。
小宮山さんが活躍した時期は、ヘッドホンの人気が高まっていき、現在のような音楽鑑賞の主流といえるスタイルにまで普及していく時代だった。だから開発の現場にも新しいものを作っていこうとする勢いがあったし、音響設計なども含めてみんなが面白いことをやりたがるムードがあったという。
僕自身(鳥居)も小宮山さんの関わったモデルを見て、ソニーのような大きな会社では、発売が難しいと思われる個性的なモデルが多かったと改めて感じた。実際、初期のヘッドホンはソニーの看板であるウォークマンのアクセサリー的な存在だったが、今ではソニーのヘッドホンとして独自のブランドにまで成長したのもこの時期だ。
「僕は音楽が大好きで、デザイナーとしては音楽文化を面白くしたいと思っていました。アートとか文化的とか、そんな大層なものではなく、音楽好きな開発メンバーが作ったものを、その思いまで伝わるようにデザインで表現しようとしたのが僕の仕事です。いわば翻訳作業ですね。デザインには、アップルのようにアイコン的になる形をひとつ作って、それで統一していく手法があります。でも、僕はデザインは多様性だと思う。音楽の好みも含めてみな違う価値観を持っていて、それぞれに求める部分が違うと思う。究極的には一人のためにデザインしたいと思ってヘッドホンのデザインをしていました。プロダクト(量産品)の世界で一人のためのデザインというのは矛盾するのですが、現代ならそれを可能にする方法もあるはずだと・・・」
俺のやりたいことをやりやがった!! 俺にも参加させてほしい
そんな小宮山さんが、同僚であった松尾さんがJust earを立ち上げたときの衝撃は容易に想像できるだろう。「俺がやりたいと思っていることをやられてしまった。すぐに松尾のところにいって、さんざん話をしてきましたよ」
Just earのようなカスタムイヤーモニターは、ユーザーの耳型を取って制作するわけで、量産品でありながらも一品物を提供できる。しかもJust earでは、耳型を元にしたハウジングというわけでなく、耳への装着感を高めるために必要に応じて型の修正なども行うし、音質は好みに合わせて調整を行う。ユーザー一人一人のためにそこまでする量産品はあまり例がない。
「ここまでカスタムができるのに、何故デザインのパーソナライズはできないのか!? そこを厳しく注文させてもらいました」
カスタムイヤーモニターは民生用でも無骨なデザインのものが多く、その点ではJust earのデザインはよく工夫されたデザインになっている。特に第1号機であるXJE-MH1は、ブランドの顔になるデザインを作ることも大事。その点ではとてもよく出来ている。と、一応のフォローはした上で、カラバリやデザインのカスタムにも対応できるようになるのが理想と強くアピール。
Just earでは、その制作の工程で松尾さんがユーザーとなるお客さんと対面で話し合って音質調整を行うが、小宮山さんはその場にデザイナーとして同席してデザインのカスタムについても相談できるのではないかという。
「僕自身もJust earを手に入れて、音の良さを含めて気に入りました。工場も見学したし、制作のプロセスも詳しく聞きました。現在も受注から納期まで約1か月かかりますから、それならばデザインのカスタムもできるはず」
そこで松尾さんが一言。「デザインのカスタムもするとなると、さらに価格は高価になってしまいますが、それでも買いたいという人はどれくらい居ますか?」。このイベントに集まった人にはすでにJust earのユーザーも多いし、誰もが自分もユーザーになりたいと思っている人ばかりだ。金曜日の夜ということで総勢で30人前後という規模であるが、その多くが5万円、あるいは10万円増しでもいいからデザインのカスタムをしたいと手を挙げた。
Just earの魅力は、単に高価で高音質なカスタムイヤーモニターというだけでなく、言わば松尾さん自らの音質チューニングに大きな価値を見いだしていることがよくわかる。しかも、リケーブルや宝飾店などでのカスタムなどを独自に行っているユーザーもすでにいるという。