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現代の技術で蘇る、ダイレクトドライブのプレーヤー

Technicsブランド設計のキーマン井谷氏に、ターンテーブルへの思いを聞く

2015年09月21日 15時00分更新

文● 折原一也、編集●ASCII.jp

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現代の技術を使えば、ダイレクト・ドライブはより正確に制御できる

 現在Hi-Fi用のアナログターンテーブルは、現在ベルトドライブが主流で、ダイレクト・ドライブを採用する機種は非常に少ない。理由のひとつは作りやすさにあるだろう。D.D.モーターで重たいターンテーブルを回す力を得るためには、大型化してしまうし、モーターの回転がそのまま伝わるため、レコードのように非常に低速な回転速度(一般的なモーターが毎分1000回転以上を想定するのに対して、レコードの回転速度は毎分33回転あるいは45回転)では、回転ムラや振動の影響も出やすい。つまり、専用モーターを使い、適切な制御が必要で、開発が難しい。コストも割高になるのだろう。

1979年のSL-1200 MK2に使われていた部品。台座に固定されるコイルを覆うように磁石を置き、磁石の部分が回転する仕組み。コイルの部分の磁界を強めるため、鉄芯を置いているが、現代の視点で見ると鉄心の有無で磁界の強弱が発生し、微細な回転ムラの要因になると考えられる面もあるという。

 一方で、ダイレクト・ドライブは決して過去の技術ではない。より小型化し、現在ではスピンドルモーターを使うリムーバブル・ディスクやブルーレイ・ディスク・ドライブなどの駆動系で広く用いられている。そこでは、より正確に位置を検出をするためのノウハウも蓄積され、制御の仕方も進化を遂げている。

 井谷氏の説明では、ダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルが積極的に研究開発されていた1970年代には世の中にDSPやマイコンなどはなく、使うことができなかった。しかし、最新の技術を利用すればトルクのばらつきを学習したうえで制御し、コイルにかける電力を調節することも可能。これにより一定のトルクを得る=回転ムラや振動の少ない安定した回転にすることもできるという。

 同時に今回のエンジニアリングサンプルでは、磁界を強めるためコイルとコイルの間に置かれていた鉄芯を取り除き、より均一な磁界を得る「コアレスモーター」の採用といった物理的な面での改善も施し、よりスムースな回転が得られるように工夫している。

まずはHi-Fi向けアナログプレーヤーをしっかり作る

 イスラエルの嘆願書から透けて見えるように、Technicsに対してはSL-1200シリーズの復活を望む声が大きい。しかし、実際に出てくる製品のうち、少なくとも最初の機種は、高価なHi-Fi向けとなりそうだ。新生”Technics”のアナログプレイヤーは、Hi-Fi用途だけに目を向けていくのか、それともDJプレーも視野に入れた幅広い層へもすそ野を広げていくのだろうか?

試作されたターンテーブルのプロトタイプ。まだ回転する部分のみでアームなどは今後追加されていく。

 「弊社の小川はHi-Fiターンテーブルと発表していますが、YouTubeなどの反響を見ても、報道のされ方からしても『SL-1200の復活』として捉えられていますよね。ただ、SL-1200は、元々Hi-Fi用に設計したからDJの方に使っていただいても音がいいものだったんです。”新生Technics”の新アナログもトルクは過去のSL-1200以上のものにして、DJの方にも使って頂きたいという想いはありますが」

 気になる現在の”新生Technics”のアナログプレーヤーの開発は、まだモーターを試作して動かし始めた段階だ。

 「私は1980年入社で最初の仕事はCDプレーヤーの開発でした。アナログレコードの部隊は当時100名以上いました。設計を担当していたメンバーもまだ社内に残っていて、その数名に加え、偉大なOBの方々にもアドバイスをいただいていやっています。初代機のモーターは米子にあるナショナルマイクロモータ(現在はミネベア株式会社に事業売却)が開発したものですが、そこにも開発者が残っていて、コラボしながら新製品の開発をやっています」

 IFA 2015で披露したのはあくまでもエンジニアサンプリング。ここからどう仕上げていくかも検討中。製品としての正式な発表予定は来年以降になるとのことだが、欧州でも人気の高まるアナログファンの熱意に応えるプレイヤーとなることを期待しよう。

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