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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第16回

グローバルを目指すIoTプラットフォームを技術とチームで支える

日・欧・米での経験を活かしてSORACOMで羽ばたく安川さん

2015年08月05日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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元AWS(アマゾン データ サービス ジャパン)のエバンジェリストである玉川憲さんが立ち上げたスタートアップのSORACOMのCTOに就任し、IoTプラットフォームの開発を進める安川健太さん。日・欧・米で働いてきた経験を元に、新しい形の日本のスタートアップを目指す。

本連載は、日本のITを変えようとしているAWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」のメンバーやAWS関係者に、自身の経験やクラウドビジネスへの目覚めを聞き、新しいエンジニア像を描いていきます。連載内では、AWSの普及に尽力した個人に送られる「AWS SAMURAI」という認定制度にちなみ、基本侍の衣装に身を包み、取材に望んでもらっています。過去の記事目次はこちらになります。

IoTの世界の実現に向けてR&Dを続けた20代

 エンジニアとしての安川さんの出自はネットワークスペシャリスト。1999年に東工大情報工学科に入学した安川さんはドクターまで含め、9年間をQoS(Quality of Service)と呼ばれるネットワーク品質に関する研究に費やしてきた。そしてドクターの期間には、コロンビア大学に留学し、無線LANの研究も手がけてきたという。

 コロンビア大学での経験を経て、「グローバルな環境で仕事するのが楽しい」と感じた安川さんは、スウェーデンのグローバル企業であるエリクソンに入社し、リサーチのポジションに付いた。「エリクソン自体は基地局やアンテナなどを手がけているのですが、私の所属していたチームはもっとアプリケーション寄りでした。そこでモバイルネットワークのM2Mサービス、今で言うIoTの世界を作るのがテーマでした。コンセプトに掲げていた500兆のデバイスが通信していく世界を目指し、特許の申請やコンセプトのデモを作るのがメインでした」(安川さん)。

SORACOM CTOの安川健太さん

 2011年頃にはスウェーデンに半年程度在籍し、ストリーミングやIPTV系の製品開発を進めていたという。「ホームオートメーションと組み合わせて、ビデオ観始めたら、照明が落ちて、音響が自動的にセッティングされるみたいなものを作っていた」と安川氏は振り返る。

クラウドネイティブなユーザーと触れあってきたAmazon時代

 そんな安川さんのAWSとの出会いもこのエリクソンだった。「たくさんのモノや人間ともつながるというデモを作るのにクラウドが必要で、AWSを使い始めた。いくらでもスケールできるので、これならデバイスの数が増えても大丈夫かなと」とのことで、AWSに触れる。とはいえ、リサーチの分野ではクラウドの利用が許容されていたものの、スウェーデン時代の製品開発に関してはまだまだクラウドという状況ではなかったという。

 そのうち「やっているうちにクラウドの方が楽しくなってきたんです」となってきた安川さんは、2012年にアマゾン データ サービス ジャパン(ADSJ)にジョイン。ソリューションアーキテクト(SA)として、スタートアップやソーシャルゲーム系、SNS系のユーザーに新しい技術に注力してきた。「AWSの最新の技術を追い、お客さんと相談しながら作っていく感じ。クラウドネイティブなお客様と話してきたので、自分自身が楽しんできたし、各社のCTOとのつながりもできた」と安川さんは語る。

 AWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGでも何回かLTを行なっており、Amazon DynamoDBやCognitoなどクラウドネイティブなアーキテクチャについて啓蒙をしてきた。「とにかく最小限の運用部隊でやっている会社が多かったので、人員を割けないというのが多かった。なので、AWSのマネージドサービスで設計し、足りないところにAmazon EC2を足すみたいな提案をしていた」(安川氏)。

米国の開発現場で感じたAWSの強さとは?

 こうしてSAとして仕事をしてきた安川さん。2014年の夏頃にはADSJのアーキテクトチームからの卒業生として皆に送り出され、米国のAWSでDyanamoDBの開発チームにジョインした。当時のAWSについて「とにかく頭の切れる人たちがいっぱいいた。毎日根を詰めてやっているのではなく、ワークライフバランスみたいなものを重視しているのが印象的でした。9時くらいにやってきて、17時くらいにはきちんと帰る。金曜日は夕方からハッピーアワーで乾杯。エンジニア同士の対話で新しいアイデアが出てくる。ここから、いろんなイノベーションが生まれているんだなあと思った」と安川さんは振り返る。

「エンジニア同士の対話で新しいアイデアが出てくる。ここから、いろんなイノベーションが生まれている」

 グローバルレベルのサービスを短期間で次々生みだしていくAWSの開発現場では、いわゆるDevOpsの環境が整っているという。「彼らはサービス開発と運用を一緒にやっているので、開発スピードと安定運用を両立できている。早い段階で障害や不具合のタネがしらみつぶしできるようになっており、デザインレビューでかなり深い議論がされている。ピザは2枚あれば十分というTwo Pizza Ruleがあるので、人数は決して多くない。その分、マネジメントやレポーティングのタスクに負荷がかからない体制になっている。効率がよいから、開発もスピーディなんだと思う」(安川さん)とのことだ。

 一方、安川さんは米国のスタートアップの人たちと交流し、ビジネスのスピードの速さを体感する。「ビジネスのスピードを実現するために、安定感やスケーラビリティを考えている。コスト削減も重要だけど、そこを満たすために、きちんとコストをかけてくる。ここらへんのバランス感覚が日本と大きく異なっていた」と安川さんは語る。

(次ページ、玉川さんの全幅の信頼を受けSORACOMへジョイン)


 

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