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僕らが知らないGoogle マップ 第3回

iアプリ版開発がターニングポイント

Google マップの「モバイル」は日本から生まれた

2015年07月30日 09時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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 Google マップ連載第3回のテーマは「モバイル」。スマートフォンの定着により、Google マップをお世話になるシーンのうち、パソコンでなくモバイルを利用する割合はどんどん多くなっている。モバイル向けのGoogle マップはどうやって生まれたのか、そして、作る上ではどんな苦労があるのかを聞いていく。今回も、質問にお答えいただいたのは、地図サービスの開発を担当している、シニア エンジニアリング マネージャーの後藤正徳さんだ。

「iアプリ版」がモバイル版Google マップを育てた

グーグル、シニア エンジニアリング マネージャーの後藤正徳さん

 Google マップの中でのモバイル対応は、実はかなり早かった。携帯電話対応は、Google マップがアメリカでスタートしてわずか5カ月後、2005年7月のことだ。といっても、当時はまだスマートフォンもなかったし、アメリカ市場で使われている携帯電話の中心は、日本の「ケータイ」、今でいうフィーチャーフォン(ガラケー)より性能の低いものだった。そのため「地図をとりあえず表示できる」、というレベルだった。画面解像度もとても低かったので、見やすいものでもない。それでも、移動先で住所を検索し、その場所の地図がわかるわけで、存在しないよりははるかに有利なものではあった。

 それが本格的な「モバイル対応」へと進化していったのは、2007年8月のこと。NTTドコモと提携し、iアプリ版Google マップを導入した時のことである。

後藤さん(以下、敬称略) 「本格的なモバイル向けの開発自体は、もっと前から始まっていました。ですが、iアプリ版開発がターニングポイントではあります。やっぱり、地図って持ち出したいですよね? でも当時、それを実現できる高性能な携帯電話は、日本くらいにしかなかったんです。ですので、日本がひとつの開発中心になりました。当時は、iモードやiアプリのようなもので地図が見られる、ということが、海外からみると大変なことだったんです」

2007年8月、Google日本Blogでも「モバイル Google マップ」ドコモ向けサービス提供開始について、記事が上がった。写真はGoogle日本Blogより

 iアプリではモバイル向けの小さなウェブではなく、Javaを使い、当時としてはリッチな地図環境を、携帯電話の中で実現することができた。モバイルウェブを使ったバージョンの場合、当時の低速なネットワークでは、いちいち地図をダウンロードしていると動作が遅く、ストレスが溜まりがちだったのだが、iアプリ版はデータをより効率的に利用し、拡大・縮小・スクロールがずっと快適だった。サービスは2007年8月からスタートしたが、その年の末にはGPS搭載の携帯電話にも対応している。2008年に登場したタッチ対応の端末にも対応、指でGoogle マップを操作できた。数年後にスマートフォンで起こることを先取りしていたと言える。

 ただしこの当時は、モバイル向けGoogle マップの役割は「その場の情報を出すこと」であり、「自分の周囲の情報を出すこと」だった。今のスマートフォン版Google マップのように、ナビゲーションとしての利用は難しかったのだ。そこにさらなる進化を加え、「歩行者ナビ」を組み込んでいく上でも、日本が主導的役割を果たしている。

後藤 「歩行者案内の機能も、日本から生まれたものですね。電車で移動すれば当然歩く。ならば、その案内は必要だよね、という発想。途中でエレベーターを使いなさい、とかいった表示を加え始めたのも、日本が最初です」

2009年12月、Google マップが徒歩ルート案内に対応

 その後、Google マップに徒歩案内の機能が正式に搭載されたのは、2009年12月のこと。iPhoneやAndroidスマートフォンが登場し、現在の環境が出来上がる少し前のことだった。

 Google マップが日本で進化した背景には、フィーチャーフォン上で、日本独自の地図やナビゲーションのサービスが競争を繰り広げていた、ということもあるはずだ。ことモバイルだけの話でいうならば、競合状況は厳しかったはずだが、ここでの経験が後に生かされているのは間違いない。

 ハードウエア環境的には日本が先取りしていた「モバイルでの地図」の世界だが、スマートフォンが携帯電話の主流になっていくに従い、急速に世界中に広がっていくことになる。

 iPhoneは当初、地図にGoogle マップを使っていた。2008年7月に発売された「iPhone 3G」からはGPSは、翌年6月発売の「iPhone 3GS」では電子コンパスも装備され、自分がいる位置と方向を認識して移動し、簡易ナビ的な使い方もできるようになって行った。そして2010年9月、Google マップでのナビゲーション機能がついに、Android端末に対応する。これによって、スマートフォンの上のGoogle マップは「地図を見る」サービスから、名実ともに「行きたい場所へ人を導く」ものへと変化していく。

 2012年になり、もはやスマートフォンも定着期を迎える。その時期にグーグルは、モバイル向けGoogle マップについて、デザインを含めた大幅刷新を行っている。

後藤 「2012年12月に、新しいGoogle マップをiPhone向けに提供しています。これも当時、2011年から12年にかけて、東京でチームミーティングをした結果です。『これからの地図はどうあるべきか』という話は日々交わしているのですが、その時に全員一致で『これからはモバイルの時代だ』ということになりました。そこで、iPhone向け、というよりは、今のiPhone・Androidのような端末で使うことが前提となった地図をもっと開発していこうよ、ということになりました。新しいバージョンの開発は、かなりの工数をかけて行うことになったのです。新しいiPhone版に向けてデザインを刷新しているのですが、これは日本のチームが先頭に立って開発したものです」


(次ページ「グーグルで実施される「新宿駅の儀式」」へ続く)

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