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「エンジニアに資格はいらない」って本当?元資格屋の答え (1/2)

2016年01月07日 11時00分更新

文●大滝由子

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就職して3年が過ぎ、「そろそろ辞めどきかな」「この仕事をずっと続けられるのかな」と自分の仕事について不安を感じているエンジニアのために、転職と独立に役立つ「技術以外」の知識を紹介。派遣エンジニア、外資ITベンダーでトレーニングマネージャー、IT業界専門のベンチャーキャピタリストなど、ITを軸に多彩なキャリアを持つプロコーチの大滝由子さんが解説します。(編集部)

Web業界の転職に資格はいりません!

Microsoft、Lotus(現IBM)、Oracle、Cisco などのベンダー資格を20代で取得し、のちに、シスコシステムズで認定資格試験のプロダクトマネジメントやマーケティングを担当した経験から、「どの資格を取ると転職に有利ですか?」との相談を受けることがよくあります。

アメリカでは、未経験者でも資格を持っていれば実務スキルがあるとみなし、ある程度の資格は採用される際に有利に働きます。資格取得者を即戦力として採用するので、実務ができなければ即クビになります。

しかし国内のIT業界、ことWeb業界での転職に関して言えば、資格取得が有利に働くことはありません。

日本では採用後に難があることが分かってもすぐには解雇できないため、採用に対して慎重です。また日本企業は長期雇用による「育成」を前提としているため、資格保持を理由に即戦力として採用することはまずありません。

実務経験を伴わずに資格を取得しても、転職活動では履歴書の賑やかしぐらいにしかなりません。

それでも取るなら絶対知っておきたい資格選択 4つのポイント

転職に直結しないとはいえ、「新しい分野の知識を習得したい」「自分の成長を測りたい」「やる気をアピールしたい」との理由で「資格を取りたい」というエンジニアはたくさんいます。

確かに、現在携わっている以外の領域に仕事を広げたい、あるいは職種そのものを変えるときには、目指す仕事や職種に関係する資格試験の勉強で、体系的に整理された専門知識を学べます。また、企業によっては、わずかの加算点という程度ですが、資格取得で学習意欲や仕事へのモチベーションの高さを評価する側面もあります。

資格を取得するなら、世間一般で評価される資格を取りたいものです。以下の4つのポイントで受ける資格試験を厳選することをおすすめします。

1. 取るなら開発系ではなく「インフラ系」

日本のエンジニア業界は、あくまで実務経験を重視します。

そうはいっても、エンジニア資格の中である程度は評価されるのが、ネットワークやサーバといったインフラ系の管理や運用などの資格です。入門者向けインフラ資格には「MCP」「CCNA」「LPIC」などがあります。

インフラエンジニアの場合は、実務経験が少なくても、ある程度の専門用語と知識があれば活躍できる場があります。インフラの運用や設計をしない開発系のエンジニアでも、ソフトウェアが動くインフラの基礎知識は役立つでしょう。

インフラ系の資格の勉強を通じてスキルを高めたいなら、サーバOSを自宅の環境にインストールするなど、環境を整えることが大切です。環境を構築しながら学習すると本だけでは理解しにくかったり記憶しにくかったりする部分が、すんなりと理解でき、実務に役立つ基礎知識が習得できます。

一方、プログラマーやソフトウェアエンジニアなどの「開発系」の資格試験はオススメできません。TOEICのスコアの高さで、その人の英会話のスキルを直接測れないのと同じで、プログラミング言語の仕様や用語がわかっていてもコードが書けるとは限りません。資格試験の勉強より、自分の作品をブログやオープンソースなどで公開することをオススメします。

開発会社は、未経験者が加わることでチーム全体の生産性が下がるため、資格を持っていても未経験者の採用はあまりしません。ただし、未経験者でも技術の習得が早い「年齢の若い未経験者」であれば欲しがる開発会社もあります。資格取得で時間を取られるよりも、どんどん履歴書を送り、若さと技術者になりたいのだ、というやる気をアピールしましょう。

2. マイナーな資格は無意味

資格試験の世界で「取得者数が少ないから希少価値がある」ことはあり得ません。人事や採用担当、あなたの上司や人材紹介会社も知らない資格では、転職の足しにもなりません。独立するにしてもお客様が資格を知らなければ名刺に書く意味もありません。

資格試験を提供する企業から考えると、もっとも大変なのは資格の認知度を上げることです。何しろ認知度を上げるのは莫大なマーケティングコストがかかるうえに、知恵も必要です。「とりあえず資格は作ったけれどマーケティングは放置」というケースはIT資格でよくあることです。

このような「マイナー資格」は、受験者数が少なく、資格試験から得られる利益も多くはありません。開発コストがかけられず試験問題の質といった肝心の「内容」にも不安があります。受験費用と学習時間がムダになる可能性を避けるためにも、その資格がどのぐらいマーケティングに力を入れているか、見極めることが重要です。

ネットでわかる危ない資格のチェックポイント

  • Webサイトが頻繁に新しい情報を発信していない
  • 資格取得者についての情報が一般的に少ない
  • 人気のある資格は、多数の取得者がいてプロフィールに取得名が書いてあったり、取得者が勉強法や攻略法を教えるブログやフォーラムが多数あったりします。
  • 採用の際に考慮するものとして、その資格を挙げている会社がない
  • その資格を取得することを社員に推奨したり、人事考課測定に使用したりしている企業が見当たらない
  • 資格の問題集や概説書が書店で購入できない

3. 取るならトコトン上位資格

何が何でも資格をキャリアアップにつなげたいなら、上位資格を狙ってください。たとえば、

などです。

上記資格なら、実務経験がなくともかなり評価されます。私自身も実務経験がほとんどないにも関わらず、MCSEを取得したことでWindowsサーバやExchangeサーバの導入や運用管理の仕事を頼まれた経験があります。Ciscoには大学在学中にCCIEを取得したため、新卒採用とは別枠で正社員に採用された社員もいました。

製品と技術を把握していないと上位資格は取得できないため、資格取得には努力と時間が必要です。トコトン上位資格を狙うみなさんに、取得のためのコツをお教えしましょう。

資格試験は、問題作成の傾向に「独自の癖」があります。たとえば、私が受験をしていた頃のMicrosoftの試験は、回答の選択肢にMicrosoft製品を少しでもけなすニュアンスがあれば、まず正解ではありません。

上位資格で受けるたくさんの試験の「問題作成の癖」を見つけると回答率があがります。上位試験の取得は一気にとることで、その前に受けた試験の範囲も思い出せます。インターバルをあけず一気に受けることをオススメします。

4. どうせ勉強するなら世界で通用する技術を一足早く英語で学ぶ

資格試験を受ける目的が「新分野の勉強」なら、国内のマイナーな資格ではなく、世界でこれから注目される「新しい技術の資格」を取るべきです。

ITの世界で、日本はアメリカの背中を追っていますので、アメリカで伸びている(あるいは伸びそうな)技術分野の資格なら、最新技術をライバルに先んじて学習することで、キャリアを有利に展開できます。

もちろん試験問題は英語ですが、この際ついでに英語も学習できるいい機会だと前向きに捉えましょう。専門用語を英語で理解できるようになれば、検索も英語でできるようになるので、情報収集の効率が改善され、情報源の幅が広がって、合格後の大きな自信につながります。

どちらにしてもIT業界で生き残るには開発分野であれ、インフラ分野であれある程度の英語読解力は情報収集のために必要です。

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