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花澤香菜×AK100IIコラボ、限定曲の収録現場に立ち会う

2015年07月05日 12時00分更新

文● 鳥居一豊、写真●神田喜和

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演奏の良し悪しが明瞭に聴き分けられる理想的な環境

 ミキシングルームの雰囲気もいい。自分もオーディオルームを作ったものの、部屋の響きのクセに苦労しているため、そのつくりが気になってしまった。

ミキサー卓の前方に小型のモニタースピーカーが見える。

 防音というのは実にやっかいで、外からの音が侵入しないよう遮音すると、室内の音も外に逃げなくなる。結果として、室内で反射した音がいつまでも減衰せず、スピーカーから出た音を汚してしまう。かといって吸音壁で、不要な音の反射を吸収しすぎてしまうと、響きの足りない乾いた音になり、つまらなく感じてしまう。

 ミキシングルームの内壁は硬めの木材や石壁を組み合わせている。見た目はいわゆるスタジオ的なものではなく、リビングとしてもアリと思えるほど居心地のいい空間になっている。要所に吸音壁が配置されており、かつ床以外に平らな面がない。四方の壁は何角形かもわからないほどの多角形。ドーム上の天井も多面体形状となっている。音を複雑に反射、干渉することで減衰させ、多量の吸音材を使わずに中高域の不要な響きを抑えているのだろう。低音は物理的に吸音している。窓などを見るとわかるが、壁の厚さが場所によっては軽く1mくらいある。おそらくは内部に吸音材がぎっしり充填されているはずだ。

 ミキシングルームでは、演奏の良いところも悪いところも明瞭に聴き取れるようにする必要があるが、この部屋はバランスの取れた、理想的な環境であることがよくわかる。部屋の隅にいても不要な反響がまったく感じられない一方で、レコーディングの相談をするスタッフの会話が明瞭だ。適度に声が通り、かつ響きも短く抑えられていて、声がこもらない。

 これを一般の家庭で真似することはまず無理だろう。しかしプロが普段どんな音を聴いて仕事を進めているのか、そして不要な響きやクセのない音を生む環境はどんなものかを知れたのは収穫だった。いいコンサートホールで生の響きを感じるのとは一味違った経験ができたと思う。

手際よく進んでいくマイクセッティングに職人芸を見た

 録音現場の雰囲気に感心しているうちに、ピアノの録音が終了。演奏者のAYAKI氏を含め、スタッフ全員で最終的な音を確認する。

 音楽制作の録音ははじめてだったが、単純な演奏のミスで録音をやり直すようなことはほとんどなく、最終的にすべての音が一緒になったときのイメージを含めて、演奏のトーンや感情の込め方を微調整していくことが多かったように思う。パートによっては、編曲を一部修正していくなど、録音をしながら楽曲を完成形に持って行くように感じられた。

 ピアノが片付けられ、ストリングスの録音が始まる。まず最初にスタジオ入りした演奏者の門脇大輔氏(バイオリン)、村中俊之氏(チェロ)が、スタジオの中央付近に置かれたイスに腰掛け、ウォーミングアップのための音を出しはじめる。平行してマイクのセッティングもスタートする。

 マイクのセッティング作業は手際よく進んでいき、30分も経たないうちに、録音準備が完了した。杉山氏とアシスタントの会話も最小限で、実に手慣れた動きというか、ムダなく作業が進んだという印象だ。モニタースピーカーから聴こえてきたのは、生演奏はこうだと感じさせる音。直接音主体の実体感あふれる音ながら、豊かな響きもしっかりと再現されている。ムダのない動きと必要最小限のやりとりで、「バチっ」と音を決めてしまうのはまさに職人芸だと感じた。

マイクはさまざまなメーカー、さまざまなタイプが用いられている。

 マイクはバイオリンとチェロの目の前に置かれた各1本(メインとなる)と、バイオリンとチェロの中央やや後方に2本ペアで置かれたマイク(アンビエンス用)の合計4本だ。

 バイオリンとチェロの目の前に置かれたマイクは、イスに腰掛けた演奏者のちょっと上(ちょうど立ったときの頭の位置くらい)から、マイクの指向性を楽器に向けて置かれていた。アンビエンス用のマイクは、より高い2m程度の位置から少し下向きで、ステレオ・バーを介してセッティングされた。

 素人目には、マイクの位置や向きは比較的ラフに決められているようにも感じたが、高さの調整には時間を掛けていた。杉山氏自らが録音ブースへ赴き、何度か微調整を加える。その後、ミキシングルームで音をモニターし、(おそらくはミキサー側でのそれなりの調整を行い)作業完了となった。

 その後の録音は実にスムーズだった。収録済みのピアノに合わせて最初に一通りのチェックを済ませ、演奏者とスタッフの間でいくつか相談。必要に応じてアレンジの微修正をしつつ、通しで録音した。その上で気になる箇所を録り直していた。

Pro Toolsの画面に録音の作業が進むにつれて、トラック数が増えていく。

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