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価格・機能・拡張性、そして音質、すべてが常識を逸脱

Astell&Kern AK380は、色々な意味でDAPの概念を変える

2015年06月12日 15時00分更新

文● きゅう/ASCII.jp

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ニュアンスに富んだHi-Fi的な表現に心が揺れた

 具体的な曲の聞こえ方の違いについても記述しよう。

 1曲目はAstell&Kernがハイレゾサンプル音源として提供している「Spanish Harlem」(Rebecca Pigeon)から。品質は176.4kHz/24bitで、ウッドベースと透き通った女性ボーカルが特徴的。伴奏もピアノ、ストリングスなど限られた楽器に絞っている。

 まずは冒頭、小さく弾かれたベースの静寂感からして違う。低域の芯があって、小音量でも際立ち、細かなニュアンスを的確に捉える。そこにボーカル、ピアノ伴奏と徐々に音数が増えていくが、ボーカル曲では軽視されがちなバックの楽器ひとつひとつが明確に分離して聞き分けられる。

 ピアノを打鍵した音の立ち上がりや細かなうねり、コロンとした質感、ハイハットのトランジェントの良さに加えて、ストリングやボーカルは高域がよく抜けて透明感があり、豊富な倍音が開放的に伸びる。これにより天井が何メートルも高くなったような空間の広がりを感じる。23秒付近ではAK240で感じられなかった小さなノイズも浮き立った。

 逆にAK240では、ベースラインはもう少しまろやかで、ボーカルももう少し中域によったふくよかな表現となる。低域の量感はあるが、ちょっとあいまいな感じだ。伴奏のピアノもAK380では高域がキンと抜けるが、その感じは控えめ。曲はボーカル中心にこじんまりとまとまった印象となる。

 もうひとつ感じたのは、バックとボーカルの溶け込み。ハイハットとストリングス、ベースがバラバラで、調和がちょっと不足しているように思えてしまう。ボーカルによりフォーカスを当てた感じで、歌い手に一歩近づいて聞いているような感じがある一方で、楽器とボーカルが一体となって空間に溶け合う感じが乏しい。AK380は直接音を聴くというよりも、声と楽器の音がその場に広がった、響きを聞いている感覚が強い。

 次に中島美嘉のベスト盤『DEARS』から「僕が死のうと思ったのは」を聴く。こちらも冒頭から抜群に音の抜けがいい。特に最初のシンセには、音に予感めいたニュアンスが加わっている。サビ前の「薄荷飴、漁港の灯台……」のあたりでは、ちょっとかすれた声の質感、鮮烈な高域などからかなり激しく心情が動いているのだと感じる。AK240も輪郭はなぞられているのだが、ちょっと味気ない。このビリビリするような心情が不足しがちだ。

 楽器の再現では、ピアノの重量感(低域のうなりも如実に再現)、アコギのスピード感、ハイハットの抜けなどが秀逸。そしてベースやキックなどリズム帯の動きが手に取るように分かるし、AK240と比較してもキックの低域がグッと下に伸びている。ワイドレンジであることに加え、音の分離がよく、そしてスピードよく音が立ち上がるためだろう。特に感心したのは、楽器の数が増えたサビの部分でも、アコギのニュアンスがきっちり前に出てきた点だ。音量が小さくても埋もれず、指で弾いたアタックの強い質感がしっかり認識できる。

 クラシック曲(Acdemy of Ancient Musicのコンピ『Birth of the Symphony』)では、AK240もバランスがよく、前2曲に比べてその差は少なく感じたが、聞き込むほどその差を感じるようになる。

驚くべき新機種、発売日と価格はいつか?

 今回は貸出期間の制約もあり、一泊二日の限定された時間での試聴だったが、AK380の持つポテンシャルが想像を超えたものである点を実感できた。

 高音質ハイレゾプレーヤーというと、AK240以降、各社が新製品を出しており、たとえば「PAWGold」関連記事)のように、際立った音のよさを示す機種も登場してきている。一方で11.2MHz DSD配信など新フォーマットも徐々に浸透し始めている状況だ。

 そんな中、ハイレゾプレーヤーのAK380はトップエンド機として、ポータブルの枠を超えた機能、サウンドを持つ製品となった。これはDAPの概念そのものを変える1台になりそうだ。ある意味据え置きで使う、Hi-Fiネットワークプレーヤーの領域にも踏み込める機種といえるし、拡張性も豊富。そして再生能力の高さも、短時間の試聴でもため息が出るぐらい強く認識する。

 欲を言うなら、DSD 11.2MHzにも対応してほしかったが、この点はファームウェアアップデートになるのか、AK380のさらに次の機種に持ち越されるのか。価格・発売時期と合わせて知りたい情報だ。

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