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業務を変えるkintoneユーザー事例 第1回

初のユーザーイベント「kintone hive」で見えた現場発のIT活用

サイバーエージェントの「大統領ボタン構想」を支えるkintone

2015年05月25日 12時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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5月22日、サイボウズはkintone初のユーザーイベント「kintone hive」が開催された。イベントではサイバーエージェントの内部監査室が展開する「大統領ボタン構想」のほか、現場発のkintoneの事例や活用ノウハウが数多く披露された。

kintoneユーザーがアイデア交換できる場を

 「ミツバチの巣箱」から転じて「活気のある場所」を言う意味を持つ「hive」。このhiveの名前を冠したkintone hiveは、kintoneユーザーがアイデアを交換する場として、サイボウズが企画し、ユーザーやパートナーなど巻き込んで開催されたイベントだ。冒頭、挨拶に立った伊佐政隆氏は、「ミツバチは(kintoneカラーの)黄色と黒なのでちょうどいい」とアピールする。

サイボウズ kintoneプロダクトマネージャー 伊佐政隆氏

 伊佐氏は、松山にいるサポートメンバーの声からこのイベントを思いついたと語る。「1つのアプリしか契約していないというお客様の声を聞いた。そのお客様は1つのアプリでも大変満足していらっしゃるけど、アプリはいくつ作っても同じ金額。私たちからすると、もったないなと思った」(伊佐氏)。しかし、サポートの中でアプリの提案をしてみたところ、少しずつ具体的な使い方やアイデアが出てきたという。「僕らが関与しなくても、このアイデアを拡大再生産できるような場が作りたいと思った」とのことで、kintoneの活用アイデアの交換ができるkintone hiveを思いついたという。

 現在、kintoneのユーザー数は国内で2500社を越え、グローバルでも100社に増えている。また、kintoneの開発者も2000人を突破し、有志イベント「kintone Café」もすでに23回を迎えている。「とても活発に開発者同士の意見交換ができている」(伊佐氏)。アプリの数も1日500ずつ(2015年3月)増えており、累積で15万のアプリが生まれているという。

1日あたり500、累計で15万のアプリが生まれているkintone

内部監査室発のkintone活用を語ったサイバーエージェント

 伊佐氏の挨拶の後は、ユーザー自身がkintoneアプリのアイデアや社内展開などを説明する事例パートと、kintoneパートナーが活用方法や独自拡張を披露する「kintoneハック」のパートが交互に展開された。トップバッターは、サイバーエージェント 内部監査室の鹿倉良太氏。「kintoneによる即効システム化と大統領ボタン構想」について説明した。

サイバーエージェント 内部監査室の鹿倉良太氏

 「21世紀を代表する会社」に向け、インターネット広告を中心に、アメーバプラットフォーム、ゲーム、メディアなどさまざまな展開するサイバーエージェント。連結対象で70社以上ある子会社を元に事業を展開するサイバーエージェントの中で、内部監査室は事業の課題を指摘するのみならず、プロアクティブに解決まで導いていくという役割があるという。「事業の中にずかずか入っていって、いっしょに課題を解決していくというアクションを繰り返している」(鹿倉氏)。

 kintoneを導入したきっかけは、ある事業で月次の締め作業、請求処理に工数がかかりすぎるという課題があったためだという。「伸び始める事業は急速に伸び始めると、バックエンドが置き去りになる。しかも全社的に決算の早期化を進めているので、バックエンドが遅れてくることになる」(鹿倉氏)。

 しかし、従来のExcelでの作業は限界があった。「壊れやすいし、バージョン管理が面倒。月初に作業が集中してしまい、コピペミスで情報の往復が多すぎるという課題があった」と鹿倉氏は嘆く。そのため、kintoneを導入し、すべてをDB化・クラウド化。プロセスにあわせてアプリを分けつつ、kintoneのルックアップ機能を活用し、情報の登録ミスを排除する。これにより、経理の自動化や決算の早期化を実現するというのが内部監査室の目論見だという。

サイバーエージェントの課題とkintoneで実現したいこと

 こうして作られたのが、広告配信の管理を行なう「DOX」と呼ばれるアプリ。発注書や申し込み書の出力や、配信や請求金額などの実績管理、請求書の発行、入金登録、仕分け済みの実績の出力など幅広い機能を持たせ、広告配信の入り口から出口までの効率を目指した。

kintoneで作られたサイバーエージェントの「DOX」。ロゴや名前などブランディングにもこだわった

 導入に関しては、現場や経営層の抵抗も大きかった。「使い慣れたExcelを変えることに対する不安があった。とにかくExcelが使いやすすぎた。強敵だった」とのことで、ネガティブイメージを払拭するのが大変だった。

 この障壁を打破できた勝因は、まずは無料期間中にプロトタイプを作って経営層にイメージを伝えたこと。「70%くらいのプロトタイプで、大丈夫なんじゃないかというイメージを持ってもらった」(鹿倉氏)。もう1つはExcelに勝つのをあきらめたことだ。「Excelのコピペにはかなわないので、Excelに変わって得られるものをかなりアピールしたとのことで、粗利の分析や営業ごとのランキング、与信管理などの機能を付け、操作感でマイナスがあっても、結果的に現場にプラスになることを現場に説明した。

 そして、最後はねばり。「現場では文句の嵐だったけど、現場に張り付いて、その場で不具合の改修した」とのことで、2ヶ月まで導入を完了。改修を続けながら、結果的に5営業日かかっていた処理が3営業日にまで短縮したという。

ボタン1つで連結決算まで一気に実現

 導入を成功させた後にやったのは、このDOXのパッケージ化。広告配信のみならず、ゲーム向けシステムも構築したほか、営業や購買管理、経費精算まで可能にしたDOXを新規事業に展開。「四半期で15個とかできてくる新規事業において、事業ができたと同時にバックエンドシステムができている状態を実現した」(鹿倉氏)。現在20社で運用しており、今後は全社に展開する予定だという。

「DOX」を横展開し、現在20社で運用開始

 また、DOXとは投資金額やKPIなどを集計し、投資家向けの事業報告書の作成を自動化する「羅針盤」というアプリも作成。グループ内の有価証券の一元管理を実現した。その他、登記情報管理やリスク情報管理などのアプリを作成しており、kintoneの導入は全社に拡がりつつある。

 鹿倉氏は今後の計画として、経理の全自動化を実現する「大統領ボタン構想」を掲げる。ETLのインフォテリアの「Asteria」とDOX、そして会計システムにつなぐことで、データ交換を自動化。「ボタン一個で単体から連結決算までを完結させる。この主軸にkintoneを据える」のが鹿倉氏の言う大統領ボタン構想だ。

 人手を介していた経理作業を自動化することで、経理の役割を「処理」から「設計」に変える。さらに自動化によって不正や誤謬を排除することで、コンプライアンスを強化するのも内部監査室としての目論見。鹿倉氏は「現場では、すでに業務の設計を始めているメンバーもいる。今17営業日かかっている連結決算を1週間くらい短縮させたい」と抱負を語った。

 実物を見せながらのプロトタイピングやExcelのリプレース作戦、そして内部監査室という立場を活かした強力な現場の巻き込みで、kintone導入を成功させたサイバーエージェント。スピーディな事業展開に大きく寄与しているようだ。

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