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クラウド界隈を揺るがした青森県のコミュニティとはなんだったのか?

クラウドコミュニティと一心同体だった青森県庁の杉山さんの3年

2015年05月21日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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クラウドコミュニティとともに青森県のITを盛り上げてきた青森県庁の杉山智明さんが、異動でIT振興担当から外れることになった。「春はお別れの季節」ということで、桜の季節に杉山さんが駆け抜けてきた3年間を想い返してみることにした。

中国へのリンゴの輸出担当からIT振興へ

 「青森県がクラウドコミュニティを巻き込んで面白いことをやっている」。こんな話を聞いて、乗り込んだのが2014年9月に仙台で行なわれた「JAWS FESTA Tohoku 2014」だ。そこで聞いた杉山さんの講演で、自分が持っている“地方の役人”のイメージは大きく覆された。青森県庁の職員でありながら、地元の利害のみに拘泥せず、「青森で面白いことをやってみて」とエンジニアたちを強力に巻き込んでいた。

 豪雪の青森で行なわれた2月の「青森ITビジネス・マッチング交流会」にも参加したが、これまでとは異なる方法論でIT振興を推し進める杉山さんにすさまじいパワーを感じた。そんな杉山さんだが、4月に人事異動があり、IT振興の担当を外れることになった。そこで、3月末に東京にいらした杉山さんをつかまえ、駆け抜けた3年間を振り返ってみることにした。

 まず簡単にバックグラウンドを聞いた。杉山さんが青森県に新卒で入ったのはバブルがはじけて就職氷河期になる直前の1992年。杉山さんは「企業に就職する選択肢もあったけど、そもそも民間企業でなにやるかというアイデアがなかった。農家出身なので、地元がいいなと思っていたので、公務員だったら、やりたいことがはっきり決まってなくても、仕事の幅はありそうだなあと思った」と振り返る。

青森県庁 杉山智明さん

 実際、杉山さんは青森県の職員として、さまざまな仕事に携わってきた。農業団体の指導、東北新幹線建設予算の陳情や中国へのリンゴの輸出、風力発電のメンテナンス業務の下請け斡旋、外郭団体の助成金関係や商店街の振興などなど。そんないわば“普通の役人”だった杉山さんが、「青森県 商工労働部新産業創造課 情報産業振興グループ」でIT振興に携わるようになったのは、今から3年前の話だ。

 前任者から引き継ぎを受けた杉山さんは、事業計画提出まで地元に企業にヒアリングしつつ、今までやってきたセミナーや勉強会の見直しに取りかかった。しかし、引き継ぎの段階から今までのやり方に疑問を持った。「セミナーを年に3回くらいやればいいよみたいな感じだったのですが、バズワードに飛びついたセミナーを年に数回やっても前に進まないと思った。『土作りしないでタネ蒔いても、実はなるか』という話です」(杉山さん)。

 今までは開発の先生を東京から呼んで、座学とワークと実習やっておしまい。基礎は身につくかもしれないが、新しいことにつながらないと感じた。また、「小さいコミュニティはあったけど、横連携がなかった。地元の人間だけで固まっても新しいモノは出ないと思った」とのことで、コミュニティの在り方にも問題があったという。

 こうした課題にぶち当たった杉山さんが、たどり着いたのが他県をまたいだコミュニティの取り込みだ。特に仙台を中心にスマートフォンアプリの開発推進を手がける「Fandroid EAST JAPAN」の取り組みには非常に惹かれたという。「震災を契機に仙台で立ち上がったコミュニティですが、全国に支部があり、それぞれが連携している。すごくユニークだった」と杉山さんは語る。

コミュニティを中心に据えた青森県スタイルの創出

 こうして始めた青森のIT振興施策はコミュニティをベースに企画を考え、県がそれを後押しするという形態をとった。「持ち込み企画も大歓迎。予算の範囲内だったら、講師の足代・宿泊費くらいは県で出すから、面白い企画持ってきてよという形で共催した」(杉山さん)。実際、青森県が主催したのは年間90のイベントのうち20くらいで、残りは持ち込み企画への協力や委託イベントだという。

 一方で、企画はコミュニティに任せ、県側はサポートに徹した。「イベントのために会場抑えるとか、集客のためにチラシまくなんて、役所にとってみれば日常業務なんです。お見合婆としても、取引関係がないのでニュートラルだし、オフィシャルだから他県とも話ができる。とにかく最初のきっかけ作りは県が出ていった方が話が早い」(杉山さん)ということで、おもにイベントの運営で役所の強みが活かした。役所側が雑務を請け負うことで、コミュニティは企画に集中できるというメリットが得られた。

「イベントのために会場抑えるとか、集客のためにチラシまくなんて、役所にとってみれば日常業務なんです」

 イベントも座学にこだわらない形態を試したという。あるときは3日で終わるAndroid開発の研修を3ヶ月かけての試作提案に変更。お客様の声を聞きつつ、1ヶ月に1回の集まりでプロトタイプを作り、その間のグループワークはSNSで共有するという形で進めた。「地元の受託開発の人たちは納品仕様書だけ見ていて、エンドユーザーさんが見えてなかった。ITは分業が進みすぎてそういうことが起こっていた。だから、上流から下流までいったん経験してみるのも重要じゃないかと思った」(杉山氏)とのことで、ヘビーだったが現場のニーズに根ざしたモノが得られたという。

 また、役所でありがちな動員数を指標にするのもやめた。「関係ない人をかき集めて数字を上げるのはやめようと。外向けにインパクトのある数字は出すけど、肝心なのは中身。テーマにあった人をきちんと呼ぶというのを考えた」(杉山氏)。そのため、初年度は1000人動員をアピールしたが、昨年度は90回というイベント回数をアピール。100人規模の大規模なイベントを抑え、50人以下のイベントを各地で行なったという。

(次ページ、青森県以外に門戸を開いたオープンなイベント)


 

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