このページの本文へ

受託制作のデスマを防ぐ!ディレクターのヒアリング術

2015年04月28日 11時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
本文印刷

顧客からの依頼を受けてWebサイトを制作する際には、顧客の要求をヒアリングしながら完成を目指していきます。しかし、以下にあげるような状態に悩まされることがあります。

  • 個別のアイディアについては盛り上がるのに、それによって実現したいことが見えてこない
  • 顧客からあがった要望を取り入れていくと操作性が悪くなることが明らか
  • 顧客が提示するイメージをできるだけ正確に再現しようとしているのに、途中経過を見せるたびに言うことが変わる

今回は、そのような経験の中で心がけるようになったWebサイト受託制作時のヒアリングポイントについてご説明します。

顧客の「あるべき姿」を具体化して共有する

Webサイト制作のヒアリングで最も大切なのは、Webサイト運営を通じて達成される「あるべき姿」を顧客と具体化して共有することです。「あるべき姿」を顧客と共有することで、「現状の姿」との差分から解決すべき「課題」が抽出できます。課題に対応するための「解決策」を練り込んでいくことで、Webサイトの具体的な完成図を描きながら提案が可能となります。このことについて式で表すと下記の通りとなります。

あるべき姿 = 現状の姿 + 課題(解決策)

上記の式において、どの項目が不定値になっているのかを意識しながら、ヒアリングしていくことがポイントとなります。「現状の姿」を正確に把握したり、現実的な「あるべき姿」を描く前から、これまでの不満や個別具体的な記事やデザインのアイディアについて聞き出しはじめると、「そもそも何を目的としたWebサイトを作るんだっけ?」と迷走しはじめて、仕様が二転三転してしまう可能性が高まります。

「顧客のお客様」を意識する

成果物を期日通りに納品するのは、顧客のビジネスにとってのスタート地点でしかありません。Webサイトを利用する「顧客のお客様」であるエンドユーザーの心を動かして、実際の行動にコンバージョンさせていくことがゴールとなります。

顧客から言われた要求を全部実現したのに、ビジネス上の数字が上がらなかったり、炎上してブランドを毀損する事態になっては、制作会社に依頼した意味がありません。顧客が望む以上の価値を提供するのが専門業者の責務でもあります。顧客が意図する効果や因果関係と現実のWebサイト運営との間にズレが発生していないかを点検し、必要があれば根拠を持って提案するという姿勢でヒアリングに臨むことがポイントです。

「顧客の言うことを全て実現する」だけでは不十分

このようなズレはどうして発生するのでしょうか。そもそもヒアリングの中であがる要求には以下の種類があります。

  • ビジネス要求……ビジネスとして達成したい要求
  • ステークホルダー要求……利害関係者目線の要求
  • ソリューション要求……具体的なデザインや技術などの解決策自体への要求

先ほどの「顧客から言われた要求を全部実現したのに、具体的な数字が上がっていかない」という話は「ステークホルダー要求」としてあがっていた「ありたい姿」を実現しようとしています。しかし、Webサイトを利用するエンドユーザーに向き合えておらず、結果として「ステークホルダー要求」と「ビジネス要求」の因果関係がうまく作れていなかったことに起因します。

顧客が思い描いている表面上の「ありたい姿」を追求することは必ずしも「あるべき姿」の実現に結びつきません。これを防ぐためには、ヒアリングした要求の区分を整理し、因果関係を点検しながら、下記の式が成立するようにバランスを取っていくのがポイントです。

ビジネス要求 = 現状の姿 + ステークホルダー要求(ソリューション要求)

上記の式は「あるべき姿 = 現状の姿 + 課題 (解決策)」と同じ意味です。思いつくままにあげられた要求がバランスすることはまずありません。不足している要求を優先的にヒアリングしたり、制作会社側から提案していくことで、作成すべきWebサイトの中身を具体化していきます。

「ビジネス要求」を定義する際には「愚か者の金脈」と呼ばれる偽の指標に惑わされないことが肝要です。Webサイト制作においては「アクセス数」「シェア数」「問い合わせ数」などの分かりやすい指標をゴールに設定しがちです。一時的に露出が増えてもブランドを損ねてしまえば逆効果になる場合も多いのです。むしろ明確な指標に最適化することで失われるものがないかを点検すべきです。

真の要求は「聞き出す」ものではなく「開発」するもの

一般的なヒアリングは、顧客が既に持っている要求を具体的に定義するため「要求定義」と呼ばれています。ですが、顧客はWebサイト制作を専門業者に依頼するという判断をしており、Webサイト運営とビジネスへの効果を直結させるための正しい要求を持ちあわせていない可能性があります。

「ビジネス要求」「ステークホルダー要求」「ソリューション要求」のすりあわせの結果として、顧客が制作を依頼する時点で描いていた「ありたい姿」とは異なる「あるべき姿」の提案がなされる場合もあります。それこそが専門業者にWebサイト制作を依頼する意味でもあります。「顧客が想像していた以上の価値を提供する」のは、奇を衒うのではなく、ビジネスへの影響を論理的に追求することから生まれてきます

「あるべき姿」を共同で明確化し、具体的な姿に落としていく作業は「要求開発」と呼ばれています。「ヒアリング」というと、依頼者が思い描いている正確な要求を聞き出せば良いとイメージしてしまいますが、本当に必要なのは顧客との対話の中で「あるべき姿」を「開発」していくことなのです。

最後に

いかがでしたか。Webサイトの受託制作の際、顧客の「ありたい姿」を「あるべき姿」にすり合わせながら、具体化しきれていない不足分を埋めていくためのヒアリングがポイントになると考えています。

もちろん唯一の正解はありませんし、顧客の意向が最優先となりますが、Webサイト制作を依頼された以上はビジネス要求への視線や当事者意識を持った提案をしていく姿勢を忘れないことが大切です。ヒアリングの際は「顧客からの要求を正確に聞き出す」だけではなく、「顧客の要求を一緒に開発する」という意識を持つことで、価値の高いWebサイトを制作していけるのではないかと考えています。

この連載の記事

一覧へ

この記事の編集者は以下の記事をオススメしています