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編集者の眼第54回

これなら書店の未来はもっと明るいんじゃないか?

2015年04月16日 16時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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アクセス解析業界で著名な清水 誠さんの初の書籍『[清水式]ビジュアルWeb解析』をWeb Professionalで刊行しました。顧客のニーズを自社の商品やサービスがどのようにかなえるのかを「コンセプトダイアグラム」で図示し、サイトが意図通りに機能しているかを指標で追いかけ、ビジネスを評価し、改善していく仕組みを紹介しています。

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コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析 (Web Professional Books)

書籍では地ビール会社のWebサイトなどを事例にしたのですが、初校を読んでいるうちに、出版業界をネット時代に対応させる戦略作りにも使えるのではないか! とムラムラしてしまいました。

鍵はビーコンです。「ビーコン」は、iOS 7から標準機能になったアップルのiBeaconで注目を集めた技術です。Bluetooth Low Energy(BLE)の信号をスマートフォンなどの対応機器で受信することで、ビーコンのそばにいることを検出できます。ビーコンに固有の番号を割り当てれば、GPSとは別の方法で場所の特定に使えます。Windows 8やAndroid 4.3以降でもBLEに対応しましたので、アップル製品に限らず利用できます。ビーコンと電子書籍とコーヒーを組み合わせれば、書店という業態をネット時代にふさわしくアップグレードできそうな気がするのです。

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書店をプラットフォーム化する3段階

書店はもともと誰もが使える図書館のような情報プラットフォームでした。インターネットで役割が一時的に縮小しただけで、もともと相性のよいコーヒーや音楽(特にジャズやクラシック)と組み合わせて「居心地のよい空間を提供するサービス業」に転換すれば、他にない価値を作れるはずです。

全書店にビーコンを配置する

書店にビーコンを設置すると、今どこの書店にいるか、スマホで正確に認識できます。わざわざ店内のキオスク端末で在庫を検索するのではなく、店内のビーコンを検出できれば、Webサイトで「東京都→千代田区→飯田橋エリア」のように絞り込んで店舗を指定する手間はかかりません。数百円で購入できる安価なビーコンは、電池の向きを間違えると発火するなどの問題があるようですが、数千円の安全なビーコンでも全国1万店余りと言われる書店に配置する費用は数千万円で済みます。設置と電池交換に人手がかかるとしても、出版社の営業が代行すれば、ずっと費用は抑えられるはずです。

リアル書店で電子書籍を売る

電子書籍は書店からはライバルに見えているかもしれません。しかし、ビーコンで書店にいることを確認できるなら、店内で購入した電子書籍の売上はその書店に付けられます。紙の本としては在庫がなくても、電子書籍なら販売できるのです。どんなに小さな書店でも、電子書籍なら在庫は無限に増やせます。近くに書店があるけど、在庫があるか分からないのが理由で書店から足が遠のいていた人でも、とりあえず書店に行って、無ければ電子版を買えばいいか、と消費行動が変わるかもしれません。

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書店を「コーヒーを飲む場所」にする

リアル書店には、ネット書店にない魅力があります。立ち読みです。ネット書店の場合、購入前に読めるコンテンツの範囲には制限があります。しかし、リアル書店であれば、がんばれば文庫を一冊読むことだって無理ではありません。であれば、電子書籍も書店内に限って制限をなくしてしまいましょう。もちろん、立ち読みでは書店が儲かりませんので、コーヒーを売るのです。300円のコーヒー1杯の原価は約30円。本を売ったときの書店の取り分はだいたい2割前後ですから、コーヒー1杯で文庫本2冊分ぐらいの粗利になります。電子書籍なら、コーヒーの染みがついて商品がダメになることもありません。

Starbucks used to be a place to relax

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ビーコンがあればスタバすら書店にできる

ビーコンによって書店にいるかどうかを識別できることで、現実世界に特別な場所を設定できます。書店は、電子書籍と美味しいコーヒーと居心地のよい場所を貸すサービス業に転換するのです。在庫として持っておくのは、店の雰囲気を作る雑誌や絵本、辞書など、限られた商品になるでしょう。無料で電子書籍を楽しみながらコーヒーを飲んでくつろぎ、気に入った本があれば電子版を購入したり、紙版を取り寄せたりすればよいのです。極端にいえば、書店であることを示すビーコンを設置すれば、スタバすら電子書籍を売る「書店」にできます。無線LAN環境はすでにあるので、そのための追加費用はビーコン代だけです。

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コンセプトダイアグラムにしてみた

ムラムラして描いてみたのが以下のコンセプトダイアグラムです。

本、コーヒー、ついでに言えばジャズとクラシック音楽はもともと相性がいい

清水さんの本で例になっている地ビールの図を私の妄想で置き換えてみました。なんだかこれならいけそうな気がするので、会社で提案してみようと思って企画書を書いていたら、楽天と有隣堂が私のコンセプトに近い複合型書店を先週発表してしまいました。

コンセプトダイアグラムは、業界の未来を描けず、将来に漠然とした不安を抱えているアラフォーの皆さんにお勧めです。

コンセプトダイアグラムが自分で描きたくなったら……

楽天や米Adobe、電通レイザーフィッシュなど数多くの企業での実績を持つ著者が実践してきたユニークなWeb解析・マーケティング改善の手法を徹底解説した本『コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析』が発売されました。

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コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析 (Web Professional Books)

「コンセプトダイアグラム」による顧客の行動やマーケティング施策の「見える化」から、指標の定義、データ取得の考え方、上司やクライアントを説得できるレポート作成のテクニックまで。

「周囲に理解されない」「役立つデータが得られない」と悩むアクセス解析担当者、コンテンツ設計や広告キャンペーンを見直したいWeb担当者、チームの意識統一を図りたいディレクターなど、すべてのデジタルマーケター必読の1冊です。

清水 誠 著

  • 定価:2,592円円 (本体2,400円)
  • 発売日:2015年3月18日
  • 形態:A5(184ページ)
  • ISBN:978-4-04-8661423
  • プロデュース:アスキー・メディアワークス
  • 発行:株式会社KADOKAWA

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