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時計をめぐる四方山話 第4回

精度とエネルギー問題は克服できるか

単体では時刻を正確に表示できないApple Watch

2015年04月10日 09時00分更新

文● Watch Your Watch 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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 4月10日から各Apple Store、銀座と表参道のソフトバンクショップや伊勢丹などで、Apple Watchの試着や予約受付を開始する。Watchを名乗りながら、iPhoneがないと単体では正しい時刻を刻めないどころか時刻の表示もできないバッテリーが24時間持たないなど、時計の体をなしていないともいえる。これまで時計はどのように進化し、現在に至るのだろうか。

 実は日本メーカーが先導する腕時計のテクノロジーの進化は、Apple Watchとシンクロする面もあるのだ。

腕時計は「精度の向上」に取り組んできた

 時計の主目的とは、何を差し置いても「正確な時刻を表示し、刻む」こと。

 時計の精度は、一定のリズムをいかに短くかつ正確に刻めるかにかかっている。古典的な柱時計の場合、往復する振り子が規則正しいリズムを刻み、機械式腕時計の場合は、テンプとアンクル、ガンギ車がそれを担う。

 振り子の振動数(=ビート)は無限にあげられるわけではない。ゼンマイの消費が早くなるうえに、ビートを上げるほど部品の摩擦が増える。ハイビートムーブメントの多くは2万8800振動、すなわち一秒間に8回のリズムを刻んでいる。

 これは微細な部品にとっては限界に近い仕事だ。時計は正確なだけでなく信頼に足るツールでなければならない。これ以上のハイビート化は諸刃の剣となる。

 これは機械式時計の話だが、クオーツ式腕時計ではクオーツ(水晶)の発信子がビートを刻む。水晶に電流を流すと規則正しいパルスを発生するのだ。構造はシンプルで、姿勢差、衝撃などの影響を受けにくい。ビートを上げすぎると燃費が落ちるのはクオーツも同じ。現在のクオーツ時計は3万2768振動に設定されている。精度は機械式の30倍~60倍ともいわれている。

 ただし、クオーツ式には最大の弱点、バッテリー切れのリスクがある。例えばダイバーズウオッチ。ゼンマイなら潜る前にしっかり巻けばよいだけの話だが、潜水中に電池切れで時計が止まってしまったら大変なことになる。また、世界には電池を安定して供給できない地域がたくさんある

 つまり機械式時計のように「エネルギーを自己補填で供給」、これがクオーツウオッチの長年で夢。精度はクオーツで駆動系は機械式の自動巻き腕時計があればいいのに、という考え方はそれ以前からあった。

自己発電、ソーラーエネルギーでバッテリー問題に挑む

 1986年に、人の動きで発電するクオーツ腕時計キネティックがセイコーから発表され、大きな話題になった。機械式時計は時計内の扇型のパーツ(回転錘)が人の腕の動きで回転することでゼンマイを巻き運動エネルギーに変える。キネティックも回転錘の運動エネルギーを使うのは機械式自動巻きと同じだが、ゼンマイを巻くのではなく発電し二次電池に電力を蓄積する。クオーツの精度を持ち、さらに7日間のエレルギーを蓄えるパワーリザーブを実現しており、この点でも並の機械式腕時計ではかなわなかった。しかしなぜキネティックがクオーツ式時計のように、世界を席巻しなかったのか。それは発案したセイコーが、技術を他社に供給しなかったからだ。

 その後、セイコーは1978年に特許を出願した調速機構はクオーツ、針はゼンマイと歯車で動かす機械式時計を具現化する。それが1998年に完成したスプリングドライブだ。ゼンマイ駆動なのでトルクは充分。滑らかに秒針が動く上に、リュウズを巻いてパワーチャージができる。電池を持たないから電池交換は不要で精度は月差10秒という正確さを誇る。しかし、スプリングドライブの技術も自社利用限定に留めている。

 一方シチズンは早くから太陽光発電に注力してきた。1976年に世界初の太陽電池充電式腕時計「クリストロン ソーラーセル」を発売。その技術を誇示するように文字盤の大部分をソーラーセルが占めるものだったが、そうでもしないと発電に充分な光を受けることができないという理由のほうが大きかった。

 その後、1986年にフル充電200時間駆動を実現したモデル、1995年にはリチウムイオン二次電池を採用しフル充電で6ヶ月駆動、というように発電効率も蓄電能力も年を追うごとに飛躍的な向上を遂げる。

外部からの情報で精度を高める試み

2012年3月、世界に先駆けてスマホと連動するBluetooth V4.0対応のG-SHOCK「GB-6900」を発売

 ではクオーツ以降の精度の進化はどうだろうか? 1993年、誤差は10万年に1秒という正確さをもつ原子時計をもとに送信される標準電波を受信し、時刻を表示する電波時計をシチズンが発表。その後、2011年シチズンは人工衛星から電波を受信して時刻・カレンダーを自動修正する衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト」を発表。

 同年、カシオ計算機はBluetooth経由でスマホから正確な時刻を取得するG-SHOCKの試作機を発表し、2012年3月にG-SHOCK「GB-6900」として発売、これまで時計自体で正確な時を刻むことにこだわっていたセイコーが重い腰を上げ2012年にGPS衛星から時刻、位置情報を受信するソーラーGPSウオッチ「セイコー アストロン」を発売した。

 これらの技術は積み重ねられた発電・蓄電のテクノロジーがなければ実現できなかったはずだ。衛星からの電波受信は通常の運針の1000倍〜1万倍の電力を要するのだから。

 長い時計技術の歴史のなかで、時計師たちが憧れてきた宇宙が持つ正確さと永続性。日本時計メーカーのテクノロジーは、本場スイスとは異なるベクトルで競い合い、全く異なる境地に達することになった。Apple Watchは時計業界における大きなブレイクスルーになるのだろうか。

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