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時計をめぐる四方山話 ― 第2回

腕時計のエネルギー問題

Apple Watchが充電問題から開放される日はいつ!?

2015年03月27日 09時00分更新

文● Watch Your Watch 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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 Apple Watchについて語られるときに、残念なニュアンスで語られることが多いのは毎日充電が必要なことだ。充電は確かに面倒だし、充電中の数時間は使用できないわけで、それが毎日存在するということだ。これをApple Watchを買わないことの言い訳にする向きも多いのではないだろうか。ちなみにウェアラブルマシンの先達、腕時計ではその問題はとっくの昔に解決されている。

 13世紀にはすでに機械式時計が存在していた。当時の時計の多くは動力に水や錘(すい)の位置エネルギーを利用した。ハト時計のチェーンの先についたオモリ、あれが錘である。水をくみ上げたり錘を移動する作業が時計を管理する者を煩わせていた。帯状のバネを矯めることでエネルギーを蓄積し動力源とする装置=ゼンマイで駆動する時計が登場するのは15世紀半ばのこと。ゼンマイの採用は時計に革命をもたらした。ゼンマイは完全に内蔵可能であり外部のエネルギーソースが不要で、手で巻きさえすれけばパワーチャージができる。時計は移動可能なデバイスとなったのだ。

 コンピュータが電源ケーブルから開放されたのは、1985年のこと。時計はそれに400年以上先駆けて、持ち運べるものとなっていた。もっともアップル初のモバイルマシンMacintosh Portableの重量が約8kgだったのと同様、誕生した当初の携帯時計も5kgを超えるシロモノだった。しかし携帯時計もコンピュータと同様に高性能化・小型化の進化の歴史をたどり懐中時計へと発展する。初期の懐中時計はカギがついていて、それを穴にさして香箱というゼンマイユニットを巻いていた。やがてカギの役割はリュウズが引き継ぐこととなる。

 現在でも、自社開発キャリバーを誇る多くの高級腕時計ブランドは、手巻き式の新作をリリースしている。それらのうちいくつかは、ゼンマイの形状を工夫したり香箱を複数搭載するなどして、毎日のゼンマイを巻く作業からユーザーを開放している。例えばパネライの8DAYSは、文字通り一度のフルチャージで8日間正確に時を刻んでくれる。

歴史に名を残す、スイスの時計師アブラアン=ルイ・ペルレ

 さて毎日ゼンマイを巻くことは、数百年ものあいだ時計を使う者の義務だった。18世紀の時計師たちは、その義務からの開放さえも実現していた。時計師アブラアン=ルイ・ペルレは、懐中時計の内部に半円型の回転錘(ローター)を付け、ユーザーの活動で生まれる運動エネルギーでゼンマイを巻き上げる自動巻き懐中時計を開発していた。時計の居場所がポケットから手首に移ることで、自動巻き機構はより実用的なものとなる。よく動く腕の上は運動エネルギーを得るには最適な場所だからだ。

 1926年ハーウッドによって、回転錘の半回転運動でゼンマイの巻き上げを行う腕時計が発表され、自動巻き腕時計は実用化する。1931年にロレックスによってローターが全回転する、ほぼ現在の形の自動巻き腕時計が完成する。腕時計は80年以上前にパワーチャージの義務から完全に開放されているのだ。

 ゼンマイはコンセントなどの外部リソースが不要で、チャージに要する時間も充電に比べて圧倒的に短い。自動巻きならば、装着して活動していればチャージできてしまう。偉大なる過去の時計師たちの目から見て、毎日充電しなければならないデバイスはどのように映るのか想像するのも一興だ。

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