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Yahoo! JAPANのクラウド基盤採用に至った経緯を開発側にインタビュー

クラウド移行は重かった?ファーストサーバのエンジニアに聞く

2015年03月31日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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「サーバーを捨てる」という大胆な宣言を掲げ、クラウド型の新しいホスティングサービスを提供するファーストサーバの「Zenlogic」。前回は社長の村竹昌人氏のインタビューをお届けしたが、今回は開発現場の3人のメンバーに話を聞いた。

データ消失事故がきっかけとなったインフラ刷新

 ファーストサーバが2月に発表したZenlogicは、Yahoo! JAPANの構築したIaaS型クラウド基盤を用いた同社の新しいサービスになる。第一弾のZenlogicホスティングでは、1v CPU/1GBメモリの構成で月額2970円(12ヶ月契約時の税抜価格)からリソースコミット型のサーバーを利用できる。しかも、クラウド基盤を採用しているため、CPUやメモリ、ディスクなどのリソースを可変させることが可能になる。

 開発側から見ても、重要なのはサービスそのものよりも、サービスを支えるプラットフォームの開発基盤だったという。Zenlogic事業推進部 部長の辻野欣悟氏は、「ホスティングサービスが第一弾ではあるのですが、もともとの構想としてはサービス提供基盤を整備したいというのがコンセプトでした。開発から運用の環境までトータルで設計し直しました」と語る。

ファーストサーバ Zenlogic事業推進部 部長 辻野欣悟氏

 従来のインフラはサービスに対して、ハードウェアやソフトウェア、開発・運用がひも付いており、オプションを追加するたびに新しいコンポーネントを増設していたイメージ。創業当初からインフラの設計を担当してきた開発部の川原将司氏は、「増改築のたびに、そのとき旬な技術を用いていた部分もあるので、複雑になっていったのは確か」と振り返る。

ファーストサーバ 開発部 エキスパートエンジニア 川原将司氏

 これに対して、リプレースの話は何度も持ち上がっていたが、投資規模が大きく二の足を踏んでいたというのは、社長の村竹氏が話していたとおり。メンバーによっても問題意識が異なり、今回のように全体を刷新しようという話にまとめることが難しかった。「私個人としては、サービスのラインナップが増えているのに、組織間の壁があるのに懸念はあった」と辻野氏は語る。

 基盤開発部 サービス基盤グループ 課長の上畑圭史氏は、「今まではルールとプロセスがメインで、開発側が運用中のシステムに入れるようになっていたが、システム側できちんとログインやアクセス管理をしたいと考えていた。特に事故のあとは、いつ誰が何をやったという変更管理が必要になった」と語る。また、川原氏は「昔は人も少なかったので、1人がルートを持ってればよかった。今は人も増えて、ルールやポリシーだけでは運用するのは無理になった」と分析する。

ファーストサーバ 基盤開発部 サービス基盤グループ 課長 上畑圭史氏

 こうしてデータ消失事故をきっかけに、組織的に開発・運用できる仕組みを、システムとして用意する必要が出てきた。「課金システムの老朽化やこれ以上の拡張の難しさ、運用・開発の分離などの課題があり、前から刷新しなければならないことがわかっていた。データ消失事故がきっかけになったのは確か。安心して長く使ってもらえるインフラを作るのが、今回の目的でした」と辻野氏は振り返る。

Yahoo! JAPANのクラウド基盤採用に至るまで

 Yahoo! JAPANのクラウド基盤決定に関しては経営的な判断が大きかったが、開発側でも得意分野にリソースを集中させ、コストを削減する必要性があった。しかし、現場ではそれぞれの立場で意見が異なっていたという。

現場でもクラウド移行に関しては意見が異なっていたという

 辻野氏は社長の村竹氏と近く、サービス開発のためにデータセンターやハードウェアの選定やラック設計をやるのは本質ではないという立場。安くていいものを提供するために、より顧客に近い立場で開発を手がけた方がよいという意見だ。「あと、インフラのコストは以前から気になっていた。事前の原価シミュレーションでは十分に元が取れていたはずなのに、いざ運用が始まると故障や障害でコストが上がる。こういう課題が解消できるのは重要だと思った」(辻野氏)。

 一方、川原氏は「僕は自前で持つ方が好きなので、最初はなんやねんと(笑)。自前で持てば、なにかあった時にも自分たちで責任を持って素早く解決できると思っている。でも、安くて、ちゃんと面倒見てくれればいいやと。そんなに重い話だとは受け止めなかった」と語る。そして辻野氏と川原氏の中立を謳う上畑氏は、「データセンターやハードウェアを持つのはコスト面でも負担。正直、AWSやGoogleなど大規模なインフラ規模を持つところには、今後は勝てなくなってくるので、いい機会だと思った」という。

 Yahoo! JAPANのインフラ部隊とも、必ずしも意見が一致したわけではない。Yahoo! JAPANが提供しているのはアプリケーションなので、ハードウェアの障害や不具合はアプリケーションレイヤーで吸収して処理するというコンセプト。ハードウェアの障害が起こっても、アプリケーションがダウンしていなければ基本的に問題ないという考え方だ。しかし、長らくインフラレイヤーを提供してきたファーストサーバとしては、ハードウェアの障害は直接サービス停止につながるという思考が強い。「障害が起こったら、いち早く対応するというのがまさに自分たちの役割だったので違和感はあった。だから、Yahoo! JAPANのエンジニアたちとも運用のやり方などを議論した」と辻野氏は語る。

「Yahoo! JAPANのエンジニアたちとも運用のやり方などを議論した(辻野氏)

 こうした議論の後、ファーストサーバはYahoo! JAPAN側が従来から取り組んでいたIaaS型クラウド基盤の導入を決定。OpenStackベースの仮想サーバーを利用して、サービスを構築することにした。当初は外部クラウドの利用でコストがあうか疑問もあったが、Yahoo! JAPANのIaaS型クラウドでは運用面を含めたコストメリットも算出できたという。「ラックスペースを計算しなくて済むようになった(笑)」と辻野氏は語る。

(次ページ、言語まで統一して臨んだサービス基盤開発)


 

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