さてネットワークプレーヤーではNASにデータを保存し、タブレットやPCで操作して、有線や無線のLANからデータを呼び出します。ヤマハなど国内のメーカーもそれに追従しました。ただ、その中でソニーだけが異なるアプローチをとりました。
2013年に出た「HAP-Z1ES」という機種にはHDDが内蔵されています。(HDD内蔵機種という意味では)一時期、アメリカのOliveという会社の製品が国内でも販売されていました。LINNとは異なる概念を持つ製品です。
LINNは2009年頃にCDをやめて(アナログ再生のLP12)とDSに専念すると宣言しましたが、OliveはCDドライブを内蔵していて、CDが再生でき、CDのデータをHDDにリッピングすることもできました。このHDDにはPCからファイルを転送することもでき、音もよかった。Oliveの優れている点は、HDDを含めてトータルの音作りがされていた点です。
ただ日本では失敗しました。あまりにサポート体制が悪かったから。故障しても代理店では対応できない。本国に聞いても、現地で対応してくれといって喧嘩別れです。
HDD内蔵で記録する場所を含めて音質のよさを追求
ソニーのZ1ESはHDDをプレーヤーに内蔵することで利便性が得られるだけでなく音作りにもプラスに働くと考えています。やはりデータが外にあるのは、接続の面でも物理的な機器が増えるという点でも大変だから、HDDは内蔵すべきという考え方ですね。
何よりも転送がすごく簡単になる。ダウンロードするたびにパソコンからドラッグ&ドロップするのは、意外な手間です。ソニーの場合は、パソコンの電源さえ入っていれば、常駐ソフトでフォルダーに新しいファイルが追加されると自動的に転送が始まります。ネットワークプレーヤー側の電源をわざわざ入れなおす必要もない。
ソニーという会社は単に、世界的なトレンドだからネットワークプレーヤーを作っているわけじゃないのでしょう。ソニー的なアレンジを加えて、より使いやすく、より音質を良くするために頑張ったのだと思います。
NASの機能を便利にするe-onkyoの取り組み
NASの方を簡便にしようという動きも出てきました。e-onkyo musicがリモートダウンロードのサービスを開始しています。スマホで楽曲を買うと、自動的にインターネットのサーバーから自宅のNASにデータが送られる仕組みです。NAS側で10分に1回ほどe-onkyo musicのサーバーを見に行き、更新があれば自動的にダウンロードを始める仕組みです。こうした使い勝手の進展がネットワークプレーヤーの分野で見られます。
もうひとつネットワークプレーヤーには進化するという利点があります。常にネットとつながっているので、最新のファームウェアをダウンロードして機能を強化できるのです。LINNも新しいフォーマットに対応したり、音質面を改善したりと進化を続けてきました。発売後いろいろな開発が進み、機器は同じだけれど、ちょっとずつ音もよくなっていく、というのが面白いところなのです。
ソニーは昨秋にZ1ESのファームウェア更新で音質を向上させました。デジタルフィルターの設定を変えることによって、音が変わることをソニーのエンジニアが発見したので皆さんに還元します、という趣旨でした。オーディオメーカーは常に研究開発をしています。これまでだと、その成果が次の製品に入るのは新製品が出る3年後だったりしたのですが、今後は買ったらずっと面倒をみます。操作性も音質も向上させながら、ユーザーの満足感を高めていこうとする点も、ネットワークプレーヤーのメリットだと感じます。
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