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イスラエルITいろはにほへと 第18回

世界最高レベルの技術力を誇るイスラエルで開発を実施

イスラエルから世界展開を狙う、日本発セキュリティースタートアップ

2015年03月06日 09時00分更新

文● 加藤スティーブ(ISRATECH)

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 Capyというスタートアップを聞いたことがあるだろうか。

 Capyは、2010年、京都大学博士課程在学中の岡田満雄氏による研究プロジェクトとして開始。画像や音楽等のデジタルコンテンツに情報を埋め込む電子すかし技術から着想を得て、Capyの原型となるアイディアが生み出された。その後、博士課程を修了した岡田満雄氏、そして同じく京都大学を卒業した島田幸輝氏によって米・デラウェア州にCapy Inc.を設立、直後にWilliam H. Saito氏を投資家兼ディレクターとして同社に迎え入れている。

Capy.,Inc_Founder&CEOの岡田満雄氏

Capy.,Inc_Co-founder&CTOの島田幸輝氏

 同社の技術は、2013年12月に高いセキュリティ性とユーザビリティを両立した不正ログイン対策ツール「Capyパズルキャプチャ」のサービス提供を開始して以来、大手通信事業者、大手ゲーム・メーカー等、国内大手企業様を中心に採用。

 その技術は、シリコンバレーで開催されたTiE50 2013にてTiE50 Winnerに選出、IVS 2013 Fall KyotoのLaunch Padで優勝するなど、業界では高い評価を得ている。2014年8月には、人間の手による不正ログインも検知することを可能とした「Capyリスクベース認証」の開発にも成功。

Microsoft Ventures Accelerator TLV Batch DemoDayでのCapy.,Incのプレゼンの様子

 そんな中、Microsoft Venturesが世界6拠点で展開しているアクセレータープログラム「Microsoft Accelerator」に採択され、2014年9月共同創業者でCEOの岡田満雄氏と同CTOの島田幸輝氏はイスラエルへ移住し、バッチプログラムに参加した。イスラエルといえば世界のサイバーセキュリティの中枢、そんなイスラエルに移住したCapyのその後を追ってみた。

 CapyのCTO島田氏に敢えてなぜ、イスラエルに挑んでいるのかを聞いた。

 「創業当初よりグローバル展開を考えており、イスラエルのスタートアップ・コミュニティはそのノウハウの宝庫。第二言語として英語が幅広く使われており、国内マーケット(人口約800万人)は小さく、多くの移民による文化の多様性など、さまざまな要素がイスラエル独自のグローバル文化を形成しています。

 文化的に結びつきが強いアメリカおよびヨーロッパ地域への市場開拓戦略は多くのノウハウ・知恵が結集されており、これらの市場進出を同じく目指す弊社にとって大変参考になります。スタートアップを取り巻く環境がとても成熟しており、グローバル・スタートアップを目指すうえで必要となるサポートを一通りすべて受けることができます

 国家成立の背景から常にサイバー攻撃の危機と隣合わせであったイスラエルは、それによってまさに、サイバーセキュリティ先進国として非常に高度な知能が集結しています。極めて専門性が高いメンタリングを受けることができるだけでなく、同じ分野で挑戦する他のスタートアップと切磋琢磨する経験も大変貴重なものでした。軍事産業や多国籍企業のR&D施設を背景とした、世界最高レベルの技術力を誇るイスラエルで開発を実施することは、製品の技術力をさらに次のレベルにと向上させるのに大変有効でした」

 と移住の理由を語る。さらに、イスラエルへ移住以後、変化してきたこと、得たものとしては、

 「まず、イスラエルに来て驚かされたことは、スタートアップの技術力の高さ。多くの起業家が多国籍ハイテク企業における研究、もしくはイスラエル軍情報機関での勤務経験など、世界最高レベルの技術に精通しています。ブランディングやディストリビューション等よりもまずは技術力を高めることに重きを置くスタートアップ文化は、世界のどの地域とも異なる独自のスタートアップ文化だと感じています。

 シリアルアントレプレナーが身近にたくさんいるため、成功するスタートアップに必要なものは何か、また失敗するスタートアップに共通する過ちなど、本やネットでも得ることができない貴重な知恵を蓄えています。Waze、Wix、Viberをはじめとしたイスラエル発のサクセスストーリーが毎年いくつも誕生していることも、この国のスタートアップ環境を活性化させるうえで非常に大きな要素として働いているように感じられます」

 と確かな手応えを感じている。

 2015年2月にはイスラエル移住後初めてとなる、不正ログインなどサイバー攻撃への対策の精度をさらに向上させる最新セキュリティ・ツール「Capyリアルタイムブラックリスト」をリリースした。

 Capyが日本発イスラエル経由のスタートアップとして、世界展開する先駆けとなるか。今後に注目したい。



筆者紹介──加藤スティーブ


著者近影

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40〜60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。


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