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休眠ユーザーを呼び起こせ!リテンションマーケティング3つの手法

2015年02月24日 11時00分更新

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ゲームアプリ業界の注目ワード

 今、ゲームアプリ業界でホットなキーワードがあります。それは「リテンション」です。リテンション(Retention)とは、維持・保持といった意味合いの言葉。「リテンションマーケティング」は、既存顧客との関係を維持していくためのマーケティング活動全般を指します。アプリマーケティング領域において、過去にアプリをダウンロードして使わなくなった、またはアンインストールをしてしまったユーザーを呼び起こすマーケティング手法として注目を浴びています。

 なぜリテンションが重要なのでしょうか? そこには、ゲームアプリの普及が関係しています。現在、ゲームアプリの広告に接触する機会がたくさんあると思います。TVではアプリのCMが流れ、スマホを使っているときにはバナー広告などが目に入ります。それによりゲームアプリのダウンロード数は全体的に大幅に増えています。

 有名なタイトルでは、ガンホーの『パズル&ドラゴンズ』が3,300万ダウンロード、コロプラの『魔法使いと黒猫のウィズ』が3,200万ダウンロード、ミクシーの『モンスターストライク』が2,000万ダウンロードなどゲームアプリのダウンロード数が大幅に伸びています
※ダウンロード数は、2月3日時点の各社HPで公表数を参照

 ダウンロード数が数百万を超えてくると、新規ユーザーを獲得することが難しくなってきます。また、新規ユーザーを獲得できたとしても獲得効率(広告費用対効果)が悪くなるため、このフェーズに入ったゲーム各社はプロモーションに頭を悩ませています。新規獲得の難化と非効率化から生まれたものが、リテンションという考えです。過去にゲームで遊んでくれていたユーザーを呼び起こす(休眠復帰)を促すリテンションは、新規ユーザーにアプリをダウンロードしてもらうことと、同等の価値があると考えられているのです。

効率的なリテンションを実現する3つのポイント

 一度利用を止めてしまったユーザーは、ただ待っていても戻ってきてくれません。ユーザーに戻ってきてもらうためには、ユーザーに再度気付きを与える必要があります。つまり、「昔遊んでたゲームにこんなのあったな!」とか、「このゲーム、もう一回遊んでみよう!」と思ってもらう必要があるのです。

 事実、D2C Rスケールアウトのユーザアンケート調査では、平均で10~20%程度のユーザーは広告経由でリテンションしている結果が出ています。ユーザーの目を再度引くことができれば、再びゲームに戻ってきてくれる可能性があると言えます。

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過去に使っていたアプリの広告を見て、使用を再開したことはあるか?

 では、効率的にリテンションするにはどのようにすべきでしょうか? 大きく3つのポイントがあります。

  1. 1度ダウンロードしたユーザーにだけ広告を配信する
  2. リテンション向けのクリエイティブを使用する
  3. ゲーム運営・施策と連動させてリテンションさせる

ポイント1:一度ダウンロードしたユーザーにだけ広告を配信する

 当然のことながら、まだアプリをダウンロードしたことのないユーザーにリテンションで広告を配信しても無駄になってしまいます。そのため、新規ユーザー向けとリテンション向けで広告を分けて考える必要があります。実施方法は様々ありますが、アプリをダウンロードした際のIDを元にターゲティングを行う手法などが考えられます。

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一度ダウンロードしたユーザーにだけ広告を配信

ポイント2:リテンション向けのクリエイティブを使用する。

 ゲーム広告のクリエイティブといえば、ゲームの面白さなどを伝えていることが多いでしょう。しかし、新規ユーザー向けはそれでも良いですが、リテンションさせたいユーザーに対しては、同じ方法論は通用しません。なぜなら、既にゲーム内容を理解しているからです。そこでゲーム性ではなくインセンティブや新規追加機能を訴求するクリエイティブを用いることが重要です。新ユニット追加、既存キャラの新進化、新ステージ追加、新機能実装、アイテムプレゼントなどが有効だと考えられます。

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リテンション向けのクリエイティブ

ポイント3:ゲーム運営・施策と連動させてリテンションさせる

 リテンション対象のユーザーがゲームの利用を止めた理由は様々です。途中でゲームに行き詰まったまま放置されているかもしれません。チュートリアル(ゲーム説明)が長くて、ゲーム自体をあまり進めていない可能性もあります。そのため、ユーザーのレベルに合わせてアイテムを配布したり、ゲーム内イベントを実施したり、アニメとコラボしたりするなど、ゲーム施策とマーケティング施策を合わせて実施することが重要になります。

リテンションの効果のほどは?

 リテンションの効果は、どれ程のものなのでしょうか。ゲーム会社に協力をしてもらい、ユーザーを以下の6つの属性群に分けて、実際にリテンションによって広告を出稿し、ユーザーがどの程度復帰・継続するのか測定しました。

  1. 7日間休眠ユーザー:直近7日ゲームを実施していないユーザー
  2. チュートリアル突破ユーザー:チュートリアルまで過去完了していたユーザー
  3. 自然流入ユーザー:広告経由ではなく、ユーザー自ら過去にアプリをダウンロードして遊んでいたユーザー
  4. リワード広告ユーザー:インセンティブを目的に過去にアプリをダウンロードしたユーザー
  5. アドネットワーク流入ユーザー:アドネットワーク広告経由で過去にアプリをダウンロードしたユーザー
  6. 課金ユーザー:過去に対象ゲーム内で課金をしていたユーザー

 リテンションによる広告をクリックした後の再ダウンロード率(CVR)は次の通りでした。CVRは低めですが、リテンション広告を配信することで、既に遊んでいたユーザーかつアプリをアンインストールしたユーザーが、再インストールするきっかけになりうることがわかりました。

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リテンションによる広告をクリックした後の再ダウンロード率(CVR)

 リワード広告ユーザーはアプリダウンロード時のインセンティブが目的だった層です。そのため、リテンションで復帰しなかったことは妥当だと考えられます。また、アドネットワーク流入ユーザーと、課金ユーザーのダウンロードもありませんでした。おそらく、両ユーザーは対象のゲームを遊び尽くした後でアプリをアンインストールしたために、ゲームに戻らなかったと想定されます。

 また、現在もアプリを所持しているが遊んでいないユーザーが、リテンションによる広告をクリックした後の再訪率(DAU)は、CVRとほぼ同様の結果になっています。

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アプリを所持しているが遊んでいないユーザーがリテンションによる広告をクリックした後の再訪率(DAU)

 一方で、再訪ユーザーのゲームチュートリアル突破率に目を向けると、非常に良い結果が出ました。ユーザーは既にゲームを遊んだ事があるので、ゲーム性を理解している状態です。そのため、ゲームに対して違和感や「思っていたものと違う」というギャップを持つことなく、チュートリアルを進めることができたと考えられます。

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再訪ユーザーのゲームチュートリアル突破率

 しかし、再インストールユーザーの継続率は、15%前後に留まりました。チュートリアルを突破したものの、翌日以降継続していない状況です。ゲームの内容・施策自体にも関係するため、一概に原因を判断できませんが、一度遊んでいたゲームを再度プレイしてみたが、何も変わってなかったので、止めてしまったと読み取れます。

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再インストールユーザーの継続率

 施策全体では、リテンション広告を配信した事でユーザーが回帰し、休眠ユーザーの呼び起こしが作用したと考えられるため、リテンションを実施する意味はあると言えます。その後、継続をさせるには先ほど触れた通りゲーム内の施策を工夫する施策が必要となってくるでしょう。

リテンションによる広告の未来

 ゲームアプリ市場は競争も激しく、レッドオーシャンとなっています。ローンチしてから長期間遊ばれているゲームタイトルも多く、新規ゲームでヒットさせることも容易ではなくなってきています。そのため、既存ゲームタイトルをいかに長く維持させるかが課題になります。このような状況からも、今後、より一層リテンションのニーズは高まり、広告市場は活況になっていくと考えられます。

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