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現行の3.5倍の性能を持つ新CPU「Cortex-A72」を中国で発表したARM

2015年02月08日 12時00分更新

文● 塩田紳二

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TSMCの16nmプロセスで製造を予定するCortex-A72搭載SoC

 Cortex-A72は、16nmのフィン型FETによる製造を想定している。これに対して、現行のCortex-A15は、28nmのプレーナー型FETで製造されている。一般に製造プロセスが微細化すると、動作が高速化する。16nmからは、Fin構造のFETが使われ、これによりリーク電流を減らすことが可能で消費電力が改善される。

 回路の最適化とは、論理的に設計したプロセッサを具体的な回路に変換するときに行なわれる作業だ。現在では、プロセッサのような複雑なデバイスでは、ハードウェア記述言語を使って設計され、これをソフトウェアで回路に変換していく。これを論理合成という。ソフトウェアによる自動処理では、どうしても冗長な部分があり、これを手動で最適化したり、さらに最適化専用のソフトウェアを別途開発して処理させることもある。

 また、こうした設計はある段階までは、製造プロセスとは無関係だが、具体的ゲートやトランジスタで回路を作る段階では、製造プロセスが持つ特性などの影響を考慮した「最適化」を行なう必要がある。

 もちろん、最適化には終わりがなく、再現なくすることも可能なのだが、そのためには時間もコストもかかってしまう。俗に「Time to Market」と呼ばれる、製品企画から出荷までの時間を短くできないと、「時代遅れ」の製品になってしまうため、どこかで妥協が必要になる。

 Noel Hurley氏によれば、今回のCoretex-A72の開発では、この最適化の部分に注力しているのだという。なお、Coretex-A72では、64bitでは第1世代となるCortex-A57とマイクロアーキテクチャも変更されているのだが、詳しい内容については、後日発表するとのことで、今回明かにはされなかった。

 GPUであるMali-T880は、2014年に発表された800シリーズの最上位モデルだ。これも、2014年の端末に組み込まれていたMali-T760と比較して1.8倍の性能を持ち、同じ消費電力枠で同等の処理を行なうと60%の電力で動作できる。さらに既発表のビデオプロセッサ(V550、ビデオデータのエンコード、デコード処理を行なう)、ディスプレイプロセッサ(DP550。レイヤー合成や回転、スケーリング処理などを行う)の組み合わせが可能で、ハードウェア側で処理することで、システムの電力効率を高めることが可能だ。

Mali-T880は、800シリーズの最上位クラスにあたり、前世代のT760の1.8倍の性能を持ち、消費電力を40%減らしている

 もう1つの発表項目は、プロセッサ同士やGPUとメモリコントローラーを接続するCoreLink CCI-500だ。CCI-500を使うことで、前世代のCCI-400に比べてプロセッサのメモリアクセス効率を30%強化することができるほか、GPUメモリ間の転送が高速化される。また、CCI-500には、プロセッサやGPUのキャッシュを同一に保つための機構に「スヌープフィルター」が統合されており、これにより、キャッシュ同期に関する無駄な処理が抑制され、動作効率が改善し、消費電力も削減された。

CCI-500は、高速化した内部接続技術。メモリアクセスを30%高め、前世代の2倍のピーク転送性能を持つ

 これらのプロセッサを製造するために、ARMはTSMC社の16nm FinFET+(16FF+)プロセス用にPOP IPを開発した。POPとは、Processor Optimaization Packageの略で、論理的なプロセッサ設計を具体的な半導体製造のためのマスクパターンなどに変換する場合に使う最適化のための情報などをまとめたものだ。

TSMCの16nm FinFET+プロセスに対応したPOP IPが用意され、これによりモバイルデバイス向けに消費電力を重視したCortex-A72を製造すると最大クロック周波数は2.5GHzになるという

 一般にARM社のプロセッサは、ライセンスを受けた半導体メーカーが周辺回路などと組み合わせてSoCを設計し、これをファウンダリーと呼ばれる企業が製造する。プロセッサのような高速で動作する回路では、製造するプロセスに合わせて回路を設計する必要があり、そのためには製造プロセスに関する知識やプロセッサの動作に対する深い知識が必要になるのだが、特定の製造プロセスを前提に、こうした作業をあらかじめ行なっておき、最適化処理を簡略化するのがPOPである。

 つまり、POPがリリースされたことで、ライセンスを受ける半導体メーカーは、すぐにCortex-A72と自社の回路などを組み合わせてSoCの設計に入ることが可能になるというわけだ。

ARMが新プロセッサの発表会を中国で開催した意味

 今回のCortex-A72は、すでに10社がライセンスを取得しているというのだが、具体的な社名が出たのは、HiSilicon、MediaTek、Qualcomm、Rockchipの4社で、そのうち3社は、アジア(中国と台湾)のメーカーである。発表会に3社から幹部などが参加しているのはもちろんだが、ARM側も英国からプロセッサ担当役員のPete Hutton氏と技術担当のNoel Hurley氏を呼ぶという力の入れようである。

 ハイエンドではQualcommのSnapdragonが大きなシェアを誇っているが、一方でミッドエンド/ローエンド向けでは、アジアの半導体メーカーのシェアも高い。その意味では、ARMはアジアで発表会を行ない、これらの企業を重視しているというスタンスを示す必要があったのだと考えられる。

Cortex-A72のライセンスを受ける中国の半導体メーカーがゲストとして参加した。左からARM社中国担当執行副社長のAllen Wu氏、Hisilicon社Daniel Diao氏、Media TekのAndrew Chang氏、TSMC中国のPeter Chen氏

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