このページの本文へ

インメモリプラットフォームでOLTP/OLAP融合、“リアルタイムビジネス”を支援

SAPが23年ぶりに主力ERP刷新、「Business Suite 4 HANA」の狙い

2015年02月09日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 SAPジャパンは2月6日、同社のフラッグシップERPスイート製品の最新版となる「SAP Business Suite 4 HANA」(略称:S/4HANA)を発表した。インメモリプラットフォームのHANA上で構築されたS/4HANAは、OLTP/OLAPの融合とリアルタイム処理化、HTML5ベースでモバイルにも対応する「SAP Fiori」UIの採用など、SAPにとって革新的なリリースとなっている。

ERPをリアルタイムな“ビジネスアクション”につなげる

「SAP Business Suite 4 HANA(SAP S/4HANA)」を発表する、SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏

 同日の発表会に出席したSAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏は、S/4HANAでは、1992年発表の「SAP R/3」から数えて23年ぶりとなる大幅な刷新が図られたと紹介し、SAPの歴史において重要な製品発表であることを強調した。なお、S/4の「S」は「Simple」を、「4」は「4世代目」を表す。

SAP S/4HANAは、1992年発表のSAP R/3から23年ぶりの刷新となる

 福田氏は、ある流通小売業のSAP顧客から、ERPが「リアルタイムのビジネスアクション」につながっていないという不満を聞いたエピソードを披露した。

 「たとえば、ある日突然、売り場で特定の商品が売れ始める。ERPは当然、そのことをリアルタイムに“知っている(データを持っている)”。さらに、その商品が数時間後には欠品を起こすだろうことも知っている。近隣店舗にある在庫を、2時間以内に発送するよう指示すればいいこともわかっている。だが、トランザクションを記録するシステムである従来のERPでは、アーキテクチャ上の限界があり、何らかのアクションに結びつけることができなかった」(福田氏)

 つまり、ERPがいくら詳細なデータをリアルタイムに「記録」していたとしても、顧客が具体的なアクションを起こせるのは翌日以降、夜間バッチ処理したデータを別システム(DWH)で分析してからになるという不満があるわけだ。

 福田氏は、このような従来のERPにおけるアーキテクチャ上の問題点を、「OLTP/OLAPが分離していること」「PCの前にいないとデータが活用できない、業務現場への“ラストワンマイル”がつながっていないこと」「サプライヤーや物流会社など、社外のビジネスネットワークに対してIT提供の不十分さ」という3点にまとめた。

 さらに、今後のコンピューティング環境を考えると、たとえば顧客が来店した瞬間や売り場を通った瞬間に、在庫状況を確認したうえで商品を勧められるような「完全にリアルタイムな対応」と「フロントからバックエンドまで、エンドトゥエンドのビジネスシステム連携」も重要であると述べる。「S/4HANAでは、これらの課題をきっちりカバーしている」(福田氏)。

独SAPのエグゼクティブボードメンバーで、グローバルカスタマーオペレーションズ担当プレジデントのロバート・エンスリン(Robert Enslin)氏

 独SAP幹部のロバート・エンスリン氏も、「S/4HANAによって、顧客はこれまでのビジネスプロセスを完全に刷新することができる」と語る。

 「S/4HANAは、既存のERPスイート製品を単純にアップグレードしただけのものではない。まったく新しい製品であり、競合する製品は世界中どこを見ても存在しない。S/4HANAによって『リアルタイムエンタープライズ』が現実のものとなる」(エンスリン氏)

 この「リアルタイムエンタープライズ」の一例として、エンスリン氏は、昨年発表された財務部門/CFO向けSaaS「SAP Simple Finance」を挙げた。Simple Financeを活用することで、CFOは、過去ではなくリアルタイムの財務状況を参照できるようになり、すぐに次のアクションを起こすことができる。

リアルタイム化の“スピード”は、企業のビジネスに幅広いメリットを与える

 「バッチジョブ、過去のデータに基づくレポート、こうしたものは一切不要になる。あらゆるデータをリアルタイムに、どこにいても見られるようになったのだから。エンタープライズアプリケーションの未来は、ここにあると考えている」(エンスリン氏)

カラム型インメモリDBによる高速化、HTML5 UIによるモバイル対応

 S/4HANAの導入モデルは、オンプレミスエディションのほか、マネージドクラウドエディション、パブリッククラウドエディション(今年第1四半期中に開始予定)の3種類だ。エンスリン氏は「顧客のスピードに合わせて、段階的に導入できる」と説明した。

独SAP プロダクト&イノベーション担当エグゼクティブバイスプレジデントのヴィーランド・シュライナー(Wieland Schreiner)博士。S/4HANAの開発責任者である

 S/4HANAの開発責任者である独SAPのヴィーランド・シュライナー(Wieland Schreiner)氏は、技術的な側面からS/4HANAの特徴を説明した。

S/4HANAには「シンプル化されたデータモデル」「Fioriによる新たなユーザーエクスペリエンス」「ガイド付きコンフィグレーション」と大きく3つの特徴があるという

 S/4HANAでは、HANAが備えるカラム型インメモリデータベースを利用するため、データ圧縮による効率化かつ処理の高速が実現する。さらに、オンザフライ集計によってインデックスや集計テーブルなどが不要となることからデータ量も大幅に削減される、とシュライナー氏は説明した。

従来のERPで他のデータベースを使うケース、あるいはHANAを使うケースと比較しても、S/4HANAでは数倍のデータ量削減とスループット向上が実現する

 HTML5ベースのFioriでは、個々のユーザーの役割に応じたインタフェース(ロールベースインタフェース)が提供される。「複雑なUIがなくなり、より満足度が高まる」(シュライナー氏)。ビジネスユーザーにも使いやすいインタフェースを提供している。

S/4HANAのデモも披露された。ERPに格納された2.5億件のデータを、事前集計なしでリアルタイムに集計、グラフ表示、さらに特定データへの絞り込みなどを披露

他社データベースからの脱却を意図?「今後に向けて舵を切る」

 従来製品とは異なり、S/4HANAはHANAプラットフォーム(データベース)専用のERPスイートとなる。これについて福田氏は、日本市場では「昨年時点で、Business Suite新規顧客の82%がHANAプラットフォームを選択している」と述べ、オラクルなど他社データベース製品に対応していないことの影響は少ないという認識を示唆した。

 またSAPでは昨年、「SAP Business Suite 7」および「SAP Business Suite powered by SAP HANA 2013」の保守期間を2025年まで継続することを発表している。「既存の顧客に対してはデータベース選択の自由を保持しつつ、今後に向けて舵を切るという意味で(S/4HANAという)今回のオプションを提示している」(福田氏)。

 既存SAP顧客のS/4HANAへのマイグレーションについては、「(国内では)年末までに3ケタの顧客の意向を見込んでいる」(福田氏)としている。エンスリン氏、シュライナー氏はそれぞれ、S/4HANAの開発においては既存のSAP ERPからのマイグレーションが容易になるよう考えられており、開発言語であるABAPにも対応していると説明した。

■関連サイト

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ