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5分でわかる時事ソーシャル&コンテンツ 第3回

課金がない、単行本も自前で作らないcomicoが好調な理由

「最小限の編集機能と人の集まる場」がセルフパブリッシングの鍵

2015年02月04日 09時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 話題のソーシャル&コンテンツ関連トピックを、ITジャーナリストのまつもとあつし氏が独自の視点でざっくり解説! 5分でなんとなくわかります。

著者紹介:まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
 主な著書に、堀正岳氏との共著『知的生産の技術とセンス 知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術』、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』(マイナビ)、『できるネットプラス inbox』(インプレス)など。
 Twitterアカウントは@a_matsumoto

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無料マンガアプリcomicoは
セルフパブリッシングの延長線上にある?

―― 最近、セルフパブリッシング関連で驚きのニュースがありました。1月10日にcomicoのアプリダウンロード数が累計800万を達成とのこと。サービス開始が2013年10月31日ですから、要した期間は1年4ヵ月ほど。そしてcomico連載の漫画「ナルどマ」がテレビアニメ化というニュースもありました。これは同サービス初のアニメ化事例ですね。

まつもと では、今回はcomicoの800万DL話を枕に、連載「メディア維新を行く」でも7回(第41~45、47、48回)にわたって追いかけた「セルフパブリッシングの未来」について整理してみましょう。

―― comicoはいつの間にか大変なボリュームになっていますね。

まつもと はい。この1年ほどセルフパブリッシングを集中的に取材させてもらいましたが、商業出版規模の読者がいなくても生活できる、場合によってはそれ1本で食べていける可能性が出てきたことがわかったのは非常に大きな収穫です。

 comicoもプラットフォームではありますが、僕はセルフパブリッシングの延長線上にあるサービスの1つかなと考え始めています。

 なぜかと言うと、話していたように、従来型の編集部を置いていないからです。あくまで作者が自由に描いている。月額20万円の原稿料払いを保証する“公式作品”に属していても、ストーリーがつながらないなど致命的な問題以外は口出ししていないと言います。

comicoを運営するNHN PlayArtの代表取締役社長・稲積憲氏には、単行本化したヒット作『ReLIFE』第1巻発売時に、投稿システムや編集機能について伺った

 では、マンガの作者たちは何を道しるべに描いているかというと、ユーザーからのコメントやオススメマークを指標として“どんな話・展開が受けているのか?”をウォッチしながら作品づくりを進めています。

 これは極めてセルフパブリッシング的だなと。つまり、読者と作者の距離が非常に近くて、コミュニティが可視化されているんです。

―― 読者から直接お金をもらうわけではないというところも「延長線上にあるサービス」と評する所以ですか?

当初はセルフパブリッシングに半信半疑だったという

まつもと そこは商業出版とセルフパブリッシングの間に大きな谷間がある部分です。

 セルフパブリッシングでいつも問題になるのが宣伝。つまり作品をいかに知ってもらうかというスタートの部分でみなさん非常に苦労します。

 商業出版でもそこを自律的に上手くやっているとは必ずしも言えない状況ではありますが、少なくても全国津々浦々の書店に置いてもらうことはできる。自分の本を置いてくれた書店自体が、作品を知ってもらうためのマーケティングの場になる。これは非常に大きいわけです。

 ただし、初版数千部という規模をクリアしないと全国に配本できないので、そこをクリアできる企画ないし書き手じゃないと参加できません。ここに断絶というか、大きな谷間があるわけです。

 comicoはそこを、現状800万のアプリをスマホに送り込むことで自らその場所を用意し、さらに、力のある作者には月額20万円を払っています。ここまで自腹を切る形です。そして、その後の回収は自ら展開するのではなく、複数の外部パートナーと組んで展開を進めています。これは上手いやり方だと思います。

―― 単行本化、映画化、アニメ化といった権利を売っていくわけですね。

まつもと 出版社が単行本化の権利を買っているわけです。従来の編集者が担っている作家の育成機能とかパッケージにまとめあげていく部分が、出版社の外にアウトソースされているだけでなく、アウトソースされた先(=comico)でも、今までのような編集のスタイルで作られてはいない、ということです(ただしcomicoの場合、縦スクロール特化型のコマ割を再編集する作業が必要となる)。

 かなりの部分をネットコミュニティーが担うようになっているのですね。しかもこのやり方が(複数出版社からの単行本発売、もしくはアニメ化という形で)成果を上げつつあるのが現状だと思います。これは、一足先に4年間で300作品を書籍化させたE★エブリスタにも言えることです。

ベストセラーを次々に生み出している小説投稿サービス「E★エブリスタ」。代表取締役社長・池上真之氏へのインタビューでは、n対nの編集機能や作家を経済的に支えるスマホ作家特区の仕組みなどが語られた

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