働いた分が評価される単純な仕組み
売上を“どこにつける”のかは、簡潔な方法がとられている。通常のネットストアで購入された場合は、売上は新宿店に計上されるが、店頭でスキャンされた商品が後でアプリから購入された場合は、商品をスキャンした店舗に売上が計上される。これは店頭での接客にも変化をもたらす。
「アプリを接客のクロージングにも活用できるようになります。自分の店でスキャンをしてもらえれば自分の店に売上がつくので、スタッフは商品の購入を迷われているお客さまに、『とりあえずスキャンしておけば、後で購入できますよ』と積極的にアプローチができますし、ユーザーにとっては単純に便利です」(緒方氏)
緒方氏が在籍するオムニチャネル推進部では、ネットを使った売るための仕組み作りを担うが売上はつかない。「在庫管理も売上もオールハンズで考え直していかないと、本当のオムニチャネルではないと考えています」と緒方氏は語る。
実店舗とネットストアがある場合、売上や役務負担を巡って社員同士がとげとげしいことになりかねない。しかし、東急ハンズのように、働いた分が評価される単純な仕組みが、一致団結してオムニチャネルを推進できる秘訣なのかもしれない。
オムニチャネル化はまだ始まったばかり
アプリでは、クーポンを配布して買い物の後押しをすることなどを想定していたが、意外にもチェックインしてバッジがもらえるなどのエンターテインメント機能を楽しんでいるユーザーが多いことがわかった。
「究極の便利はECなのかもしれませんが、店舗があってよかったと思ってくれるのは、感情や感覚的に“東急ハンズが好き”な人。そういう応援者が増えるようにアプリを進化させられる提案をしていきたいですね」と東急ハンズアプリを共同開発したチームラボ Catalyst Div.の竹村賢人氏は語る。
店内で店員を呼び出せるボタン、セルフレジ、スキャン機能を強化することで推し進める“エアカート構想”——。東急ハンズアプリの今後の構想は多岐にわたる。
「お客さまの声を集約しながら、お客さまと一緒に良いものを作っていきたいですね」(緒方氏)
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東急ハンズのようなリアル店舗の小売業者は、「ショールーミング」という言葉に代表されるように楽天やAmazonの台頭によって辛酸をなめてきた。緒方氏は「オムニチャネルはネットの力を使って、実店舗を持つ事業者が反撃の狼煙を上げられる絶好のチャンスでもあり、これからの小売業者にとってはスタートラインとなるべき在り方」と力強く切り返す。東急ハンズのアプリは、どんな進化を遂げるのだろうか。これからがとても楽しみである。