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「強い会社」はセグメント情報で見抜きなさい

「『アップル終わった』って言える俺」を検証する

2015年01月23日 07時00分更新

文● アスキークラウド書籍編集部

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Some rights reserved by Gonzalo Baeza H.

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「クロネコ終わったな」「マック終わったな」――「○○終わった」は、「○○」が強力なほど、誰もよりも早く「終わった」と宣言した人に、先見性の権威をもたらす。言った本人は「あれ、お前らダンジョンの最深部に出てくるドラゴンまだ倒してないの?俺はもう倒したよ」と同様の優越感を味わえる

 その意味でアップルは、もう何十年も「終わり」を告げられ続けている最強の企業だ。スティーブ・ジョブズ復帰前のアップルは実際終わりかけていたが、iMac、iPod、iPhone、iTunes、iPadと続いたヒットで世界有数の優良企業にのし上がった

 最近はまた「『アップル終わった』って言える俺カッコイイ」な人が増えているように思う。「iPhoneのシェアが下がった」「iPadが売れていない」「iTunesは時代遅れ」「新製品は焼き直し」「サプライチェーンガイに革新は無理」など散々だ。こうした言説が本当なのか、アップルのセグメント情報で検証してみよう。

 アップルの2014年9月期の売上高は約1828億ドル(約21兆4892億円)、営業利益は約525億ドル(約6兆1839億円)。同社は、南北アメリカ、ヨーロッパ、中国本土、日本、アジア、小売部門というちょっと変わった分類で売上高や営業利益といった事業セグメント情報を公開しており、例えば日本事業の営業利益は約72億ドル(約8460億円)。日本事業だけで、ヒューレットパッカード全体の営業利益(約72億ドル)と同等の営業利益を稼いだ。そもそも売上高が1828億ドル以上の上場企業は全世界でウォルマート、ロイヤルダッチシェル、エクソンモービルなど14社しかなく、営業利益が525億ドル以上の上場企業は全世界でエクソンモービルとアップルの2社しかない。アップルが終わっているなら、全世界の全企業も終わっている。

 「終わった」のはアップルの輝きかもしれない。もう誰も覚えていないだろうが、何十年か前、IBMは世界中のPCユーザーを魅了した。マイクロソフトは世界を支配するとまで言われた。アップルもまた、IBMやマイクロソフトと同様「つまらない会社」になるのかもしれない。だが、「アップル終わったな」と虚勢を張る人には、「アップルには約138億ドル(約1兆6260円)の現預金があるって知ってた?」と聞き返してみてはどうか。アップルの研究開発費は約60億ドル(約7121億円)だが、Windows 10とHoloLensで全世界を興奮させたマイクロソフトの現預金は2014年6月期で約87億ドル(約1兆220億円)、研究開発費は約114億ドル(約1兆3416億円)。さすがにこれだけの現預金を持っている会社は、トヨタ自動車や三菱商事などを除くと銀行ばかり。世界をあっと言わせる余裕はアップルにはまだある。自社の現金でいくらでも輝きを取り戻せる会社は、「終わった」とはいえないだろう。「え、あのドラゴンって中ボスだよ」と言い返すには、セグメント情報など、財務データを読むだけでいい。

 『「強い会社」はセグメント情報で見抜きなさい 「ソニーは金融業」「TBSは不動産業」――財務諸表で読み解く各社のプラチナ事業』(KADOKAWA刊)では、事業別&所在地別セグメント情報に注目したプロの方法論を紹介。2011年3月期~2013年3月期の連結業績と事業別セグメントから、粉飾決算に揺れたオリンパスの実態を丸裸にしている。


「強い会社」はセグメント情報で見抜きなさい
「ソニーは金融業」「TBSは不動産業」
――財務諸表で読み解く各社のプラチナ事業

長谷川正人 著

  • 定価:1,728円 (本体1,600円+税)
  • 発売日:2014年11月7日(電子版同時発売)
  • 形態:B6変型 (258ページ)
  • ISBN:978-4-04-866371-7
  • 発行:アスキー・メディアワークス
  • 発売:角川グループパブリッシング

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