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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第118回

モバイル決済の課題は技術から、優れたデジタル体験に

2015年01月07日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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優れた体験を重視するアメリカのモバイル決済
日本のおもてなし文化も凌駕してしまう可能性!?

 モバイルで支払うのではなく、モバイルで決済処理をするという分野では、Squareがある。Squareの本社はTwitterと通りを挟んで横にあり、Uberと同じビルに入っていた。そこでは、創業者のJack Dorsey氏に話を聞くことができた。

Squareのトップ、Jack Dorsey氏のタトゥー。関数のfであり、幼少のころに習っていたというバイオリンのf字孔でもある

 恥ずかしい話だが、Dorsey氏と話してみて、あらためてSquareがモバイルではなくて決済処理の企業だということを実感できた。Apple Payが普及したら、どうしても「Square Order」(Squareが「Square Wallet」の後に開始したエンドユーザー向けのサービス。顧客はアプリからコーヒーなどを注文、店に行くと出来上がっており受け取るだけというもの)はどうなるのか? という疑問が沸いていたが、それはおそらく愚問。

現在のSquareリーダーができるまでの数々の試作が飾られていた

 事業主(ショップ)が本業ではない決済で面倒な作業がないようにしたいというのがSquareの中核だ。Dorsey氏はすでにApple Pay(という言葉を持ち出すと、Dorsey氏に「NFC」と言い直されてしまったが)に何らかの形で対応することを明らかにしている。事業主が提供したい決済方法、そこで決済する顧客が使いたい方法に対応していく、というのがSquareの方針だ。

 聞けば、Dorsey氏のお母さんがやはりそんな事業主で苦労を見てきたとのこと。また、Square創業のきっかけとなったエピソードもそのものズバリだ。

 Dorsey氏の友人でガラスアーティストのJim McKelvey氏が、自分の作品を買いたいという人がいたが個人ではクレジットカードの決済ができなかった。その話を聞いたDorsey氏とアイディアを膨らませ、Square創業となったとのこと。McKelvey氏はSquareの共同創業者でもあり、そのときの作品は現在も本社入り口に飾られている。お気づきのように、上記のStripeのCollison氏と同じ問題(個人事業主にとって決済は簡単ではない)がスタートのきっかけとなっており、Collison兄弟とDorsey氏とは親交があるとのことだ。

Square創業のきっかけとなった共同創業者McKelvey氏のガラスアート

 お金の行き来をもっと楽にすることで、アイディアがある人がビジネスを始めやすく、育てやすくなる。パンク少年だったDorsey氏の”既存”に対する反骨精神のようなものだろうか。それは、Dorsey氏の腕にあるタトゥーからも感じられた。

 日本は、おサイフケータイではいまだに世界の見本だ。だが、取材を通じて感じたのは、シリコンバレーでは決済をどのような体験にするかという点で急ピッチで模索が進んでいるということだ。ちょうど年末に業務アプリケーション大手SAPのチーフイノベーション責任者、馬場渉氏の話を伺う機会があったのだが、馬場氏が「人が主体である日本のおもてなしが、デジタル時代では凌駕されるのでは」と危機感を語った。なるほど、シリコンバレーの人々は決済だけでなくデジタル体験を大きな課題としているのだ。

Squareのミーティングルームはすべて透明。名前は世界の通貨になっている。Yen(円)もありました


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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