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TOKYO AUDIO STYLE 第2回

「いい音」を探る楽曲制作プロジェクト

作曲現場からオーディオまで、プロが思う「いい音」とは

2014年12月27日 09時00分更新

文● 荒井敏郎 企画/構成●荒井敏郎
写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明)

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アレンジやマスタリングの重要性や必要性

アレンジ、マスタリングについて違いを話すのは与田さんだ

与田 松井くんは、基本的にはReason(リーズン)というソフトで全部やりますね。リーズンですべて完結することで、自分の音をベストな状態にしているんだと思います。知り合った30年前から何も変わってません(笑)。ドラムもベースの音もずっと同じものを使っているし、そういう意味ではなんの進化もないですね。

小島 楽曲の中で、生で入れるものと打ち込みとの比率はどんな感じですか?

与田 基本的にはギターだけが生ですね。

小島 そうだったんですか!

与田 そのほかは全部リーズンです。

山田 リーズンで作っているとは思わなかったですね。

与田 松井くんの師匠にあたる鷺巣詩郎の美学だと思うけど、高級なものじゃなくても、その辺の気の利いたものがあれば最高のものが作れるっていう思想があるんですね。流行っているからといって、安易に何かを使ったりしないんです。だから一貫して、ここに持ち込んでくる音は30年近くまったく変わっていなくて、ドラムの音なんかは、20年以上前にどこかのスタジオで叩いて取り込んだ音をいまでも使っているかな。

山田 ドラムとベースの音は、どこの音源だろうって思っていました。

与田 アレンジのときにまた詳しく話そうとは思うけど、松井くんがほかの打ち込みをする人と圧倒的に異なるのは、ゲートタイムを綿密に作っているんですよね。音の長さ。スネアだったら、「タン……」って伸びてくるところを絶妙なタイミングできってくるんです。音のオンになるところとオフになるところの両方にビートを持ってくるので、グルーブ感が増しますよね。ベースもピアノもドラムも全部そういう打ち込みになっているので、同じ譜面で同じように打ち込んでも同じようにはならないんですよね。それが松井くんのすごいところなんだけど、そういうことも含めて、最終的にどうオーディオに生きてくるのか知りたいですね。

小島 それは楽しみですね。

与田 このスタジオのリファレンスに、最初の段階からラックスマンの機器を入れておいてもいいかな。レコーディングのときなんかも、モニター環境で聴けるからわかりやすいと思います。

小島 そうですね。昔からビクターさんやソニーさんなどレーベルを持っている音響メーカーさんは、録音と再生は同じ価値観で作ってますって必ず言ってたんですよね。普通はうちも含めて再生専業メーカーなので、録音側に立ち入ることはいっさいできないんですよ。だからどんな盤であってもできあがったものはある意味神様で、そこに入っている音をどれだけ引き出せるかってことが至上目的なんです。それでも全部引き出せているかどうかの確認もできない──という、非常に暗中模索なことをやっているのがオーディオメーカーなんですよ。

与田 トラック・ダウン※2でもいつもそうなんですけど、ボーカル音量の大きめのものと小さめのものを両方とって、マスタリングで決めましょうってやるんですよ。でも、結局はレコーディングにかかわっているそこにいる人たちだけで「これがいいよね、これでいこう」って決めていて、そうしたものしか世に出てないんですよね。もしかしたら別に最高のものがあったのかもしれなけれど、結局はそれしか出ないから判断できない。オーディオメーカーさんは、それを押し付けられてる感じですからね。

小島 確かにそうですね。

与田 よくあるんですよ。デモテープで録ったときのほうがいいよねってことが。全部クオリティーを上げて録り直しているのに……。オーディオがマルチトラックになって、マルチのデータが買えるといいですよね。

※2 「ミキシング」とも呼ばれる。多チャンネルの音源を元に、音声トラックのバランスや音色、定位などを作り出す作業

(次ページでは、「聴く先に合わせるのが正しい音の楽しみ方」)

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