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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第284回

スーパーコンピューターの系譜 インテルから独立して作りだしたnCUBE

2014年12月22日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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64のモジュールで構成されたnCUBE 10

 先にも書いたとおりノードプロセッサーは、通常ではチップセット側に含まれるような機能を全部オンチップで搭載している。

 このため1つのノードはこのノードプロセッサーと6つの256(64K×4)Kbit DRAMの7チップで構成された。実際にはこの7つは、小さなモジュールの形で実装された。

nCUBE 10のノード。パッケージは68ピンのPGAとなっている

 ウィキペディアには後述するnCUBE 2のモジュール写真が掲載されているが、nCUBE 10のモジュールもほぼこれに等しいものだったようだ。

nCUBE 2のモジュール。画像はWikimedia Commonsより(http://commons.wikimedia.org/wiki/File:RR0_4171.JPG)

 4bit幅のメモリチップ×6なので合計24bitになるのだが、メモリーバス幅そのものは16bitであり、追加の8bitはECC用となっている。

 ノードプロセッサーは22本のシリアルリンクを内蔵しており、このうち20本を10対の双方向リンクとして構成することで、最大1024個のノードをHypercube構成で構築可能だった。リンクの速度は10MHzであり、したがって双方向の10Mbpsということになる。

 実際にはこのモジュールを64枚(つまり64ノード)実装したボードが利用された。これをnCUBE 2のものと比較すると、おおむね同じ構成になっていることがわかる。ただ、厳密には仕様が違うので、ボードそのものは共通ではない。

各ノードのモジュールは、中央にチップを挟んで上下に3つづつ、DRAMが搭載される形になっているのがわかる

nCUBE 2のボード。画像はWikimedia Commonsより(http://commons.wikimedia.org/wiki/File:RR0_4174b.jpg)

 寸法は16×22インチであり、10対のリンクのうち6対はこのボード中で相互接続に利用される形だ。各ボードからは256対(64ノード×4対)のリンクが出ており、これを使うことで最大16枚のボードを相互接続、合計で1024ノードの構築が可能となっている。

フルシステムの構成図

 さらに、各ノードからもう一対ずつI/O用にリンクが出ており、1枚のボードからは合計で256+64=320対のリンクが出る計算だ。

 上の画像でI/O Boardと呼ばれるうちの1つはホストプロセッサーになっており、ここには4MBのメモリーを搭載した80286マシンが接続されている。

 他ににはターミナル用のI/Fや4つのSMD Disk Drive(容量500MB)、それとIntel iSBXコネクターI/Fが3つ用意される。このiSBXはドーターボードを追加することで、グラフィックコントローラーやネットワークが利用できた。グラフィックは2K×1K×8bitのフレームバッファを搭載していた。

価格は最大で50万ドル程度?

 さて、その性能であるが、SNL(Sandia National Laboratories:サンディア国立研究所)が1989年に出した“A radar simulation program for a 1024-processor hypercube”という論文の中で、合成開口レーダー(SAR)のシミュレーションを行なうSRIMというプログラムを実施した時に、以下の結果が出たと報告されており、アプリケーションさえ選べば非常にコストパフォーマンスが良いとされている。

  待ち時間(秒) 待ち時間(正規化) 性能(MFLOPS)
VAX 11/780+FPA 35383 285 0.15
CRAY X-MP 981 7.9 5.3
CRAY Y-MP 843 6.8 6.2
nCUBE/ten 124 1.0 42

 nCUBE 10の価格そのものははっきりしないのだが、1988年に英国のArrow Computer Systemsという会社がこのnCUBE 10を英国向けに販売しており、この際のうたい文句が「ほぼsuper-mini computer並みの価格」というものだった。

 super-mini computerの代表であるDECのVAXシリーズのの価格は、1978年の発売時は軽く1億を超えていたはずだが、1988年頃というと、1P構成のVAX6210が17万5000ドル程度、翌年登場した2P構成のVAX6420で41万9000ドルといったあたりで、そう考えると(システムの構成にもよるだろうが)最大50万ドル程度ではないかと思う。

 インテルのiPSC/1も、ハイエンド構成のiPSC/d7がおおむね50万ドルという話なので、これはそう間違った推定ではないと思う。iPSC/1の性能がキャビネットあたり2MFLOPS(最大構成ならば推定8MFLOPS)だから、はるかに良い価格性能比を実現できていたわけだ。

 なにしろノード1つがプロセッサーチップ+DRAM6つで済むため、ボードやバックプレーンのコストは別に考えるとしても、ずっと安価に構成できることは間違いない。それもあってか、それなりの数が出荷されたようだ。

 この結果として、同社は新しい株主を見出す。それはOracleの創立者であるLarry Ellisonで、彼はnCUBEに関心をもち、最終的に同社の主要株主になる。

 これにより同社は新しい事業資金を豊富に入手することとなり、次のnCUBE 2の開発に生かされることになった。

 また同社は所在をそれまでのOregonから、Oracleの本社に近いカリフォルニア州のFoster Cityに移転する。ただここから同社は、だんだん本来の目的と違う方向に歩み始めた。

 本来ならこれが年内最後の更新のはずだったが、nCUBEの話が1回で収まらなかったので次回はこの続きを説明したい。ということで、次回が年内最後の更新となる。

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