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学校では教えてくれないIT業界 ― 第5回

社会と大学の不一致を解決するものだったAO入試

学歴に固執すると応募者も採用者も苦しむ理由

2014年12月20日 10時00分更新

文● 久松 剛(ネットマーケティング )

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 2000年代前半を彩った大学・学部新設ブームが去り、少子化の波も手伝って大学全入時代に突入し、大学のあり方に関する議論がにわかに活発化しています。グローバル人材を育成するG(Global)型大学とカリキュラムを職業訓練に近しいものに寄せるL(Local)型大学に分けようという話題も聞こえる中、大学進学は必要なのでしょうか。

 元大学人、エンジニア、企業採用担当の観点から総合すると、特にIT業界において学歴は社会活動する上で必要な能力を示す証明書としての効力は年々低下しており、漫然と過ごす4年間はただの機会損失であると考えています。

 今回は入試制度も含めた四年制大学とエンジニア就職についてお話ししたいと思います。

中途採用現場では履歴書の学歴欄はチラ見程度

 一部の大企業型の採用であれば大雑把な採用基準や足切りとして学歴が残っているのかもしれませんが、そうでない場合は時が流れるにつれて学歴が占める重要性は下がっています。詳細は別の機会に譲りますが、昨今は専門学校の時代への追従が顕著であり、同程度の意欲を持った専門学校生と大学生が並んだ際に、あらかじめIT業界に就業するに当たっての理解・適性といった事柄についてプレウォーミングが済んでいる分だけ安心感に差が生まれる状況があります。

 これが中途採用になると「何ができるのか」「何をしてきたのか」についての比重が高まるため、履歴書の学歴欄はチラ見程度まで下がります。住んでいる場所や出身地などと同等の「アイスブレイクのための雑談ネタ」にまで下がることすらあります。

偏差値は一種のベンチマークテストに過ぎない

 そもそも表面的な卒業校だけで知ることができることは何でしょうか。ここ十数年議論されていることですが、偏差値文化に則った受験制度のどの位置にいるかという線上の価値でしかありません。12年間大学人として他大学・他学部も含めて接してきた印象としては、偏差値は一種のベンチマークテストに過ぎません。大雑把に式にすると偏差値(x)は下記のような要素から構成される印象です。

 偏差値(x) = 記憶領域 (A) × 記憶領域に対するI/O性能 (B) × 受験期に価値を見出しつつ継続する根気 (C) + α(学業に打ち込める環境、健康管理などの不特定な要素)

 大学受験に向けてどれだけのことを覚え(A)、試験時間内に求められた回答を(A)からどれだけ引き出す(B)ことができるか、そしてその訓練をどれだけ継続できたか(C)ということです。これは計算能力が求められる理数系授業も同様で、算出パターンを記憶し(A)、組み合わせて検索・導き出す(B)訓練を繰り返す(C)のです。

受験勉強に対する価値が見出せないと学歴にはつながらない

 受験期をどう超えるかで問題となってくるのが(C)です。(A)が非常に優秀であれば(C)は少なめでも事足りる場合がありますが、最小でも1回は経験する必要があります。

 例えば私の場合は受験期の序盤で世界史の教科書の写真の脚注に出てくる「ギリシア時代の柱の種類」みたいなのが延々と続くのを見てその繰り返しに苦痛を感じ、歴史科目から戦略的撤退をしました。これが上位国公立であれば程度の差こそあれ7教科必要になってくるので、モチベーションを保ちながら継続する意志(C)がないとお話にならないというのが実情です。

 (C)が要求されないことから、他国からの人材が面白いというのもここに関係すると考えます。

ビジネスに直結する能力は別に見ていない大学入試

 (A)(B)はあると便利ですが、多くのビジネスシーンでは困難に直面した際に問題点を発見し、それを解決するために記憶(A)と結びつけるための落とし込む作業が発生します。つまり受験における『問題の作成』に相当する作業とも言えるでしょう。

 この能力を鍛える機会が一般的な受験や大学授業にないために(A)や(B)が十分に高くても実社会で生かせないという状況につながります。加えて持ち込み不可の受験や大学試験とは違い、(A)(B)は悲しいことにコンピュータとインターネットで代替できることが多いのです。

 さらにプラスとして実社会に出ると有利な、発想力、探求心、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、勘所、世渡り力などは(A)(B)(C)だけではどうにもならないものということも付け加えておく必要があるでしょう。

AO入試は社会と大学の間の不一致を解決するものだった

 慶応SFCが1990年に開始したAO入試は元来こうした受験勉強では測れない能力やポテンシャルを発見するタイプの入試として始まりました。私自身も1999年にこの制度に共感し、利用した思い入れのある制度です。

 私が利用した当時、短大も含めた他大学でもAO入試が広まり始めた頃合いでした。大学、特に短大ではAO入試と言いながらも何故か入試の段階で教員が学校紹介をして周るなど、選抜ではなく筆記をしない入学のパスとして導入する学校もありました。一芸入試に相当する内容を採用する大学が登場してきたのもこのころであり、本質を問う声がにわかに聞こえ始めました。

 その後2000年代中盤に入り、予備校のAO入試対策講座が始まります。この頃を起点にAO入試対策がビジネスとなっていきます。当初は面接対策程度だったものが、書類作成や経歴作成に至るアシストまでするようになり、AO入試そのものが徹底的に攻略されているのが現状です。

 こうした攻略組を差し引いて見るべきか、逆にそうしたパスを見つけられるとは面白いと見るべきか、採用する側としては気にしておきたいところです。

採用のシーンで学歴をどう見るべきか

 採用側からすると重視するものが(A)(B)以外のものであれば学歴は関係なく選ぶべきです。(A)(B)の要素がそれなりに求められるとしても上記の式のように(C)が低ければ学歴に反映されないのが現在の日本の教育です。つまり高学歴を問わず有能な人材はたくさん居て、学歴に縛られるが故にそうした人材との接触ができていないケースが多いというのが現状です。

 東洋経済などで「使える人材輩出校ランキング」に一喜一憂する方々を目にしますが、大学関係者でない限りは気にする必要はないと考えます。そもそも社会の現場で使われる尺度で入試が組まれていないために、連動しないのは当然のことなのです。

大学は何を提供し、大学生は何をするべきか

 では大学時代に何をすべきなのでしょうか。そして大学からするとお客様である学生に提供できることは何なのでしょうか。次回はこうした観点から、履歴書や面接の場でプラスとなる要素についてお話ししたいと思います。

筆者紹介──久松 剛


著者近影

 ネットマーケティング システム開発本部 サービス開発部 インフラチームマネージャ。慶應義塾大学政策メディア研究科博士。2000年より村井 純環境情報学部教授に師事。在学時の専門は次世代インターネット、リアルタイムストリーミングなど。IT革命・事業仕分経験後に2012年6月より現職。FacebookマッチングサービスOmiai、広告運用システムALLADiNなどのAWS・オンプレミスインフラエンジニア、リスクマネジメント、BCP、エンジニア採用などを担当。



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