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5分でわかる時事ソーシャル&コンテンツ 第1回

アルゴリズムによる民主主義の改良とは

SmartNewsはジャーナリズムのレベルアップを求める!?

2014年12月15日 17時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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すでに企業は自社サイト内に多くの記事を貯めている
新施策ではそれらをニュース記事と同等に扱う

まつもと 「そして今回の発表の話に戻るのですが、要は記事と広告を同じ仕組みで選択して表示すると。非常に象徴的だったのが、ミクシィの川崎さん(SmartNewsでは執行役員を務める)が仰ったのですけど、広告主である企業はすでにコンテンツを持っています。いわゆるオウンドメディアがそれです。

 すでに企業は自社サイトに広告的な編集コンテンツだったり特殊サイトをたくさん持っている。そういった、すでに企業が持っている情報に対してSmartNewsが導線を張ってあげる、それでいいのではないかと」

―― 企業内メディアをSmartNewsが引っ張ってくることによって、企業内メディアが獲得していない読者にも自社の製品やサービスを見せられる可能性を作るということですね。

まつもと 「まさにSmartNewsがニュースに対してやっていることを、企業のオウンドメディアが持っているコンテンツに対しても行ないますと。ただしそこに対してはマネタイズをしたいので、メニューとして広告主に対して提示をするのだけれど、ユーザーから見たときには、そういった企業発信の情報が通常のニュースと同列に並ぶわけです。

 画面がPCに比べて小さいスマートフォンにおける広告というのは、川崎さんの言葉を借りれば『ウザさ倍増』なわけです。ユーザーが『しまった、誤タッチしちゃった』と思うような広告は結局誰も幸せにならない。広告主もユーザーの満足度を下げているわけです。

 そこに対してアルゴリズムと企業がすでに持っているコンテンツを結びつけることで改善を図ろうとしているのが、今回の発表の非常にユニークなところだなと思います」

メディア側は“飲み込まれる”と考えるべきか
それとも“共存共栄を図る”と前向きになるべきか

―― ではニュースサイトなどのいわゆる広告記事は用済み?

まつもと 「そこは語られていませんね。ただ、今存在しているネイティブ広告というのは、読者が読んだ後に『これ広告じゃん』と思うようなものになっています。

 そこにキュレーションアプリとアルゴリズムを入れることによって、SmartNewsはユーザーがこのカテゴリーで読みたいと思うものを表示させることができるようになった、あるいはできるようにする、という決意の表れですよね。

 つまりGoogleが日々やっていること、かつGoogleニュースでやろうとしていて、じつのところあまり上手くいっていないことをスマホのアプリで本気でやろうとしている人たちと、僕は見ているのですが。

 そして、既存メディアは今回の仕組みをどう捉えるべきか。結論から言うと、広告記事のあり方も影響を受けざるを得ない。どうすればキュレーションアプリでピックアップしてもらえるのかをこれまで以上に考える必要があります。

 あと逆に、キュレーションアプリに一切配信しないとか、あるいは万人が使うアプリには求められないけれど、よりコアな情報を求める読者に対して、自分たちの特色を強く出していくという方向性もあるでしょう」

―― ということは、ものすごく特化したもの以外はSmartNewsに飲み込まれるしかない?

まつもと 「“飲み込まれる”と考えるか、“共存共栄を図る”と考えるか。たとえばIT系のニュースサイトにしてみれば、これまでどうやってもリーチできなかった読者にリーチできる可能性が広がったという見方もできると思うのです。これだけのインストールベースがあるわけですから。彼らのアルゴリズムがうまくはまれば、ですけれど。

 あるいはキュレーションアプリからのユーザーの導入を図りつつ、会員制度によってコアな読者を、言い方はあまり好きではありませんが、囲い込んでいく。そうすることで完全に独立したエコシステムを築く。既存のメディアからすれば、今まさに戦略を立てるタイミングだと思います」

ジャーナリズムの新たな監視対象は
ITサービスのアルゴリズム!?

―― メディアが企業から請けた広告記事と、SmartNewsが導線を張るオウンドメディアは共存できるのでしょうか。たとえば企業を優先させたいなどの思惑が、すべて“アルゴリズム”の一言で隠されてしまう恐れは?

まつもと 「それはたぶん、Googleに対しても同じ問いが成立しますよね。もちろん公正であるべきだし、そうあることを期待したいと思いますし、我々ジャーナリストとしてはそこを監視すべきです。第4の権力などと言われるけれど、僕たちが監視しなくてはならない範囲が広がったかなとは思います。ちょっと大きな話になってしまいますが。

 アメリカのジャーナリズム、特にIT系のジャーナリズムは、Googleは公正なのかとか、アメリカ政府のネット政策は公正なのかいうことを彼らのミッション・取材テーマにしています。

 日本のITジャーナリズムも本当はそこまでいかないとならないけど、まだまだそれをやっている人やメディアは少ない。そういうことを含めてジャーナリズムのレベルアップを迫るのがSmartNewsとか、こういったアルゴリズムベースのサービスだと思います。

 SmartNewsが面白いところは、“我々はジャーナリスト、あるいはメディアが本来やらないといけないところに注力できるように、自動化できるところは我々がやりますよ”と宣言したことなのです。

 画面レイアウトもアルゴリズムでやります。共通化できるような情報は共通化します。だからみなさんは、民主主義とか社会のために役立つことをやりましょうと呼びかけているわけです。そしてメディア側は、そこで生まれたリソースも使ってアルゴリズムを提供する会社、事業者が公正かどうかを監視する。この対の関係は非常に面白いと考えています。

 キュレーションサービスは、アルゴリズムの味付けを変えることによって、ガラッと世界観が変わってしまいます。自動化の味付けをしているのは人間なので、センスや公正さが求められるわけです。だからアルゴリズムの優秀さは、設計者だけに押しつけるのではなく、こちらからも(監視という方法で)干渉することで高めていくべきではないか――そんなことを思いました」

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