いきなりだが、北フランスと聞いてどんな印章が思い浮かぶだろうか? それ以前に、正確な都市の名前がわかるだろうか? 北フランスに位置する、ノール=パ・ド・カレー地方が首都リールを筆頭にITデジタル産業に注力したエリアに生まれ変わろうとしている。変革のさなかにいるリールの原動力となる主要企業、スタートアップ、教育機関から興味深い話を聞いた。
衰退はゴメンだ! ITマルチメディア産業で起死回生を狙う
18世紀、ノール=パ・ド・カレー地方で炭鉱、繊維など組織化された産業が始まり、第一次産業革命で繊維業が飛躍的に発展した。しかし1970年以降、主要産業が衰退し1990年に最後の炭鉱が閉鎖されると、失業者問題が深刻化し、代替産業を根付かせることが急務であった。
ノール=パ・ド・カレー地方の現在の経済規模は、GDPが970億ユーロでフランス国内4位、人口の34%が25歳以下という若い地域としてはフランス国内1位だ。
基幹産業は、300km圏内に欧州5カ国の首都があるという地の利を活かし鉄道、自動車、食品加工、特殊繊維などが存在するが、未来を見据えて地域がいま注目しているのがITマルチメディア産業。デジタル製品の製造業ではなく、アニメ、ゲーム、音響、映像、ウェブサービスなどソフト産業だ。
数千人規模の新しい雇用を生み出すために、2005年ごろから商工会議所が中心となり複数地域を開発、スタートアップ企業が集結するITマルチメディア系クラスターを組織し、学位を授与する専門的な学校建築もサポートしてきた。
シリコンバレーとは違う手法で集い、繁栄の兆しを現す当地のITマルチメディア産業の動きは、ヨーロッパの中心地となりえるだろう。
オフィスの集合体ではなく、スタートアップのエコシステム
ビジネスに行政が首を突っ込むのはフランス特有の気風のようだが、ノール=パ・ド・カレー地方もITマルチメディア産業の発展に行政が大きく関わっている。
単にモデル地区を作り企業誘致に留まるのではなく、クラスターにスタートアップ企業の入館を促し事業計画、資金調達から弁護士、会計士との面談など、ビジネスを軌道に乗せるためのサポートを実施し、さらに入館する他の会社やクリエーター、研究施設や撮影スタジオ、学校との連携をエコシステムとして機能させようとしているのだ。
各企業が自主誘発的に集い関連産業エリアが少しずつ出来上がるのとは異なり、行政が先導し施設を作りクラスターを形成している。
このようにノール=パ・ド・カレー地方がITマルチメディアに注力するようになってから10年近くが経ち、次世代を担う企業やキーパーソンが頭角を現してきた。