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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第115回

しぶといNokia デバイス事業売却後に再度Androidタブレットに進出

2014年11月26日 11時00分更新

文● 末岡洋子

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 先週の最大の驚きはNokiaのAndroidタブレット「Nokia N1」発表だろう。Nokiaのデバイスとサービス事業部がMicrosoftに買収され、Windows Phoneスマホブランド「Nokia Lumia」からNokiaの文字が抜け落ちたタイミングでのNokiaタブレットの発表だ。

 Nokiaブランドはちょっとした混乱期にあるが、なのに“Nokia”を冠したところに固執にも似たものを感じる。それもそのはず、来年創業150年を迎えるNokiaは時代に合わせて適応して生き残ってきた企業なのだ。

突然リリースされたNokiaブランドのAndroidタブレット「Nokia N1」

まずはあらためてMicrosoftとNokiaの買収を整理する
端末ビジネスを売却するも会社は残ったNokia

 2013年9月に発表した買収計画のもと、Microsoftは今年4月、54億4000万ユーロによるNokiaのデバイスとサービス事業を買収を完了した。Nokiaのデバイスとサービス事業とは、Windows PhoneベースのハイエンドLumiaから、AshaブランドやAndroidベースのXブランドで展開していたミッドレンジとローエンドを含む端末ビジネスである。ここにはデザインチーム、デバイス事業の営業マーケティング、製造拠点、サプライチェーンなどを含む。

 ではNokiaに残ったものはなにか。Siemensとの合弁事業だったNokia Siemens Networksから、Siemensの撤退を受けてNokia Solutions and Networks(NSN)に改名して展開しているネットワーク機器事業、「HERE」ブランドの地図サービス事業、そして研究開発とライセンス事業の3つだ。

 Nokiaは主な特許ポートフォリオを維持するほか、Nokiaブランドを所有し管理する(Microsoftは携帯電話におけるNokiaブランドのライセンスを受けている)。今回Nokiaが「Nokia N1」を提供できるのは、ここにある。だがNokiaはこの契約下では2016年までスマートフォンを製造できない。そこでFoxconnに製造を委託したタブレットが登場となったわけだ。

N1プロジェクトはデバイス部門売却直後の
今年4月からスタートしていた

 Microsoftにデバイスとサービスを売却後、Nokiaが再度端末事業に参入するという憶測はもともとあった。だが、今回のN1は驚きをもって迎えられた。なにしろMicrosoftとの取引が完了して6~7ヵ月でのことだからだ。

 しかも地元フィンランドのメディアHelsingin Sanomatによると、売却が完了した4月25日の3日後には、Nokiaの新製品担当トップであるSebastian Nystrom氏が台湾(Foxconnの本拠地)に赴いており、N1のプロジェクトを発足していたという。

 こう聞くと、NokiaはMicrosoftとの2011年2月の提携が実を結ばないとわかった後もプラットフォームや戦略を変えられず、モバイル事業部を売却してしまうことでしか新しい可能性を探ることができなかったように見える。

 もちろん、NokiaのCEOを務めていたStephen Elop氏を追い払う必要もあったのではないか……Elop氏はMicrosoft出身であり、Elop氏着任後にMeeGoをハイエンドとする戦略がWindows Phoneに切り替わった。そのElop氏はMicrosoftのデバイスとサービス担当エグゼクティブバイスプレジデントとして、旧Nokiaのデバイスとサービス事業を引き継いでいる。

出戻りのように再びMSの幹部となったNokiaの元CEO、Stephen Elop氏。写真はNokia時代のもの

 余談だが、NokiaのトップとしてのElop氏に対する批判は根強い。「Elop氏は史上最低レベルのCEO」とは10月にフィンランドで出版されたElop氏に関する本「Operaatio Elop」(Operation Elop)を書いた、Nokia事情に精通したジャーナリストが表現した言葉だ。

 同書の中には、Elop氏が2011年2月のMicrosoftとの提携の前に、Googleから話を持ちかけられていたこと、それはElop氏が事後報告したようなものではなく、標準的な契約内容とは異なるNokia向けの条件が提示されていたことなどが明かされているという。またWindows Phoneについても、Elop氏は適切に価値を評価せずに選択したと指摘しているようだ。一方で、Elop氏は最初からNokiaを買収しようと思っていたMicrosoftによる”遣い”だったのではという見方については否定している。

 話を戻そう。そのようにして作成した端末に、Nokiaはやはり「Nokia」ブランドを冠した。これがどう受け入れられるのかはわからない。まずは混乱がある。Nokiaブランドのタブレットには、1年前に登場したWindows RTベースの「Nokia Lumia 2520」があり、今回のAndroidベースの「Nokia N1」がある。Lumia 2520はMicrosoftが販売とサービスを行なうが、N1はNokiaだ(幸い、N1は現時点では中国市場のみなので、ショップで一般ユーザーの前にLumia 2520とN1が並ぶことはなさそうだ)。

 次にブランドイメージ。Nokiaというと、スマートフォンでAppleとSamsungに追い越され、Microsoftとの提携に失敗(というと語弊があるかもしれないが、売却までの間に結果は出なかった)したイメージがつきまとう。欧州やアジアなどNokiaが強かった地域では、Nokiaはなんとなく「(スマートフォン時代の前の)古い」ブランドになっている。それとも、どこを見てもSamsungだらけで消費者が飽きてきたとすれば、Nokiaブランドは逆に新鮮に映るのだろうか?


(次ページでは、「数年後にはスマホも再度リリースか!?」)

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