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事例もテクノロジーも満載!NTT Com Forum 2014 第8回

設備監視や故障予兆、デマンドレスポンス、セキュリティまで

将来は発電所まで仮想化?意外と近いクラウドとインフラ管理

2014年10月15日 09時00分更新

文● 高橋睦美

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発電力に応じて消費量をコントロールするデマンドレスポンス

 2つめの例は、再生可能エネルギーを前提にした「デマンドレスポンス」の実現だ。

 電力の品質を決めるのは電圧と周波数だが、それらを一定に維持し続けるためには発電機の回転数を一定に維持する必要があり、それには消費電力と発電量を一致させなければならない。もし、電力の需給にあまりに大きな差が生じると発電機の回転数が低下し、最悪の場合は発電機が停止して大停電に陥ってしまう。

 しかし、現在の日本でそのような事態はまず起こらない。「電力会社が各時間帯の消費量を正確に予想し、それに合わせて、専用線でつないだ複数の発電所の発電量を制御しているからだ。火力発電所では、出力を数秒単位で電力消費量にぴったり追随させるという作業を24時間365日体制で行なっている」(境野氏)。

 ただ、この仕組みが未来永劫続くわけではないと境野氏は指摘する。石油や天然ガス、ウランなどの天然資源に頼る火力発電所や原子力発電所は『持続可能』ではない。従って、今後、太陽光発電や風力といった再生可能エネルギーへのシフトが進むと見られている。とはいえ、これら再生可能エネルギーは「変動が激しいため、需要と供給を一致させるのは不可能に近くなる。例えば太陽光発電ならば、日没によって供給量が急激に減る一方で、照明のための需要が一気に増加するといった事態が考えられる。供給が需要に追いつかず、大規模停電が発生する恐れもある」(境野氏)のだ。

 こうした課題を踏まえ、再生可能エネルギーを安定的に使う仕組みとして注目を集めているのが、デマンドレスポンス。ざっくり言えば、電力会社とユーザー、その間に立つ「アグリゲーター」とをネットワークでつなぎ、発電力に応じて消費量をコントロールする仕組みである。発電量が想定を超えて変動すると、ネットワーク経由でユーザー側のスマートメーターやBEMS/HEMS(ビル/家庭向けエネルギー管理システム)に指令を送り、対応する機器や家電の電力消費量を抑制したり、ピークシフトさせたりして変動を吸収する仕掛けで、節電したユーザーにはインセンティブを支払うことで報いる。

「Bizホスティング Enterprise Cloud」を活用したデマンドレスポンス実証実験

 NTTコミュニケーションズでは、このデマンドレスポンスの実証実験も進めている。同社の「Bizホスティング Enterprise Cloud」上に、電力会社とアグリゲーターのデマンドレスポンス基盤を仮想マシンを用いて構築。標準プロトコル「OpenADR」を介して節電依頼や応諾などの情報をやり取りし、分単位で制御を行う仕掛けだ。

 「クラウド型にすることで、オンプレミス型よりもコストを削減できる。将来的には、秒単位で制御できるようにしたい」と境野氏。家庭やビルに置かれた電気自動車や蓄電池、さまざまな機器の制御をクラウド上に集約し、「仮想発電所」として秒単位で制御する仕組みの実現に向け、電力会社などとともに共同研究を進めていくという。

将来的には「仮想発電所」を秒単位で制御することを目指す

 境野氏はまた、デマンドレスポンスの普及に向け、公開空地と同じような扱いでデマンドレスポンス用設備を商業ビルやマンションに設ける制度を設けてはどうかという私案も披露した。

クラウドの活用で、現場に負担をかけずにサイバー攻撃早期発見を支援

 安全なネットワークを介してクラウド側に情報を収集、分析し、きめ細かく制御するというアイデアは魅力的だが、課題も残る。1つは、各種法制度や設備の整備。もう1つが「サイバー攻撃のリスク」だ。現に、マルウェア感染や操作ミスに起因するDoS、スマートメーターのデータ書き換えといったインシデントが国内外で発生しているという。

 しかも制御システムには、リアルタイム性や高信頼性などの面で、一般的な情報システムよりも厳しい要件が求められる。こうした要件を満たしつつセキュリティを高めることを目的に、2012年に制御システムセキュリティセンター(CSSC)が設立された。NTTコミュニケーションズもその一員として、制御システムセキュリティの検証や認証、標準化といった作業に取り組んでいる。

 境野氏は「今後、インシデントの早期発見に向けて、リモート監視の仕組みが重要になるだろうと業界では言われている」と述べ、NTTコミュニケーションズも、通信事業者の立場からそうしたソリューションの提供に取り組むとした。

 1つの案は、制御システムに入ってくるデータを別経路でプライベートクラウドに吸い上げて、リアルタイムに遠隔監視する仕組みだ。制御システム側のデータをはじめ、マルウェアを検出するおとりサーバーの情報や操作端末のデータを、VPN経由でクラウド側に送り、そのデータをリアルタイムに解析したり、セキュリティ専門家による分析を加える。マルウェアの妨害行為によって現場のコンソール表示に異常が見られない場合でも、別系統のリモート解析によって異常の予兆を検出し、アラートを送ることで、早期発見、早期対処を支援するという。

VPN経由でデータを収集し、リモートからリアルタイム監視を行なうことで異常の早期発見を支援する

 「工場の現場すべてに専門家を配置するのは現実的ではないが、この仕組みによって、現場の負担を増やさずに安全を確保できると考えている」(境野氏)。

 

 NTTコミュニケーションズは2014年11月から、この仕組みの実証実験に参加する計画だ。Virtual Engineering Company(VEC)の「製造業/BA/エネルギー クラウド研究分科会」が主体となって、2015年6月にかけて、制御システムのふるまい監視や業務システムとの接続実験、クラウド型SCADAやシミュレーターの動作実験などにチャレンジする。同社は実証実験用のクラウド環境を提供する予定だ。

 境野氏は「社会インフラの監視制御や再生可能エネルギーのデマンドレスポンス、制御システムのセキュリティに関心のある方、ぜひ一緒に進めてみませんか」と呼び掛け、講演を締めくくった。

初出時、スライドの挿入位置に誤りがありました。また、利用しているKVS名に誤りがありました。読者および関係者にお詫びし、訂正します。(2014年10月15日)

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