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全人口の4割がお年寄りになる日本で「介護×IT」は絶対必要!

超高齢化時代を迎えた介護業界のIT化は「やりがい」がある

2014年10月22日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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介護業界に参入するITエンジニアが不足している

 とはいえ、医療分野ではセンサーのようなハードウェアや電子カルテなどIT化が進んでいるにもかかわらず、冒頭のコメントの通り、介護のIT化はいまだに進んでいない。飯塚さんは、「今ある介護ソフトは、請求という介護ビジネスの最後のプロセスを行なう事務方向けのソフト。でもお金が発生しているのって、おばあちゃんの手で触って、トイレに行って、熱を測るといったヘルパーの行為なので、そこに寄与するものは存在しません。介護計画や請求のIT化はできているけど、介護サービス自体のIT化は実現していないんです」。脈や熱を記録する、本人の希望を記録するなど、ケアの品質を変えるような技術革新や製品を飯塚さんは熱望している。

 しかし、実際にはいくつかのハードルがある。本質的な問題は、やはり介護業界に参入するITエンジニアが不足しているという点。10年近く介護業界のIT化に携わっている竹下さんは、「JAWS-UGの初代代表やCUPAの理事もやってきたので、今まで全国各地で1000人以上のエンジニアに会ってきたと思うのですが、介護業界に来るエンジニアは1人もいない。もちろん、エンジニアが“はまる仕事”がないのも問題。でもみんなで知恵を出しあわないと、介護のIT化は進まないんです」と嘆く。

「みんなで知恵を出しあわないと、介護のIT化は進まないんです」(竹下さん)

 エンジニアも含め、なぜ介護業界に人が来ないのか? 飯塚さんは「業界全般で『人生の最後を過ごされ亡くなっていくので』というバイアスはかかりがち。でも、『こんなに長生きしなくてもよかったなあ』という時代から、『そこそこ長生きしてよかったなあ』という時代にそろそろ変換されなければいけない」と語る。

 介護業界側でIT化に対応する素地がないのも問題だという。飯塚さんは、「医者は100年、看護師は50年なのに対し、もともと国家資格の介護福祉士自体も20年程度しか歴史がない。弁護士や医者と違って、介護福祉士がやる仕事の専門性がわからないので、ビジネスにしにくい」と指摘する。そのため、介護の専門性を示すために、どのデータをとってよいかわからない。「1日の排泄の回数とっても、無駄になってしまう可能性があります」(飯塚さん)というわけだ。

 竹下さんも、「コンピュータ屋としてもどかしいのは、ヘルパーさんがおじいちゃんやおばあちゃんに実施したことに対して、状況が改善したとか、気持ちがよくなったとか、測る仕組みがないこと。行動履歴やバイタルを自動で記録する仕組みはあるけど、それを実現するためのアイデアやお金、そして陣頭指揮をとる人材がいないのが現実」と指摘する。

介護業界での仕事は「感謝」が大きい

 しかし、医療と介護を一体化して、今後国が本腰を入れて高齢者対策を行なっていくことを考えれば、実は市場規模はとてつもなく大きい。「75歳を超えてくると、介護が必要なくとも、足が痛くて遠くへ行けなくなる。だからといって、家の周りだけで生活すると、友人にも会えなくなり、社会的に孤立してくる」(飯塚さん)とのことで、国や自治体も介護事業者だけではなく、地域と一体で高齢者対策を進めている。こうなるとITを使った世代間・組織間での情報交換がおのずと重要になる。

 また、エンジニアのモチベーションとしても介護の仕事は、「顧客からの感謝」や「社会貢献への満足度」を得られやすいという。「エンジニアって基本的に怒られる仕事。納期に間に合い、コストを抑えて60点。80~90点取るのはとても難しい。顧客に詰められて、自分自身心が折れたこともあるし、そういうエンジニアも見てきた」という竹下さんは、まさにその1人。人力作業をボタン1つだけで片付けられるプログラムの魅力に取り付かれ、営業からエンジニアになったのに、10年以上経過しても理想と大きく違っていた。でも、介護業界で仕事していると、感謝が多いというのが竹下さんの実感。「みんなにありがとうと言われる仕事なので、やっていて気持ちいい」と語る。

「みんなにありがとうと言われる仕事なので、やっていて気持ちいい」(竹下さん)

 コスト面でのネックだったプラットフォーム側も進化した。クラウドのようなインフラ、スマートフォンのようなデバイスが安価に利用可能になり、薄利多売の形ながら、ビジネスが提供できるようになった。10年間かけてサービスを業界で展開してきた竹下さんは、「ビジネスになるか瀬戸際のモデルでも、とりあえず試行錯誤できる土台が揃ったし、ベンチャーも増えてきている。ここからがようやく始まり」とのこと。介護とITの業界で相互の知恵を出し合って、ビジネスを立ち上げていくのが今後の鍵になるという。

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