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“通信の南北問題”や法制度、文化など、現地法人が蓄積したノウハウを披露

「我々も苦労してきた」IIJが語る、中国ビジネスITの攻略法

2014年09月19日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 急拡大する中国市場に進出する日本企業は年々増えているが、ビジネスに必須となるITを巡っては、通信環境や法制度、さらには文化の違いから苦慮するケースも少なくない。中国に現地法人を設立し、自らもその「苦労」を味わってきたというインターネットイニシアティブ(IIJ)が、中国市場特有のIT課題や、日本企業に対する同社の支援策を語った。

挨拶に立ったIIJ 執行役員の丸山孝一氏は「中国進出を検討、実施してきたこの3、4年間、われわれもIT分野で相当苦労した」と振り返った

IIJ Global Solutions Chinaで副総経理を務める山口貴司氏。中国の経済状況からIT環境、法制度などを、上海在住者の視点から語る

上海現地法人から見た中国インターネットの課題

 IIJ グローバル事業本部とIIJグローバルソリューションズが9月4日に開催した「中国ITソリューションセミナー」では、日本企業が中国で直面するIT課題と、その対応策としての同社ソリューションが紹介された。

 IIJでは2010年ごろから中国市場参入の検討を開始し、2012年に現地法人(IIJ Global Solutions China)を設立、2013年からクラウド/ホスティングサービス「IIJ GIO CHINA」を開始している(関連記事)

2010年のIIJグローバルソリューションズ設立を1つの契機として、IIJグループではグローバル展開を進めてきた

 IIJ Global Solutions Chinaで副総経理を務める山口貴司氏は、経済、政治、社会の状況など中国のビジネス環境、そしてインターネットを取り巻く状況を概括したあと、同国におけるネットワーク課題について話した。

ネット人口増加/南北問題/検閲――インターネットの3重苦

 今や6億人超のインターネット人口、5億人超のモバイルインターネット人口を抱え、SNSやECサービスも日常生活に浸透している中国だが、ネットワーク環境には幾つかの課題を抱えている。

 特に現地に進出した日本企業は、ビジネスを行ううえで日本にある業務システムにアクセスしたり、日中間でデータをやり取りしなければならず、頻繁に「日中間の通信スピードが遅すぎる」問題に直面するという。山口氏は「需要と供給」「南北遅延」「検閲と陸揚げ局」という3つのポイントから、日中間のネットワーク通信が遅い理由を説明する。

 今年6月のCNNIC(中国インターネット情報センター)発表によれば、中国から海外への出口帯域幅合計は3776Gbpsと、前年比で約1.8倍に増強されている。だが山口氏は、インターネット人口の増加に伴う“需要”=海外へのトラフィック増加のほうがまだまだ強く、帯域幅の“供給”が追いついていないのが実情だと述べた。

中国からの海外回線は常に逼迫している。特に日中間の帯域幅は全体の5%程度に過ぎず、日本企業にとっては不足状態が続いているという

 2つめの南北遅延は、別名「通信の南北問題」とも呼ばれる国内問題だ。中国の固定網市場は、北部(北京、天津など)を中心に事業展開するチャイナユニコム(CU)と、南部(上海、広州など)を中心とするチャイナテレコム(CT)の“2強”が寡占している。しかしながら、この2社間の相互接続ポイントでトラフィックが逼迫すると、米国や欧州を迂回した経路が選択されることもあるという。そうなると、たとえば同じ上海市内であっても、2社をまたぐ通信では1000ミリ秒超のレイテンシが発生する。

中国における「通信の南北問題」。巨大キャリア2社間の相互接続回線が逼迫することで大きな遅延が発生

IIJによる実測値グラフ。中国国内向けにインターネットサービスを展開する場合には、これが大きな問題となりうる

 「検閲」についてはよく知られているとおりだ。中国政府は検閲システムの「グレートファイアウォール(金盾)」を通じてトラフィックを監視し、特定の国外サイト/サービス、また特定の国内コンテンツへのアクセスをブロックしている。規制対象は政府の意向次第でしばしば変わり、たとえば業務に使っていたマイクロソフトの「One Drive」や「DropBox」が突然使えなくなるケースもあったという。さらに、このトラフィック監視処理がボトルネックとなっているほか、海底ケーブルの陸揚げ局を3拠点(北京、上海、広州)に絞っていることが、海外回線帯域の増強が進まない原因にもなっている。

グレートファイアウォールにより、中国国内では多くの海外サービスが利用できない。規制当局の方針転換で突然使えなくなることもしばしばだ

 山口氏はこうした背景を踏まえ、日本企業が中国でインターネットを業務利用する場合の「改善案」を示した。利用するキャリア/回線の選択、ネットワーク構成、IP-VPN導入検討など、幾つかのポイントを挙げている。

山口氏は、日中間の国際通信を前提にキャリア選択やネットワーク構成をすべきだと語る。また、中国では従業員のネットワーク私的利用が多く見られるため、これを制限することも対策の1つとして挙げている

(→次ページ、外資企業への圧力が強まる中、法規制順守も重要ポイントに)

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