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元スターバックスCEOが語る「顧客満足より従業員満足」

2014年08月29日 16時00分更新

北島幹雄(Mikio Kitashima)

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リーマンショック後の2009年6月、スターバックス コーヒー ジャパンCEOに就任した岩田松雄氏(現在はリーダーシップコンサルティング代表)。無料の店舗Wi-Fi、レシートをレジに持っていくと100円でドリップコーヒーがお代わりできる「ワンモアコーヒー」、カップやタンブラーを持参するとドリンクを50円引きにする「ブリングマイカップ」といったキャンペーンを次々に導入し、成長の礎を築いた。岩田氏はスターバックスの競争の源泉は接客力だといい、「素晴らしい接客レベルを1000店舗で保っていることがすごい。これだけ店があって、日本国中どこに行っても高いレベルを維持できているのは奇跡だ」と話す。


――2009年のCEO就任後、「ワンモアコーヒー」を導入した。

 リーマンショック後、デフレの流れでスターバックスも売り上げが落ちていた。私がCEOになった半年後も落ちたままで、内外からのプレッシャーもあった。目先の売上を作るためにブランドを損ないたくはなかったのでしばらくは動かなかったが、売り上げが落ちるなかでいろいろな提案があり、その1つが「ワンモアコーヒー」だった。1月から始めたが、結果としてワンモアコーヒーがきっかけで売り上げが伸びていった。


――ワンモアコーヒーの導入を決めたのはなぜ?

 当時、米スターバックスは1兆円を超える大企業だったので、クーポンを使ったディスカウントやセットメニューも発売していた。一方、日本はまだ900店舗くらいでブランドとしてはとても良いポジショニング持っていた。目先の売り上げのためにブランドを棄損することはしたくなかった。また、ディスカウントなどで信頼を失うことも避けたかった。提案のなかでワンモアコーヒーはほとんど費用もかからず、すぐ実行できるので導入した。


――一方のブリングマイカップはどうか。

 ブリングマイカップというのは、毎年12月の環境月間で50円の値引きを毎年実施していたサービス。通常4週間がプロモーション期間だが、北海道の出張でお店の人達からの評判がすごくよかった。環境についてお客様とのよいコミュニケーションツールになる。その場で担当者に電話して、もう1か月続けることを伝えたが、大きな反対を受けた。プロモーション計画の変更、3000万円程の費用もかかるなどと。だが、こんなにもお店の人達が喜んでいるならそれだけでやる価値があると押し切ってやった。


――2つの施策はシナジー効果があった?

 ワンモアコーヒーの成功につながったと私は信じている。ブリングマイカップでお店の人たちが元気になったことで、後につながった。


――狙いが的中した?

 当初、レシートの下に書くだけ、というのは安っぽくて反対だった。よりよく見せるためにギフトカードみたいなものでもと思ったが、費用がかからずすぐでき、オペレーション面での利点からスタートした。驚いたのは、店舗の接客でカバーしてくれたこと。レシートを見たら、いつ来てくれたかわかる、例えば出張の人に対する「遠くからの出張お疲れ様です」などのねぎらいの言葉だったり、再来店してくれた人へ「お帰りなさい」の一言など、接客トークでカバーをしてくれた。


――パートナー(スターバックスの全従業員)にモチベーションがあったということ?

 もともとスターバックスの人達はとてもモチベーションの高い人達。レシートを通じて、お客様に対してちゃんと関心を持って接客をしてくれた。レシートを見て私自身も声をかけてもらったことがある。複数の人からも同じ経験があると言われた。多くのお店でうまく対応してくれた。お店の人たちは本当に素晴らしい。100円コーヒーは見方によっては、ディスカウント。ただ、そこまでうまく対応してくれたらディスカウントに見えない。それでまたファンも増えたと思う。これがきっかけで、売り上げが戻った。



「ドミナント戦略は物流の問題が大きい」


――出店戦略について。当時、店舗数を急増させたが。

 当時は振幅の激しい経営をしていた。リーマンショック前は出店数が150店舗、採用も100人以上だったが、リーマンショックでいきなりゼロになった。採用も出店もいきなりストップした。景気が悪いからといってゼロにするのではなく、安定的に成長して行くべきだと私は思った。


――勝てる目算があった?

 当時の売り上げは800億円ちょっとだったが、将来的には2000億円までいけると思っていた。ただし、10年〜20年のスパン。景気は良い悪いがあるのだから、景気の悪い時は、良い場所にリーゾナブルな家賃で出店もでき・良い人財を雇いやすい。逆に景気の良いときも、無理矢理出店や採用をすると問題がでてくる。


――成長を焦ると、変な場所にお店を出してしまうこともある。

 人の採用や教育が間に合わなかったり、出してはいけない場所に出てしまったりする。人が店舗の成長についていけないのでは良くない。第一、店長はそんな簡単に作れない。店舗は作れても、人がついてこないことが多い。


――うまく出店するために必要なことは?

 人の成長を見ながら安定して出店していくべき。アメリカなら、多くの人の採用して、翌年調子が悪いから、次の年はゼロにして、首を切ることもできる。アメリカのスターバックスも調子の悪い時はレイオフをした。でも日本の場合はできないし、やるべきではないと思う。人の採用・店舗拡大も安定的にすべきだと考えている。


――セブン-イレブンのようなドミナント戦略は意識していた?

 ブランドを浸透させる以上に物流の問題が大きい。地方出店の場合は、地域の主要地点の中心地に店舗を出す。ブランドが浸透してきたら、郊外のドライブスルーに進んで3店舗くらいに広げる。2〜3店舗の出店前提でないと物流コストがかかってしまう。

 そういった経済的な理由以前に、地方にはスターバックスを待ってくれている人がたくさんいるので、「全県制覇」を目指した。外資系なので、採算面に厳しく、出店基準に高いハードルがあるが、「スターバックスを待ってくれている人がいるなら行こうぜ」、と地方出店をしていった。幸い私のときの地方出店は全部成功したが。



――体験を考えるならばドライブスルーもいきなりできることはない?

 実際ドライブスルーでは、スターバックスの強みである接客やお店の雰囲気は味わえない。だからまず駅前や人が集まる所にお店を出して、スターバックスを理解してもらってから、郊外にドライブスルーを出していく。現状これだけの人気ブランドになっていれば、知らない人はほとんどいないが、。それでもいきなりドライブスルーを出すわけにはいかない。

 アメリカからは(ドライブスルーの店を)どんどん出せと言われていたが、スターバックスのブランドがその地域に浸透してから、ドライブスルーは出店して行った。


――高い客単価に対して、滞在時間の長さに許容、経営判断はあった?

 基本的に、店舗ビジネスの売り上げは席数×回転率×単価で決まる。長居されたら普通ならやはり困ってしまう。喫茶店は1時間くらいいると、お水が出てきて、お帰りくださいという雰囲気がでてくる。スターバックスはそんなことはしない。喫茶店との大きな違いはテイクアウトがあること。

 多いお店で4割以上だったので、テイクアウトがなかったら成り立たない。テイクアウトのない喫茶店なら回転しないといけない。スターバックスはカップを持ち歩いて、外で飲むこともかっこいい文化に変えた。テイクアウト自体が宣伝にもなる。お店が近くにあることがすぐわかる。


――経営者として大事にしている、経営指標は?

 小売りというのは日々売り上げを作る仕事。お店を増やせば当然売り上げは伸びる。しかし無理な出店をすると店舗あたりの利益率は下がっていく。前年度同規模店舗数売り上げが一番大切な指標。会社全体の重要指標としては、やはり営業利益。私が経営者として一番大切にしている指標は、従業員満足度。経営者が株主に求められるのは株主価値の最大化。でもこれらは当たり前のこと。

 私はCS(顧客満足)よりES(従業員満足)が大事だと思う。従業員が会社に満足していないのに、お客様を満足させるのは難しい。小売業は総じて従業員を軽視している。


――顧客同様、従業員との関係を変えるのが本当の革新だと。

 小売りの場合オーナーと使用人という関係のなごりがある。特にチェーンオペレーションをしている企業では、考えるのは社長だけという構図がある。やはり自立的にスタッフが考え行動できる環境づくりをすべきだ。所詮アルバイト、という考えは間違っている。ちゃんと自分たちの仲間でありスタッフであるという意識が伝わらないといけない。スターバックスに関して言えば、アルバイトに70時間の入社教育をしている。だから今のクオリティーを1000店舗で保っていることができる。これだけ店舗数があって、どこに行ってもハズレがないのは奇跡だ。

 重要なのはトップなり上層部がミッションを大切にし、それを全社員に繰り返しメッセージを発信し、浸透させて行く事だ。


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