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B2Bでセブンの強みが生きる

地元密着店を疲弊させた オムニ戦略の落とし穴

2014年08月27日 16時00分更新

文● 腰 裕人/アスキークラウド編集部

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ニトリやヨドバシカメラは、ECサイトの利便性と物流センター強化で通販売上が好調だが、中小企業は物流コストがかかり売上は伸びるが利益が出ない。物流におけるB2BとB2Cの間には大きな壁がある。

 家具販売大手、ニトリの通販事業の売上高は、2014年(2月期)に122億円となり、前年から約1.5倍となった。今年3月からはスマートフォン(スマホ)での購入にも対応、SNSのLINEに広告を出すなど、オムニチャネル化を進めている。

 ニトリのスマホアプリでは、トータルコーディネートや季節の特集が組まれ、「夏布団を探すつもりが、デザインをそろえたくて枕も買った」(購買者)といった「ついで買い」による客単価向上を狙う。 しかし、ECサイトには不満の声もある。例えば送料の分かりにくさだ。「7000円以上無料」のはずが、メーカー直送や個別送料の例外商品がある。店頭での案内に相当するサービスが、ECサイトでは実現できていないのだ。

 一方、家電量販大手のヨドバシカメラは、ECサイトで注文して店舗で受け取れるサービスや、無料の全国配送など、「仮想敵」のアマゾンを超える購買体験を追求している。ECサイトで店舗在庫を確認できるので、すぐに使いたければ最寄り店で購入できる。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)総合研究所所長の佐藤修司氏は「経営層にとって、在庫管理の一元化の決断を迫られる段階」と語る。在庫をリアルタイムで更新し、基幹システムとつなぐツールに選択肢が増え、通信コストも手頃になった。オムニチャネルは検討段階から導入初期段階に入っているのだ。


オムニで挫折する中小企業

 中小企業もオムニチャネルに積極的だ。100種類近くの神戸ブランド商品が出品されているECサイト「神戸セレクション」には、神戸を訪れた一見客をネットで常連客化する狙いがある。

 開始当初は注文過多で混乱もあったという。工場を持つ店は大量受注に対応できるが、店舗兼作業場の小規模店では、製造から発送まで全て手作業で「とてもじゃないが追い付かない」のだ。

 また、工場を持っていても「法人相手の、小売りの仕組みがない業種では通販が担当ではない従業員に頼るため、仕事が増えて疲弊する」(EC業界関係者)という。規模が大きくなれば運送業者にアウトソースできるが、そのぶんコストがかかる。価格を見直せば値上げしたと思われるため、よほど商品力がないと続かない。

「オムニチャネル」ブームは地方のネットショップにまで及ぶが、「アマゾンのせいで送料無料が当たり前だ。取扱量が少なければ運送業者と交渉できず、利益を削らざるを得ない。地域密着型のわれわれにオムニチャネルは無理だ」(ネットショップオーナー)。


セブン-イレブンはあくまでB2B

 セブン-イレブンは地域密着の小売りチェーンだ。地方の小売店がさじを投げるオムニチャネルを実現する見込みをどう立てたのか。

「店頭引き取りなら倉庫も店側もB2Bのまま。店頭に届けるルートは今と変わらない」(流通関係者)。 セブン-イレブンのオムニチャネルでは、店頭はECサイトの配送先の位置付けだ。もしセブン&アイ・ホールディングスが取扱商品を全て個人宅に届けようとすれば、物流網の整備に時間もカネもかかる。不可能ではないが、セブン-イレブンが得意とする高密度多店舗出店(ドミナント方式)による物流コストの圧縮が効かなくなる。

 当日配送サービスの全国展開に力を入れるヨドバシカメラは、2018年末までに400億円を投資し、川崎や三重県、北海道、九州に物流センターを建設。ネット通販事業の売上高2000億円を目指す。さらに、家電や医薬品など約300万点を取り扱い、今後も品目を増やす。

 一方で、セブン&アイ・ホールディングスの取扱品目は500万点を超える。弁当やミネラルウオーターは、セブン-イレブンの制服を着た配達係が自宅に届けてくれるだろう。しかし、全取扱商品を翌日配送するようなサービスの実現は難しそうだ。「セブンのオムニチャネル」はセブン-イレブン店頭への集客策になるだろうか。

アスキークラウド2014年10月号(8月23日発売)より転載。


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