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スターバックスのオムニチャネル戦略

2014年08月24日 07時00分更新

文● 北島幹雄(Mikio Kitashima)/アスキークラウド編集部

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グーグルで「オムニチャネル」を検索すると、補完候補に「セブン」「イオン」が入ってくる。オムニチャネルといえばセブン-イレブンやイオンの取り組みが注目されている証しだが、本誌はそう考えない。実験段階で具体的な成果が見えないからだ。スターバックス コーヒーはどうか。おいしいコーヒーを飲む、くつろいだ時間を提供する。そのたった一つのサービスのために、商品、接客、プロダクトデザイン、出店計画、店舗、EC、ウェブなど、全てのチャネルで利用者に対するひとつなぎの戦略がすでに実践されている。スタバの成長を通じて、オムニチャネルの正体に迫る。

スタバマグ

写真:三浦健司

 米国の百貨店メーシーズが2011年に掲げた「オムニチャネル」は、顧客が体験するさまざまな販売チャネルをシームレスに連携し、最適化するマーケティング戦略だった。デジタルデバイスや店舗など複数の接点を超えて、利用者にとって最適化されたメーシーズをつくった結果、オンラインの売り上げは毎年40%以上の成長率で拡大。日本でも大きな注目を集めた。

 インターネット上でも実店舗でも、区別なく買い物ができる世界を目指す言葉は、ECやマーケティング業界にとって耳触りがいい。小売業に対して、顧客・購入履歴・在庫情報のデータベース一元化、組織統合、評価制度の変更、店舗で使うハードウエアの刷新など、あらゆるチャネルを売り込める。流通コンサルタントやIT企業にも都合がよく、結果、国内のオムニチャネル事例には、仕組みを売った側の成功談があふれている。

 経営コンサルタントの権 成俊氏は、「メーシーズにとっては在庫削減が最大の成果という話。今後、在庫の統合も一般的になると、便利ではあっても買う理由にまでなるかは疑問」と語る。

 ヤマダ電機は「ネット企業にまねできない試み」として、全国約760店舗を拠点とし、即日、販売員が商品を顧客宅に届けるサービスを実施しているが、そこにヤマダ電機ならではの価値は見当たらない。店舗をショールーム化し、ECサイトで購入すると即日届く顧客の購買体験を「オムニチャネル」と呼ぶのは、事例を売りたいコンサルタントだけだろう。

スタバの売上高と店舗数

スターバックス コーヒー ジャパンの売上高と店舗数


体験としてスタバは気持ちいい

「おいしさより、スタバでコーヒーと何かを食べることが心地いいとなってくれれば、来店数は伸びる。それがクロスセルじゃなく、体験として気持ちいいとなるかが重要」

 7月に開催されたフェリカコネクト2014の基調講演で、スターバックス コーヒー ジャパンの長見 明マネージャーがこう語った。

 自宅でも勤務先でもない「サードプレース」として、スターバックスはコーヒーをくつろぎながら味わってもらうブランドを確立した。1971年に米国で創業し、日本には1996年に進出。2001年の上場時の売り上げは約476億円。その後12年間で年平均8.5%の成長を果たし、2013年度の売上高は約1257億円、営業利益は約110億円の優良コーヒーチェーンに成長した。ライバルであるドトールコーヒーの2013年度売上高、約739億円に対して1.7倍だ。客単価でもドトールコーヒーは300円台半ばなのに対して、スターバックスは約600円である。

 オムニチャネルがはやりの戦略だとしても、売り上げが伸びなければ意味がない。ソーシャルメディア、実店舗、ECサイトの垣根を越えて、認知、検討、購入のプロセスを実現することが目的ではないはずだ。その点、スターバックスはどの店も同じサービスなのに、どの店にも個性があり、他店より高くてもついつい利用してしまう。スターバックスこそ、オムニチャネル戦略を実践してきたのではないか。

 アスキークラウド2014年10月号の特集では、スターバックスの成長の軌跡を、歴代4人のCEOごとに経営方針を数式化してたどっている。ブランドの構築期からクロスセルによる売り上げ増、店外商品の拡大や最近の集中出店までを、オムニチャネルの視点で取り上げる。


アスキークラウド2014年10月号(8月23日発売)より転載。

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