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情シスの本音がベンダーを突き刺すパネルディスカッション

ベンダー涙目?個性派情シス担当が語るIT活用の実態と問題点

2014年08月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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中小企業向けサービスを展開するベンダーとユーザー企業が本音をぶつけ合うITACHIBA会議の第2回。後半のユーザー側のパネルディスカッションには、歯に衣を着せぬ強烈なメンバーがIT活用の現状とベンダーに対する意見を赤裸々に語った。

オープン化完了、クラウド化完了、自社開発追求という3社

 富士通マーケティング、サイボウズ、KDDIまとめてオフィスの3社によるベンダー側のパネルの後に行なわれたユーザー企業のパネルディスカッションでは玉川大学准教授の小酒井正和氏がモデレーターを務め、3社の情報システム部の担当者が自社システムの概要を説明した。

西原環境 経営管理本部統括情報システム室長 稲嶺ただお氏、旭フーズ 副社長の菊地拓也氏、モデレーターの小酒井正和氏、サンコーインダストリー社長の奥山淑英氏

 食品の卸売りを手がける旭フーズでは、長らくホストベースだった基幹システムをオープン系に移行し、4月にカットオーバーを迎えたばかり。年商50億円、従業員36名という同社の基幹システムは、「売った、買った、儲ったを処理するというだけのハコ」という位置づけで、今までは「超有名なERPをウルトラカスタマイズし、ポルシェが買えるくらいのサーバー上で動かしていた(笑)」(旭フーズ 副社長 菊地拓也氏)。

 30年近く運用し、減価償却費を投入し続けたホストベースの旧システムだが、ベンダーからは同社に所有権はないと言われ、事実上のベンダーロックインの状態に陥った。そこで、新たにOracle DBとJavaでシステムを再構築し、データセンターに設置。現在は、取引先元帳をアウトプットし、社内システムで処理しているという。

 水処理のプラントを展開する西原環境は、全サーバーをクラウド化しているのが特徴的だ。年商150億円、従業員500名の規模の西原環境 経営管理本部統括情報システム室長の稲嶺ただお氏によると、同社のシステムは長らくIBMのSystem iとロータスノーツで動いていたが、2009年の事務所引っ越しを機にクラウドへの移行を検討。「年間で1000万円くらい落ちないかなあと思った。あと、引っ越し先が普通の賃貸オフィスだったので、災害が心配。どうせながら全部クラウド化したい」(稲嶺氏)と思ったという。

 しかし、検討のさなかに3・11の東日本大震災が発生し、経営陣からクラウド化を急かされることになった。この結果、2010年には約30台のサーバーをすべてデータセンターに移管し、2011年にはメールもロータスからGmailに移した。「シトリックスも導入しているので、社員は現場でも、自宅でも同じ仕事環境を利用できる」(稲嶺氏)とのことで、BCPの観点でもクラウドは有効だったようだ。

 ねじの販売を手がける大阪のサンコーインダストリーは、オンプレミス+自社ソフトを追求している。同社の3代目社長である奥山淑英氏は、「ツールにあわせて仕事を変えていくのとはまったく逆。われわれは仕事にあわせて、コンピューターをどこまでも改造していく。コストも投資対効果も考えていない」と断言する。

 年商210億円、従業員数350名という同社のコンピューター導入は古く、NECのオフコンを用いて、1980年代から在庫全商品のコンピューター管理を実施していたという。その後も、バーコードを用いた物流センターや商品コードの18桁化などを実現し、現在は受注システムのオープン化や需要予測システムの開発などを進めている。

 同社の特徴はパッケージを使わず、ほとんどをフルスクラッチで行なっている点。たとえば同社の顧客から専用の帳票を要求された場合、Excelでやろうにも社内にスキルがなく、結局顧客からもらった帳票をコピーし、手入力で印鑑を押さなければならない。こうしたケースに対応するには、パッケージでは限界がある。こうした現場のニーズに応えるべく、「従業員から毎日のようにソフト申請書が出てくるので、審査の後、改修を続けるのみ」(奥山氏)という。

情シスにとってベンダーと経営者とは?

 こうした個性豊かなメンバーは、ベンダーとの関係を議題に据えたいモデレーターの意図とは別に、オフコン論や情報収集法などいろいろと脱線しながら意見を出し続けた。

 三者で共通していたのは、長期的に相談できるベンダーの重要性。西原環境の稲嶺氏は「私たちのような小さい会社がユーザー同士の生情報を得るには、長く安定したつきあえるベンダーが相談相手として必要」と語る。サンコーインダストリーの奥山氏も「質問できる環境はすごく重要。私もベンダーに師匠が1人いて、仕事を超えた関係になっている。情シスにも一人師匠がいて、気軽に相談できる」と述べる。コンピューターの世界は言語がバラバラなので、ユーザーとベンダーの橋渡しができる、それぞれの言語を介するSEのような存在が必要だというのが、奥山氏の持論だ。旭フーズの菊地氏も「多くの相手と付き合うのは難しいので、絞り込む必要がある。うちは20代のベンチャー企業に賭けてみたい」と語る。

 もちろんベンダーは味方ではなく、敵となることもある。奥山氏は、「うちのお客となる小さい企業にパッケージ売り込むヤツは、なんでも金にしようとする。データ足すだけで、100万ぶっこんできよる。悩める中小企業の人からこんな話を聞くと、ホントどついたろうかと思う」と一部のベンダーの対応を糾弾する。

 一方で、最近はベンダー側からユーザー側への転職という例も多いが、奥山氏は「8年前くらいはそれ(雇用すること)も考えたが、今となってはまったく考えていない」と語る。ビジネスとしてコンピューターに関わっているからこそできる話があり、ベンダーならではの情報収集の仕方があるため、立場が変わると、なかなか戦力として考えにくいというのが理由だ。稲嶺氏は、「(ベンダーから)うちに来いよと言うのは簡単だが、人事的にはキャリアパスを考えなければならない。ただですらコア業務でない情報システム部にそこまで余裕がない」と吐露する。

 中小企業のIT導入で重要な経営者についても興味深い意見が出た。稲嶺氏は、「経営者とITについて議論してもしようがない。そういう経営者じゃない方が望ましい」と持論を展開。その上で、経営者に売り込みにいくベンダーに対しては、「本来は情報システム部と話すべきだが、経営者に行くというのは、結局情シスの人を減らされるとか、仕事の一部がベンダー側に行くとか、なんらかIT部門に不都合があるからだと思う」と指摘した。

経営者とITの議論はしてもしようがないと語る稲嶺氏

 これに対して、自身が経営者でもある奥山氏は、「情シスを通さないでいきなり経営者に行くのは、個人的には完全にマナー違反。社長に社内営業しろっということかと思う。ステップを踏んで、コンセンサスをとって、俺を口説くのがお前のテクニックやろうとベンダーに諭すこともあります」と応じる。

(次ページ、Access使い、パンチャー、業務の女性)


 

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