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映画『STAND BY ME ドラえもん』を手掛けた「白組」オフィスにお邪魔してお話をうかがった

えっ、指紋つきのドラえもん!? 3DCGに込められた「質感」へのこだわり (3/3)

2014年08月08日 08時00分更新

文● 松野/ASCII.jp編集部

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こだわった「質感」

実際にモデルを配置したデータ。膨大な容量で、このまま動かすことはできないという

八木 今回、花房はかなり未来感にこだわっていまして。ひみつ道具って22世紀からやって来たものじゃないですか。道具たちの質感が凄くて、ツルッツルで映り込みがたくさんあるとか、ゴムが少し透けてるみたいな。

花房 「半透け」の技術って割と最近できたもので、CGでそういうことができると、リアルな感じや未来的な質感が出るんですよ。それを使いたくていっぱい入れちゃったので、そうすると場面作りに時間がかかる(笑)。1秒に24枚の画を作らなきゃいけないんですけど、その1枚に最大6時間ぐらいかかってますね。

鈴木 『ナキ』の時は1枚12分ぐらいでできたらいいね、という話をしてたんですが、今回は1時間かかるのも当たり前。ハードにだいぶ助けられた部分があります。メモリーは最低32GBで統一してもらって、かなり無茶な要求にも対応してもらったなと。技術的なハードルには色々挑戦してまして、照明の反射の計算も真面目にやっていたり、面を持った光源を計算したり、リアルにやっているので、場面によってはミニチュアとCGの区別がつかない。これまではそういう選択肢すらなかった。今回はソフトもハードも進化していて、テスト段階で現実的に計算できるね、と。時代的にも恵まれたと思います。

花房 動かない部分はミニチュアで作ってるんだけど、のび太の机を開けてタイムマシンに乗る時とか、CGで動かしてるんですよ。でも、もうCGとミニチュアのカットが区別つかない。すごいよくできたよね、あそこ(笑)。アセットのチェックをして、もう写真じゃん! って。自分たちが楽しんでましたね。僕がのび太で、みんながドラえもん、みたいな。出してって言うと出してくれる(笑)。

ドラえもんに指紋が!?

実際にこのような感じで作業を進めていたそうだ

花房 CGはキレイになりがちなんだけど、キレイだと嘘っぽくなりがち。汚しを入れるとリアルになるけど、ひみつ道具って未来の家電だから、汚しよりも質感を面白いものにしてリアルを表現しています。今あるデザインのものというより、未来の家電屋さんが作ったらどうなるかということをシミュレーションしている。継ぎ目とか、角がまるくなってるとか、ネジは未来にもあるか分からないけど、それに代わるものはあるかもしれない、とか。じゃあそれは何の素材なんだ、と聞かれると難しいですね。材質は「未来の新素材」と答えてます(笑)。未来プラスチックとか、未来ゴムとか呼んでた。

 ドラえもん自体が未来の家電なので、最初はもう『トランスフォーマー』みたいな継ぎ目とか、口の中にスピーカーの穴をあけてみたり、「耳の取れた跡」とかつけてみたんです(笑)。でも、他のスタッフから「それは違うだろう」と。「夢が壊れる」と(笑)。ただ、リアルに詰めていくことは必要だと思うんですよ。ひみつ道具はかなりいいところまで作り込めたと思います。実は、ドラえもんにのび太の指紋がついてて、映画でもよく見ればわかるかもしれない。

鈴木 ただ、質感が複雑になると色んなものに映り込んじゃうんです。嘘がつけない。部屋を出ていったところが写っていないけど、どこかに映りこんでるとか。そこまでアニメさせなきゃいけない。

八木 「刷りこみたまご」ってひみつ道具が、ツルツルで全身映り込んでしまうんですよ。フレームアウトしているんだけど、遠くの方へ飛んでいくドラえもんが見える、とか。

髪の毛、服のシワ、肌の質感に挑戦したかった

のび太の髪。ちゃんと1本1本が計算されている

八木 できることは『ナキ』の頃から10倍ぐらい増えてるような感じがしますね。髪の毛と、自然な服のシワ、肌の質感は凄くやりたかったこと。『ナキ』のときはキャラクターデザインも自分たちでやったので、キャラクターの服は全部ノースリーブ(笑)。シワって、時間かかる割にはお客さんに訴えるものではないじゃないですか。かと言って、手を抜くと不自然になる。だから、コストダウンしていこうと。『ドラえもん』では全員の服をノースリーブにするわけにはいかないから、そこは真剣にやりました。

花房 僕たちは、「あ、このシワすごい」って。一般の人はそれが普通だから、自然であればあるほど気にならない。

八木 感情移入度が変わって来るんですよ。例えば飛行シーンで服がバタバタしてないと、気持ち良さが全然でないでしょ。でもお客さんは「服がバタバタしてるねー」とは思わない。髪も1本1本計算してますが、やりすぎるとのび太ではなくなっちゃうので、キャラクター重視でだいぶ嘘をついています。横になったときもあんまり崩し過ぎないように。飛んだときとかオールバックになっちゃうんです(笑)。そのへんがちゃんとできたのは本当に良かったですね。

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