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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第107回

またローンチ延期のTizenスマホ、Samsungの戦略はいまだ見えず

2014年08月06日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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 Samsungが7月末、初のTizenスマートフォンとなるはずの「Samsung Z」のロシアでのローンチ延期を発表した。理由は「アプリエコシステム強化のため」とのことだが、Tizen Associationの主要メンバーであるSamsungがアプリエコシステムの状況を把握していないはずはない。

 それだけが原因ではないのではと勘ぐりたくなるが、ともかくもTizenのイメージがまた悪くなったことは誰もが認めるところだろう。

ロシアでも延期となったTizenスマートフォン

Tizen搭載の初のスマートフォンとしてリリースされるはずだった「Samsung Z」

 スマートフォンの短い歴史の中でも、ここまで端末ローンチが延期したOSはないだろう。Samsungは6月に明らかにしていた「Samsung Z」のロシアローンチを延期すると7月28日に発表した。当初の予定では、第3四半期にロシア市場で発売となっていたが、これが無期限に後伸ばしになる。SamsungはTizenエコシステムを理由に挙げ、「Tizen Associationのメンバーと積極的に協力してTizen OSとTizenエコシステムの両方の開発を進めていく」との公式コメントを出している。

 予兆はあった。発表の場となるはずだった7月前半開催のモスクワでの「Tizen Developer Summit」でSamsung Zは登場せず、「スマートフォンは、ユーザーに完全なアプリのポートフォリオを提供できる段階になったら、ロシア市場に登場する」と語っていた。

 イベントでは当然ながら集まった約150人の開発者にアプリ開発を奨励したようだが、Samsungのロシアの幹部が述べたという発言が悲しい現状を物語っている。「Tizen向けにアプリを開発するアドバンテージは、プレミアムデバイス(=Samsung Z)上に表示される半分空っぽのアプリストアの上位に、開発したアプリが並ぶことだ」。

 そもそもロシアというのも不思議だったが、それすら変更の末だ。Samsungは5月にロシアとインドの2市場でのローンチを発表しており、その後にロシアに絞り込んだ。このように不可解な部分が多いSamsung Zのローンチだが、延期となったことで市場のイメージは悪い方向に向かってしまった。

Tizenの3年間は黒歴史だらけ?

 Tizenの歴史は延期の繰り返しだ。2011年秋、IntelとSamsung、それに非営利団体Linux FoundationがTizenを立ち上げてから3年近く、Tizenベースの製品はカメラとスマートウォッチというニッチ分野にとどまっており、いまだにスマートフォンは登場していない。

 スマートフォンについては2013年2月の「Mobile World Congress」で、NTTドコモ、Orange(フランスの大手キャリア)、Samsung、Intelらがプレス向けのイベントを開催し、NTTドコモは発売時期を2013年秋とした。だがTizenスマートフォンは待てど暮らせど登場せず、NTTドコモは最終的に2014年1月に無期限で見送ることを発表した。

 一方で、同じ2013年のMWCで気勢をあげたMozillaの「Firefox OS」陣営は(販売台数はともかく)順調に計画を進め、欧州、南米、そしてアジアと世界地図を少しずつ塗っている状態だ。新しいモバイルOSではこのほかにもJollaの「Sailfish OS」とCanonicalの「Ubuntu for phone」があるが、主要オペレーターとメーカーが参加している点ではTizenとFirefox OSが有力視されていた。

 しかし、Jollaは2013年11月に端末を発売し、今年7月には香港ローンチも発表。Ubuntuも中国とスペインで地元メーカーとの提携を発表し、秋のローンチを計画している。Samsung Zは年内に登場しないという憶測もあることから、どうやら4つのOSのうち、最も有力企業が集まっているようにみえたTizenが最後尾となってしまう可能性は高そうだ。

 Tizenそのものについて言うなら、Tizen Associationのプロジェクトの進め方も気になる。今年2月のMWCでSamsungはTizenを搭載した「Gear 2」を発表したが、発表当日の早朝までTizenチェアマンの杉村領一氏(NTTドコモ プロダクト部技術企画担当部長)は知らなかったと語っていた。

 Samsungの市場での力があまりに強く、プロジェクトとして機能しているのかが気になる。なお、Nokiaがまだ最大手だった時、自社プラットフォームとして育てようとした「MeeGo」(Tizenの前身でNokiaがIntelと立ち上げたオープンソースのモバイルOSプロジェクト、Tizen同様にLinux Foundationがホスティングしていた)はうまくいかなかった。Tizenを採用した製品にコミットしているメーカーがSamsung以外にない点も、Nokia以外に製品が登場しなかったMeeGoと類似している。


(次ページでは、「シェア低下のSamsungは不振から脱出できる?」)

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