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AWS Summit Tokyo 2014レポート 第4回

導入への社内障壁は?ベンダーをどうたきつける?ロックインは?

NTTドコモ、東急ハンズ、日清食品が語るクラウド成功の秘訣

2014年07月22日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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先週、開催されたAWS Summit Tokyo 2014では、AWSの導入を進めるNTTドコモ、東急ハンズ、日清食品の情シスによるパネルディスカッションが行なわれた。ユーザー主導でのクラウド導入を成功させるにはどうしたらよいか? 現場で役立つ意見が数多く披露された。

開発系から情報系、そして基幹系へ進むAWS

 「AWS Summit Tokyo 2014」2日目の締めとなったのが、NTTドコモ、東急ハンズ、日清食品ホールディングスの企業のIT担当者による「クラウド導入はユーザー主導で! E-JAWS激論パネル」だ。パネルはアマゾンデータサービスジャパン技術本部長の玉川憲氏のモデレーターを務め、NTTドコモ サービスイノベーション部 部長の大野友義氏、東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長/ハンズラボ 代表取締役社長の長谷川秀樹氏、日清食品ホールディングス 執行役員・CIOの喜多羅滋夫氏がパネラーとして議論を交わした。

左からアマゾンデータサービスジャパン技術本部長の玉川憲氏、日清食品ホールディングス 執行役員・CIOの喜多羅滋夫氏、NTTドコモ サービスイノベーション部 部長の大野友義氏、東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長/ハンズラボ 代表取締役社長の長谷川秀樹氏

 パネルは東急ハンズ 長谷川氏によるE-JAWSの説明と利用動向アンケートの説明からスタートした。

 3名が所属するE-JAWS(Enterprise Japan AWS User Group)は、AWSのユーザーおよび導入検討を行なっている企業によって構成されるエンタープライズ向けのユーザーグループ。デベロッパーやベンダーなど幅広い参加者で構成されるJAWS-UGに対し、E-JAWSは参加メンバーを限定した招待制となっており、信頼を持った情報交換がやりやすい環境になっているという。現在、40~50社程度の参加者となっており、実践事例や研究成果の共有のみならず、情シスの新しい姿を模索しており、ユーザー主導のクラウド導入を進めている。

AWSの法人格ユーザーグループである「E-JAWS」。一見すると通常のJAWS-UGのロゴだが、E-JAWSはネクタイをしているのがポイント

 さて、E-JAWSが2013年11月に行なったアンケートによると、現状AWSは開発系から導入されることが多く、その次に情報系、基幹系という順番で導入されるパターンだ。しかし、この半年で情報系、基幹系への導入は急速に高まっているとのことだ。

開発機、情報系、基幹系などで用いられている

 また、利用しているサービスはEC2(89%)、S3(82%)が中心だが、仮想ネットワーク経由で利用できる「VPC(Virtual Private Cloud)」やAWSを専用線でつなぐ「Direct Connect」の利用度が高いというのがエンタープライズらしい。そして、最近増えているのがデータベースサービスの「DynamoDB」やデータ解析を行なう「Amazon Redshift」。長谷川氏は「“Redshift天国かっ!”というくらいRedshiftは多い。数億するアプライアンスを買うのとは価格が全然違うので、うちの周りもけっこう移っています」と語る。

7割移行済み、228項目のチェックリスト、ダメな理由を5つ

 次にフォーカスは各社のクラウドの移行状況に移る。まず、全システムのクラウド化を目標とする東急ハンズは、すでに7割をAWSに移行済み。「ADサーバーやファイルサーバー、人事・会計、POSサーバー、ECまで含めてAWS上で稼働している。今年度は自社開発のアプリを移す予定」(長谷川氏)。珍しいところでは、「Storage Gateway」を用いることで、ファイルサーバーまでクラウド移行しているところ。オンプレミスで11ラックだったシステムが、現状は90インスタンス程度にまとまっているという。

緑がAWS、青がオンプレということで、東急ハンズでは7割がAWSでクラウド化

 移行の評価としては、「当たり前のように移っていいものはいい。特に会計・人事のサーバーはクラウドに移っただけなので、ユーザー側は変わったかもわからへん」(長谷川氏)とのこと。クライアント/サーバー型の会計システムで通信の遅延が発生し、遅くなる画面もあったが、ほとんどは問題なく移行できた。

 今後は単にシステムをクラウドに移行しただけのレンタルサーバーのような使い方ではなく、AWSが標榜するフルマネージドのサービスを駆使することで、「1億人が使える基幹システムを作ったろうかと思っている」(長谷川氏)という。たとえば、レプリケーションなどを自動的に行なうDynamoDBのようなサービス前提でシステムを組み替えたいと述べた。

東急ハンズは聖域なく、フルマネージドを使い倒す段階に移行する

 システム全体をクラウド化している東急ハンズに対し、NTTドコモは、おもにクラウド系のサービス開発でAWSを活用している。もともと同社はオンプレミスでのウォーターフォール型開発でクラウドサービスを作ってきたが、スケールしないという課題からクラウドへの移行を決断。他社のクラウドでアジャイル開発にチャレンジしたが、トラフィック量にシステムが追いつかず、AWSに乗り換えたのが2012年4月になる。以降、「しゃべってコンシェル」などのサービスをAWS上で構築。「スケールできるし、コスト面でも圧倒的に安かった」(NTTドコモ 大野氏)といったメリットを得られている。

NTTドコモがAWS利用に至った経緯

AWS上で運用されているシステム

 とはいえ、導入がスムースに運んだわけではない。特にセキュリティ面での懸念は大きく、最近ではデータ解析でのRedshiftの導入に備え、情報セキュリティの部門から228項目にもおよぶチェックリストを渡されたという。しかし、リスト内容を1つ1つチェックすることで、情報セキュリティ部門の懸念をクリア。「最終的にはAWSを使ってダメな理由はもはやないと言われた」(大野氏)というところまでこぎ着けた。大野氏は「アジャイル開発が主流となる昨今では、やはりAWSは使いやすい」と評価した。

 最後に紹介されたのはカップヌードルやチキンラーメンでおなじみの日清食品ホールディングス。同社のクラウド導入は、昨年からスタートしたばかりだ。外資系企業のシステム担当を手がけた経験のある喜多羅氏は、ERPやホストの再構成を考える際のスピード感に大きな課題があったと説明する。

 「年間200~250の新製品が出ては消えの業界なので、社内でもスピード感が要求される。手元のソリューションを考えたら、やはりクラウド。クラウドであれば、業界リーダーのAWSだろう」(喜多羅氏)ということで、昨年からAWSとの折衝を開始。まずはグローバルで統一した体系が求められるコーポレートサイトの構築でAWSを採用していくことになったという。「餅は餅屋でしょうという結論になった。われわれはより商売に近いところをやるべき」(喜多羅氏)

日清食品ホールディングスでAWSを採用した背景

 数あるクラウド事業者の中でAWSと組んでいるのは、やはり数多くの採用事例があるからだ。「AWSを使えるサービスプロバイダーも多い。太いキャパシティのあるところを仕事した方が、先々スケーラビリティがある」(喜多羅氏)とのことで、この1年で基幹の開発環境、コーポレートサイト、セキュリティやサービス、PC管理などはまとめてクラウド化した。「新しいサービスを作る場合はまずAWSを遡上に載せろ。ダメな場合は載せられない理由を5つ書けと言っている」(喜多羅氏)とのことで、子会社や孫会社にまで情報統制のコアにAWSを使っていくという。

(次ページ、セキュリティにうるさい役員にはどう答える?)


 

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