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日本人が最もクリエイティブな理由

2014年07月29日 16時00分更新

文● 伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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世界最高のデザイン会社IDEOの創業者・トム・ケリーは「人間はみんなクリエイティブだ」と考える。自分の創造力を信じることで、イノベーションを起こし「創造力に対する自信――クエリエイティブ・コンフィデンス」が得られるのだ。最新刊『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)が国内で発売されたばかりのトム・ケリーに話を聞いた。

――本書には「クリエイティブ・コンフィデンス」を得た事例が数多く載っています。中でも読者に見てもらいたい事例はありますか?

IDEO共同経営者トム・ケリー氏。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)に勤めるダグ・ディーツの事例です。彼の開発したMRIは、「デザイン界のアカデミー賞」といわれるインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞に出品されるほどのイノベーションがありました。ある日、ダグは自分のMRIがどのように使われているか、現場に行ってオペレーターに話を聞きました。技術的な話や操作性を中心に、賞への応募の話もして、改めて出来について褒めてもらおうとしていたのかもしれません。しかし、そのとき患者である幼い女の子と彼女の両親が入ってきました。少女はおびえていました。父親はその少女を励ましているんです。ダグがオペレーターに尋ねると、彼のMRIは8割の子どもがおびえて怖がるので、麻酔を打って落ち着かせないと使えないという事実を知りました。

 彼は家族と上司に相談して、スタンフォード大学のdスクールに通うことに決めました。dスクールでは最初に、人に使ってもらうことを考える教育、ヒューマニティーを学びます。今までテクノロジーのことばかりを考えていたダグは、ヒューマニティーという考えに触れることになります。MRIのテクノロジーは変えられないし、ヒューマニティーにGEはお金を出しません。彼は自費とボランティアの寄付だけで、MRIと治療室に海賊船や宇宙船といったペイントを施し、見た目を変えました。オペレーターにも子どもを楽しませる演出を頼みました。「今日は海賊船で冒険に出るよ。海賊に見つからないようにジッとするんだよ」といったように子どもたちがディズニーランドに来た気分が味わえる場所にしたんです。これによって麻酔を使う割合が1割に減りました。GEにとってもビジネスの成果が表れました。売り上げとMRIのシェアが上がったのです。病院側も麻酔をかけないので稼働率が上がりました。しかし、ダグにとっていちばんうれしかったのは、ある子どもが母親に「また明日も来ていい?」と言った時です。

――クリエイティブ・コンフィデンスにはヒューマニティーが求められるのですね。

 技術者には専門性だけでなく。同時に興味関心が求められます。自分自身だけで何かをやるのは難しい。他のジャンルに対する敬意や大切さを持ち合わせる、そういった技術者同士からはコラボレーションも生まれやすいのです。

 ストーリーテリングも重要な要素です。物を作った時に、スペックやデータはストーリーを語りません。しかし、いいストーリーは日本のハチ公のエピソードのようについ頭に残ってしまう。IDEOの前身だった会社でも、1987年の頃はエンジニアが100%で、ストーリーを担える人はいませんでした。現在は、コピーライターや広告業界出身といったさまざまな職種の人間が入っています。

――本書の冒頭に「日本人は本当にクリエイティブです」と書かれています。日本のクリエイティブなところを教えてください。

 日本がクリエイティブだと思っているのは私だけではありません。アドビ システムズが5カ国5000人を対象に実施したグローバル調査によると、東京が最もクリエイティブな都市だと答えています。しかし、日本は米国と答えているんです。データを鵜呑みにするわけではありませんが、人間にはそもそもクリエイティビティーが備わっています。しかし、自信を持って自分のアイデアに取り組んだり、試したり、発言したりしないといけません。勇気を持って会議で手を上げて発言することも大事です。日本に関してはここに力を入れた方がいいかもしれません。

「クリエイティブ・マインドセット 創造力・好奇心・有機が目覚める脅威の思考法」 著者/トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー 訳/千葉敏生 発行/日経BP社 価格/2052円

 私はいろいろな国を回っていて、今年も11カ国を巡る予定です。国によっては歴史に目が行きがちです。例えば、イタリアだとルネッサンスについて調べるような視点で見ます。これは個人的な意見ですが、東京は現在と未来を見に来ている感覚です。毎回来るたびに見たこともないような体験ができるからです。渋谷のあるカフェに3Dプリンターが使えるということで行きました。3Dプリンターを使うこと自体は珍しくもないのですが、そのカフェでは食べ物に刻印しているんです。ゆで卵やあんパンに似顔絵や名前を書くのは見たことがありませんでした。すごく日本的だと感じました。

 また、今回の来日で初めてLINEを使いました。テクノロジーとヒューマニティーで考えると、スタンプ機能には楽しさがあって、コミュニケーションツールとしてはスナップチャットよりも面白いと思います。東京自身がクリエイティブだと信じるためには、グーグルのような世界的企業が日本の優れた会社を買収すると意識の転換ができるかもしれない。それが第一歩となるかもしれません。


 アスキークラウド9月号の書評コーナーではトム・ケリーとデイヴィッド・ケリーの最新刊『クリエイティブ・マインドセット』を紹介している。常にクリエイティブを追いかける著者やIDEOの考えが詰まった一冊だ。


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