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1時間16セントから使える「Microsoft Azure Machine Learning」

機械学習をクラウド上で実現するマイクロソフトの戦略

2014年07月17日 09時00分更新

文● 大河原克行

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 米マイクロソフトはMicrosoft Azure Machine Learningで、アナリティクス領域における新たな提案を開始した。同サービスによって、マイクロソフトのクラウドビジネスはどう変化するのか。米マイクロソフトのマシンラーニングの担当役員に聞いた。

安価に将来予測できるクラウド型マシンラーニング

 同社のケビン・ターナーCOOが、「ゲームチェンジを及ぼすサービス」と位置づける同サービスは、過去のデータをもとに将来を予測。それによって企業競争力を高めることができるのが特徴だ。米マイクロソフト インフォメーションマネジメント&マシンラーニング コーポレートバイスプレジデント ジョセフ・シロシュ(Joseph Sirosh)氏は「世界で唯一、クラウドによって提供するマシンラーニングサービスになる」と語る。

米マイクロソフト インフォメーションマネジメント&マシンラーニング コーポレートバイスプレジデント ジョセフ・シロシュ(Joseph Sirosh)氏

 Microsoft Azure Machine Learningについて、米マイクロソフトのシロシュ コーポレートバイスプレジデントは、「パートナーや顧客が、新たなインテリジェントソリューションを構築するために用意したサービス。新世代のインテリジェンスインターフェイスになる」と位置づける。

 ビジネスインテリジェンス(BI)は、過去のデータを分析するだけのものであったが、Microsoft Azure Machine Learningは、過去のさまざまなデータから学習し、それをベースに将来の予測を立てることができるのが特徴だ。また、クラウドサービスであるため、1時間16セントからと、安価で提供するために、どんな規模の企業でも、投資を抑えながら、この技術を利用できることもメリットといえる。

 「クラウド上に構築されているため、誰もが、ブラウザを利用して、アクセスできる。ドラッグ&ドロップの操作だけで、APIをクラウド上にパブリッシュできる容易さも特徴となる。Azure上で、さまざまなデータベースを活用できるのに加え、他のアプリケーションと接続し、インテグレートすることが可能であり、マシンラーニングを知らない人でも利用することができる」と、シロシュ コーポレートバイスプレジデントは語る。

 インテリジェントシステムサービスや、PowerBIを通じた利用も可能であり、オープンソースのR言語にも対応。マイクロソフトで開発したアルゴリズムと、Rとを組み合わせることも可能だ。シロシュ氏は「クラウド上でのソフトウェアおよびアプリケーションの統合によって、競合他社と比べて、トータルコストを100分の1にすることができる」と自信をみせる。

 Microsoft Azure Machine Learningの利用料金は、アナリティクスモデルをクラウド上で利用できるスタジオサービスが1時間で38.76円。ソリューションとして利用できるAPIサービスが1時間76.5円。APIサービスでは1000件までの分析利用で18.36円となっている。データセンターは、北米のリージョンのものを活用。日本リージョンのデータセンターからはサービス提供されない。

高校生でも使える機械学習

 もともと、この技術は、マイクロソフトリサーチで開発されたものである。

 同社では約20年間に渡り、マシンラーニングの技術を研究している。当初は、eメールのフィルタリングやターゲティング広告などにこの技術を活用。昨今では、Bingの検索ランキングの分析のほか、Windows Phoneで提供される「コルタナ」の音声認識からベストな回答を導き出す技術に、あるいはXboxにおけるゲームやミュージックの認証分析などに応用されている。また、マイクロソフト社内でも、Nokiaブランドのスマートフォンの販売予測、財務部門で受取勘定予測などでも利用しているとのこと。

Microsoft Azure Machine Learningの概要

 「電子商取引の詐欺的行為の監視や、顧客の入れ替えの予測、信用リスクの予測のほか、エレベータの故障予測も可能になる。予測をすることで、課題にもいち早く対応できる」とする。センサー情報をとりまとめて分析するといったIoTの分野でも、有効な技術だといえ、今後はIoT領域における利用拡大にも取り組む考えだ。

 シロシュ コーポレートバイスプレジデントは、「データサイエンティストやソフトウェアエンジニアが、このサービスを活用することで、より効果的なアプリケーションが実現する。メインターゲットは企業内アナリスト。あるいはデータを使い、ソリューションをよりインテリジェントなものにしようと考えているソフトウェアエンジニア」と前置きしながらも、「専門的知識を持った人がいないと活用できないというものではない。私の子供は高校生だが、彼でもそれを使うことができる」とする。

政府の要請でもデータは提供しない

 気になるのは、データのセキュリティに関してだろう。

 Microsoft Azure Machine Learningではクラウドを利用するため、クラウド上に自らのデータをあげるという使い方が標準となる。これに対して、シロシュ コーポレートバイスプレジデントは、「データをどこに置くかということではなく、データをどのように管理するかといったことが大切である」として、クラウド上で利用すること自体には問題がないとする。

 「マイクロソフトには、セキュリティ関連専門の研究者や、管理するプロセスにおいて知見がある。その点では、他社のクラウドサービスよりも進んでいると考えている。私たちの役割は、自分たちのデータをより簡単にクラウドに乗せることができる点を、多くの人に知ってもらうことにある」とする。

 7月14日から、米ワシントンD.C.で開催した米マイクロソフトの「Microsoft Worldwide Partner Conference 2014」の基調講演において、ケビン・ターナーCOOが「マイクロソフトは、米国政府からデータ提供の要請があっても決して提供しない。他の国の政府に対しても同様。訴訟も辞さない」と発言。こうした取り組みも、クラウドビジネスを加速させるという意味では重要だ。データをクラウド上に預けるMicrosoft Azure Machine Learningの普及においても意味があると見解だといえよう。

 「20年に渡るマシンラーニングの研究によって、知見の蓄積とともに、この分野における最高の研究者を有している。進んだアルゴリズムで将来の予測をすることができるのがMicrosoft Azure Machine Learningの特徴。この分野では最先端であり、他社に比べて、少なくとも2年は先行している」と自信をみせる。

 技術面での先行ぶりに加えて、低価格での利用を可能としている点も見逃せない。クラウドでのアナリティクスサービスは世界で唯一とするMicrosoft Azure Machine Learningは、マイクロソフトのクラウドビジネス拡大にとっても重要な意味を持つことになるといえよう。

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