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クラウド時代のSIが生き残るための差別化手段

顧客の前でプロトタイプはできる?新しいSIビジネスはkintoneにあり

2014年06月30日 14時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp イラスト●野崎昌子

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クラウドの登場は、SIビジネスを大きく変えつつある。“箱売り”から“サービス売り”になり、アジャイル型の開発が進んだことで、クライアント/サーバー型のアプリケーションを開発してきたSIはどうなるのか?ある新興SIerの戦いを見ていきたい。

*本記事の内容はあくまでフィクションで、登場人物や会社名などは実際のものではありません。

登場人物

ホウジョウ デスマーチな下請けビジネスに嫌気がさし、中堅SIer水落電算システムを辞め、クラウドとモバイルのインテグレーションを手がけるSIerを立ち上げる。大手小売り販売会社との案件でとコンペになる。

フウマ 会社のIT強化を目的に2008年に入ったブロードバンドネイティブ世代。低コストなWebアプリケーションを導入するプロジェクトを進める中、SalesforceやGoogle Appsなどのクラウドに影響を受ける。外資系へのあこがれがあり、最新の言語やフレームワークをテーマにした開発者・クラウド向けのセミナーによく足を運ぶ。シバタのようなC/S型、手組みのシステムをレガシーとみなすほか、ユーザー部門のリクエストに振り回されず、情シスが主導的にITを牽引すべきと考える。

イマガワ 水落電算システムのプロジェクトマネージャー。システム開発の本質を人数×工数ビジネスと考え、採算度外視のプロジェクトを受注。数多くのシステム開発現場でデスマーチを演出してきた。かつてホウジョウの上司にあたる


新興SIerの社長、kintoneに出会う

 クラウドのインテグレーションとモバイル開発を手がける新興のシステム開発会社を立ち上げたホウジョウは、もともと中堅SIerである水落電算システムのエンジニアとして、受託のシステム開発に携わっていた。

 しかし、水落電算システムは基幹システムの構築を人月単価で行なういわゆるレガシーSIerで、ここでの過酷なプロジェクトに長らく疑問を持っていた。ビジネスの課題が刻々と変化する中で、目先の案件獲得を重視するあまり、あいまいな要件定義をしたまま、プロジェクトがスタート。顧客の求める成果物と、SIerが手がける完成品の間に大きな齟齬が生まれ、仕様変更が次々と行なわれる。結果、プロジェクトが泥沼化し、長時間労働が常態化。結局、わりを食うのは、現場で働いているエンジニアだ。

長時間労働が常態化する受託開発のプロジェクトはいよいよ限界に

 ホウジョウは、短すぎるプロジェクトの納期を勘案し、上司だったイマガワに散々増員を要求したが、聞き入れられることはなく、逆にプロジェクト終了後には、データセンターのコンピューター保守要員にあてがわれた。とにかく長時間コンピューターの動作を眺め続けるという作業で、ホウジョウは体調を壊し、結局水落電算システムを退職。1年の療養を経て、仲間と一緒に新会社を設立する。おもに中小企業のニーズを把握し、開発スピードを最優先にすることで、業績を伸ばしており、最近では大手企業からも声がかかるようになってきた。

 会社設立当時、ちょうど業界を騒がせていたのが、クラウドコンピューティングだ。ネットワーク上のサーバーを従量課金で利用するという新しいサービスの登場に、ホウジョウは大きな期待を持った。そこで、Amazon Web Servicesをいち早く導入し、パートナー契約まで行なった。現在、ほとんどの顧客はAWS上にシステムを構築している。

 こうした中、ここ1年で同社が手がけるようになったのが、サイボウズの「kintone」だ。当初、ホウジョウはWebデータベースをExcelライクなユーザーインターフェイスから使えるこの風変わりなアプリケーションのことをよく知らなかった。しかし、メディアでもけっこう露出が増えているし、「そう言えば、御社ってサイボウズのkintoneの構築や設計ってできないの?」という顧客の問い合わせや相談もあったので、実際触ってみることにした。

使ってはじめて気がついたkintoneの可能性

 使ってしばらく、ホウジョウはkintoneが実現するビジネスの可能性に気がついた。従来Excelで管理していたさまざまなリストをデータベース化したり、Visual Basicで作っていた業務アプリケーションをリプレースしたり、実にさまざまな用途に使えそうだ。今まで別々に用意していた、データベースやフロントエンド、コミュニケーション、ユーザー認証などが、すべて1つになっているので、設計がシンプルだ。ホウジョウは、さっそく最近kintoneを触っているという若手のフウマを呼ぶ。

ホウジョウ:おーい、フウマ!確か君はちょっと前からkintone、触っていたよな。これは面白そうだな。

フウマ:はい。私もExcelでやっている案件管理をメンバー間でうまく共有できないかと思い、試用してみましたが、Excelインポートするだけで、けっこういいのができました。今、ホウジョウさんのアカウントも作ったので、見てください。

kintoneを試用しているフウマとSIビジネスの可能性を模索中

ホウジョウ:おおっ。確かにExcelのような表がWebブラウザで見られるな。検索や絞り込みもできるので、便利だな。

フウマ:登録された各案件をクリックしてください。案件フウマにコメントを挿入できます。だから、営業やエンジニアが案件の進捗を確認するのに最適なんです。kintoneって、「アプリストア」があって、案件管理や日報、交通費管理とか、あとからアプリが追加できるんですよ。モバイルにも対応しているので、いったん作ってしまえば、スマートフォンやタブレットでも使えます。

ホウジョウ:うんうん……って、こんな簡単にいっぱしのアプリケーションができたら、今までのSIerは商売にならんじゃないか! せっかくAWSのインテグレーション以外の飯のタネになると思っていたのに。

フウマ:確かに案件や日報の管理など、お仕着せのアプリケーションであれば、お客さん任せでしょうけど、今までの経験だと、そうはならないですよね。基幹データベースとつないでくれとか、DB間を連携して欲しいとか、DB用のフォームを作ってほしいとか、カスタマイズ以上の開発案件が出てくると思いますよ。

ホウジョウ:なるほど。わかった。今後は試しながらだが、フウマにkintoneの案件を任せよう。まずはセミナーに参加して、情報収集だ。

フウマ:わかりました!

 ということで、フウマはkintoneのセミナーやcybozu.com Conferenceなどのイベントに参加。軽微なカスタマイズやDB設計などを手がけることで、3ヶ月で少しずつ実績を上げていった。当初、開発プラットフォームとして機能が不足していたkintoneもAPIの拡充が進み、他システムとの連携が俄然やりやすくなってきた。

(次ページ、レガシーSIer曰く、「俺のショバに手を出すな!」)


 

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