飯山工場で電源を見守る、品質向上の立役者に直接聞いてみた

マウスコンピューターの電源の“ド安定化”は厳しすぎる品質確認が生み出した

文●林佑樹

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電源ベンダーとの関係が親密になったことで細かい修正が可能に

 マウスコンピューターの飯山工場では、電源ユニットをチェックする人物からお話を伺うことができた。マウスコンピューター開発本部デバイス技術部の黒岩司氏だ。同氏は、電源ユニットを厳密にチェックする「しっかり電源をいじめる」タイプで、マウスコンピューター製PCの電源ユニットすべてを管理。電源品質向上の立役者である。

開発本部デバイス技術部・黒岩司氏。

――電源ユニットは、PCを安定動作させるキモですね。品質の悪い製品を使ってしまうと最悪です。

黒岩: その通りです。電源ユニットを選ぶことは大変重要です。自作PCを楽しんでいる人なら経験はあると思いますが、安いケースに付属している電源ユニットってありますよね、ケース屋なのか電源屋なのかわからないベンダーの電源ユニットです。予算がないからと、こんなケース付属の電源ユニットを使って悲しい思いをしたことはあるんじゃないでしょうか(笑)

――ああ、あります(苦笑)。自作PC市場だと、2010年あたりまで、電源ユニット選びは大変だった記憶があります。安いケースで問題に遭遇したことも多かったですが、高くてもハズれだった経験もあります。

黒岩: そうですね。電源はアナログ回路が多い、ある意味“生き物”なんです。だから、型にはまった設計をすると不良率が上がってしまうんですね。パッと見はリファレンスと変わりないんですが、突き詰めていくと不足がある。さじ加減での設計変更が多いんです。このため、電源ユニットの品質の安定と向上をベンダーに要望しても、ベンダー側の技術的な限界もあったのでしょうが、簡単には受け入れてもらえませんでした。

――だだ要望するだけでは、ダメだったのですね。

黒岩: そこで始めたのが、届いた電源ユニットを徹底的にチェックし、問題の解決方法をベンダーにフィードバックする事です。チェックのためには回路図が必要なのですが、当初はベンダーが提供してくれなかったため、電源ユニットを解析して自分で回路図を描いていたこともあります。

――それまでは、チェックをしていなかったのですか?

黒岩:電源ユニットは安全性に関わるパーツですから、当然チェックはしていました。違うのは、要望を投げるだけでなく、どこを変えれば直るかまで調べ上げ、問題の所在と解決方法を伝えることまで行なった点です。
 たとえば、「このトランジスタの電圧が足りていないから、XXXという仕様の部品に交換すべき」といった内容を伝え続けたのですが、徐々にこちらへの対応は変わってきました。こちらの要望に応えてくれて電源ユニットの品質が上がりましたし、回路図も率先して提供してくれます(笑)。

――マウスコンピューターの製品は以前からレビューをしているのですが、2010年あたりから安定性がよくなったと感じていました。ベンダーの対応が変わってきたのは、このあたりでしょうか。

黒岩: おおむねその時期です。恐らくですが、こちらのフィードバックを元に電源ユニットベンダーは、他社向け製品の品質向上も果たせたのではないでしょうか。助けてもらえれば協力するというのは、日本でも他の国においても、技術者として変わらないことを実感しました。ギブアンドテイクの関係ができあがり、今ではこのベンダーとは良いパートナー関係になっています。

――そうした結果、いまでは品質チェックにあっさり通過する電源ユニットが増えたんでしょうか

黒岩: チェック項目は日々増えていますので、品質チェックでNGとなる電源ユニットは今でも出てきます。他部署からは厳しすぎるんじゃないかと言われるんですが、こだわりを持ち続けないと改善にはつがりませんから。じゃあ実際のチェックの一部を説明しますね。


(次ページ「黒岩氏の電源品質確認環境は自作」へ続く)