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開発者を勢いづけ、カメラ機能を強化し、Macにも波及効果を

WWDC 2014に見るアップルの3つの企み

2014年06月12日 11時00分更新

文● 林信行

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話題のウェアラブル/ヘルスケア商品が抱える問題

 毎年1月開催のCESにしても、日本で開催されるCEATECにしても、最近一番注目を集めている分野が「ウェアラブル」、特に健康管理を支援するヘルスケア系のウェアラブルデバイスで、スマートフォンとも連動可能な製品が、この1〜2年だけでも本当に膨大な数発表されている。

 だが、筆者はスマートフォン連動型のヘルスケア商品(以下、スマートフォン連動型は略して単に「ヘルスケア商品」と書く)が、実用フェーズに入るのはまだまだ先だと思っている。

 ゆうに百種類を上回る大量の製品がすでに発表されているが、そのほとんどは活動量計、つまり歩いたり走ったりした歩数を記録するもので、それに体重/体組成を加えたものが全製品群の8〜9割近くになっている印象がある。

 なかには、寝ている間の動きを記録して睡眠の質を記録するものもあれば、GPSを使って移動の履歴をとれるもの、(実は技術的に難しい)脈拍を計る製品、左右の足にかかる体重のバランスを見るもの、脳波を記録するものや、血糖値の変化をリアルタイムで計るものもある。

糖尿病患者向けの、血糖値の確認用キット「iBGStar」。採血し、血糖値を測定できる

 最近では、米Proteus Digital Health(プロテウス デジタル ヘルス)から、カプセルなどに貼り付け、飲み込むと唾液でスイッチが入り、体内から体内成分の情報を発信し続けるものも出ている(術後経過や薬の効き目を調べる医療用。詳しくは筆者の講演をまとめたイケダハヤト氏のブログを参照してほしい(「リストバンド機器は、このままでは未来がない:林信行氏が語る、今注目すべき「ヘルスケアテック」プレーヤーまとめ」)。

米Proteus Digital Healthが公開している体内に飲み込むタイプのセンサー(イメージ)

 さらに、身に着けることのできない非ウェアラブルのものを加えると血圧計や体温計などもある。ここにスポーツ系製品を加えると、その数はさらに飛躍的に増える。自転車のペダルとホイールにつけて消費運動量や上り坂、下り坂の判定ができるもの、ゴルフのグローブに取り付けてスウィングを3Dで解析できるものもあれば、バスケットボールに内蔵されてシュートの角度やボールの回転数、ドリブルの回数を記録できるもの、テニスラケットに付けるものもある。

 普段の生活では自分が興味がある分野以外の製品はなかなか見ることがないかもしれないが、今の世の中には本当に驚くほど多くのスマホ連動型デバイスが出揃っている。

 こうした溢れんばかりのニーズすべてに、アップルがただ1社で応えるのはおよそ無理で、そのことはアップルもよくわかっている。

 だから、アップルにとってもヘルスケアの問題は(負担の大きい保証の問題もあるし)、基本的には他の会社に任せて共同戦線を張ろうとしているというのが筆者の見立てだ。

 アップル自身では、あまりやり過ぎず、むしろ、その上で自由に他社がイノベーションを起こす土壌だけを提供する。

 あるいは、これまでヘルスケア製品の開発や進化の妨げとなっていたものを取り除いて応援し、他社と一緒になってスマートフォンを使ったヘルスケアというトレンドを築いていくというスタンスだ。

最大の妨げは標準がないこと

 そう考えた際、これまでのヘルスケア商品の発展の最大の妨げは標準がないことだった。

 大半の製品は機能的に似たりよったりでどんぐりの背比べ状態なのに、メーカーごとに使うアプリが分かれていれば、連動するクラウドサービスもメーカー単位でバラバラ。

 この状態では、例えば、他の誰かが記録した活動量に応じたダイエットメニューを表示するアプリを作ろうと思っても、数十種類のウェアラブル製品に対応しなければならず、コストがかかり過ぎてしまう。あるいは、何らかの記録計のデータとスマートフォン連動型体重計のデータを連携させようと思ったら、ウェアラブルリストバンド数十種類とスマホ連動型体重計数種類でテストを行なう必要があり開発が大変すぎる。だから、そうした次の段階のイノベーションも起きない。

 いや、それどころか激しい競争に敗れた会社が製品の開発存続をやめてしまい、自慢のヘルスケア製品が将来のiOSのアップデートに対応できなくなる危険もあり、これはヘルスケア商品全体の印象も下げかねない。

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