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石井英男の『研究室研究所』

この研究者・開発者がスゴイ!――大野修一氏

Gのレコンギスタの舞台“宇宙エレベーター”に惚れ込んだ男

2014年06月11日 11時00分更新

文● 石井英男

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宇宙エレベーターに惚れ込み、宇宙エレベーター協会を設立した大野修一さんにお話を伺った(提供:Space Elevator Visualization Group)

 宇宙エレベーターとは何かご存じだろうか? アニメファンなら、昨年2月に公開された『劇場版 とある魔術の禁書目録 ―エンデュミオンの奇蹟―』や、今年秋に公開予定の富野監督によるガンダム新作『Gのレコンギスタ』を思い浮かべるかもしれない。どちらも、宇宙エレベーターを舞台とした物語である。

 宇宙エレベーター(軌道エレベーターと呼ぶ場合もある)は、その名の通り、地上と宇宙を繋ぐエレベーターであり、ロケットを使わずに、地上から宇宙へ、あるいは逆に宇宙から地上へと、物資や人員を大量に輸送できる新たな手段ともいえる。

 提唱されたのは、今から60年以上も前のことだが、建造には非常に高い強度を持つ材料が必要であるため、長らく実現は夢物語とされていた。しかし1991年、飯島澄男さんが極めて高い強度を持つカーボンナノチューブを発見したことで、理論的には実現可能と言われるようになったのだ。

 今回は、その宇宙エレベーターに惚れ込み、一般社団法人宇宙エレベーター協会を立ち上げ、自ら会長を務めている大野修一さんにスポットを当ててみよう。

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宇宙エレベーターの正体は、超縦長の静止衛星である

大野修一さん。一般社団法人宇宙エレベーター協会会長。技術競技会「SPEC」開催のほか、各種研究機関や団体との情報交換、関連情報の収集・発信に努めている

 宇宙エレベーターという言葉は聞いたことがあっても、どんなものか詳しく知っているという人はそれほど多くないと思われる。そこでまず、大野会長に、宇宙エレベーターとは何か、その概要を訊いてみることにした。

大野 「宇宙エレベーターのアイデア自体はかなり古くて、例えば、パリのエッフェル塔は120年以上前に完成していますが、あれをもっと高く伸ばしていけば、宇宙に行けるだろうという発想がありました。

 宇宙エレベーターに直接つながる話としては、ロシアのアルツターノフという人が、今から50年くらい前に、天のケーブルカーという構想を発表しています。これは、人工衛星からワイヤーを下ろしてきて、それを上っていけば宇宙に行けるだろうというものです。

 そのアイデアを、SF作家のアーサー・C・クラークが知って、自分で計算した結果、静止軌道上にある衛星から常に重心が静止軌道上にあるように上下にワイヤーを伸ばしていけば可能であるという着想を得て、宇宙エレベーターの建設をテーマにした『楽園の泉』というSF小説を書きました。

 静止軌道というのは、赤道上空3万6000km、正確には3万5786kmくらいですが、この軌道上にある人工衛星はちょうど24時間で地球を一周回るので、地上から見るといつも同じ場所にあり、見かけ上は動いていないように見えるんです。

 そこで、いつも同じ所に見えるなら、そこからワイヤーを下ろせば、そのワイヤーを伝って宇宙に行けるというアイデアですね。もちろん、ワイヤーを下に伸ばすだけだと、重心が下にずれて静止しなくなりますから、重心が常に静止軌道上にあるように、反対側にもワイヤーを伸ばしていきます。

 ワイヤーの重さだけ考えると、長さは総計で10万kmにもなりますが、例えば、どこかの小惑星を捕まえてくるとか、国際宇宙ステーションを高い軌道に持ち上げて、カウンターウェイトにすることができれば、長さはもっと短くてすみますが、国際宇宙ステーションを高い軌道に上げるのにかかるエネルギーって凄まじいですから、まずは、ひもだけ持って行って10万kmの長さにしましょうというアイデアが考えられました」

―― これまで宇宙エレベーターは夢物語とされていましたが、それはなぜでしょうか?

宇宙エレベーターの基本的な概念(提供:宇宙エレベーター協会/斉藤茂郎)

大野 「長いうどんを持ち上げていくと、自分の重さで切れてしまいますよね。これは、長いひもを作って垂らしたときに、自分の重さで切れてしまう限界の長さがあるということなんです。これを破断長といい、物質によって決まっています。鋼鉄で30~40kmくらい、カーボン繊維を使っても250kmくらいが限界です。たとえひもを太くしても、それだけ重くなるので切れる長さは変わりません。

 となると、宇宙エレベーターのような、ひもを3万6000kmの高さから下ろしてくるなんてとても無理ですよね。これが、宇宙エレベーターが不可能だとされていた理由です。

 しかし、1991年にNECの飯島澄男さんがカーボンナノチューブという新素材を発見しました。これは、炭素原子が平面上に並んだグラフェンシートを丸めて円筒状にしたような構造の物質で、極めて強度が高く、破断長は数千kmになります。

 数千kmでも宇宙エレベーターの実用には足りないのですが、ワイヤーの太さを一定にするのではなく、中央部分の力がかかるところを太くして、その先に行くにつれて細くしていくテーパー構造を採用すれば、宇宙エレベーターを建造できるという計算結果が出ています。

 これは、アメリカのロスアラモス国立研究所のエドワード博士という方が、NASAから依頼を受けて、宇宙エレベーターの実現可能性を調べた際に試算されたものです」

―― 実際にはどうやって建造するのでしょうか? エレベーターといっても、地上から建てていくわけにはいかないですよね?

大野 「はい、最初は小規模なものから始まるでしょう。規模が小さいというのは、重いものを宇宙まで上げることはできないということです。

 そして地上側のステーションは、赤道を中心とした海の上に置くのが適当だと言われています。なぜかと言えば、完成した宇宙エレベーターは月、太陽、そして諸惑星の重力の影響によって、あっちこっちに引っぱられることになるので、最初は地上側のステーションを大きな船のような形式に作っておき、引っぱられる方向にある程度走っていけるようにすべきとされています。

 実際の建造方法ですが、エドワード博士のレポートでは、まず80tくらいの荷物を低軌道にロケットで打ち上げることから始まります。この荷物には、燃料タンクやロケットエンジン、それから10万km分のハガキくらいの幅で厚さは紙程度、そして中央にいくに従って厚みや幅が増していくようなベルトが巻かれた巨大糸巻きが入っています。

 これを低軌道上で組み立て、ロケットで上に打ち上げつつ、途中からこのベルトを落としていって、地球につなげます。上方向はどんどん伸びていって、地上から10万kmのところで止めます。これで最初の宇宙エレベーターが完成するというプランになっています。

 この最初の宇宙エレベーターは、当初は2tくらいのクライマー(昇降機)を上げられるのですが、その後徐々に補強していくことで大体20tくらいまでグレードアップしていくというのがエドワードプランです。また、さらに補強を施せば、宇宙エレベーターはどんどん規模が大きくなり、より重い物も上げられるようになります。やがては1000tも可能です。

 そしてそのうち地上側のステーションが引っぱられても問題ない強度になるので、海の上ではなく地面の上に固定させることもできます。

 2003年当時のコスト計算では、欧州のアリアンロケットを3~4発使って資材を打ち上げるという話でしたが、現在ではSpece Xのような、低軌道に50t規模を打ち上げられる巨大ロケットの開発も始まっていますので、最初のスケールはもう少し大きく、そして安くなる可能性があると思いますね」

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