PC用のフライシミュレーターより簡単!?
本物のシミュレーターでボーイング777を飛ばしてみた
パイロットが操縦室でなにをしているか? を千の文章でつづってみたところでイメージは伝わらない。そもそもPC用のフライトシミュレーターはそこそこ飛ばせるが、実機だとそんなに難しいのか? 操縦かんはどのぐらいの重さなのか? などわからないことだらけだ。そこで今回特別乗せてもらった777のフライトシミュレーターの感覚をレポートしたい。
まずは模範として、近藤機長による操縦。着陸寸前にウィンドシア(非常に危険な、地上に向かって吹く突風)が発生するというものだ。滑走路に最終アプローチしていると、コンピューターが(予知して)告げる「ウィンドシア」の警告。すぐさまエンジン出力を上げて、着陸履行(ゴーアラウンド)する。と文書で書くと簡単だが、警告が発生してから数十秒の間に、おそらく50個以上の操作を確認していた。
コレ絶対、オレには無理だから(笑)。スイッチ1個探して終わりだから……。
ということで、もう少し簡単な離陸時に2発あるエンジンの1つが止まったというシミュレーションをしてもらうが、これも15秒ぐらいの間に20手順ぐらいあって、真似できそうにない。
結局筆者ができそうなのは、羽田を普通に離陸するというものだ(難易度下がりすぎ!)。エンジンをフルパワーにして、離陸可能速度になったら、4秒ほどかけでゆっくり操縦かんを引く。離陸したら右旋回しつつ上昇するのだが、なに1つまともにできない。おかしい! PC用のシミュレーターなら、スムーズに飛ばせるんだが……。
正確に言うと、ちゃんと空は飛んでいる。飛んでいるが、旅客が乗っていたら、いつもと違う急角度な上昇、いつまでたっても引っ込めないタイヤ脚(ギア)、常軌を逸した急旋回で、客室は相当ざわめいたはずだろう。
PC用とのシミュレーターとの違いは、その臨場感だ。まず窓越しに見える風景は、鏡に映った虚像が見えているようで、ガラスの外に液晶ディスプレーがあるのではなく、もっと遠くの風景として見えるのだ。メガネをかけると巨大なディスプレーが見えるのと同じ原理だ。「窓を上から覗き込むと、地上の風景が見える」というのは、PC用シミュレーターと決定的に違い、距離や高さ感がまったく違う。
意外だったのは操縦かんの重さ。これがかなり重く、パワーステアリングのあまり効かないスポーツカーのハンドル並みに重い。もっと言うと車庫入れのときに、停止してハンドルを切るあの重さ。足元のラダーペダルも重く、足踏みする健康器具を一番軽くした感じの重さで、ムニューという油圧感がある。
さらに目の前にあるディスプレーも、思いのほか小さい。見た感じだと(対角線で)10インチ、表面は反射防止加工されたアンチグレアの液晶ディスプレーだ。解像度はコレも見た目だが、1200×1200ピクセルという感じで、注目すべき数値は太字で表示されているので見やすい。
なによりPC用シミュレーターとの決定的な違いは、視界内にすべてのスイッチが見えないという点。PC用のシミュレーターは、スイッチ類をかなり無理して画面内に収めているので、操縦しやすいのだ。かたや実機は、首を振るとさっきまで見ていたスイッチが、どっかに行っちゃう(笑)。
唯一PC用と近いところは、外に見える風景や町並みだ。実機のシミュレーターでも航空写真を地表にテクスチャーマッピングした(Google Earthな感じ)だけなので立体感はない。しかしランドマークとなるものは、3Dオブジェクトとしてデータを持っているので、見る角度によって見え方が異なる。滑走路からは、3Dオブジェクトのスカイツリーや羽田の赤いスカイアーチがよく見えた。
操縦席の左後ろには、空港や気象条件、アクシデントなどを自由に発生できる試験官の操作パネルがある。パイロットはこのシミュレーターで年に4回行われるテストに合格しないと、乗務資格が剥奪されるのだ。定年まで試験、試験の繰り返しなのは、ちょっとイヤかも? さらに年に1回、実際に飛行しながらの審査と、身体検査もあり2ヵ月に1度はテストしているという感じだ。
今回は操縦中の撮影を行なうため、モーション(シミュレーターを傾けてGも体感できる)はOFFにしていたが、それでも全視界に外の景色が映るので、Gを感じているような錯覚に陥る。もしモーションをONにしていたら、傾いたコクピットの中で操縦かんを操作しなければならず、さらに難易度が上がるのは言うまでもないだろう。
(→次ページヘ続く 「お金さえあれば個人でもシミュレーターを買える?」)